第27話 サンダーストライク
「それで、我々を拘束して祭さんはどうするつもりなんですか?まさか何も考えていないというわけではありませんよね」
黒塚は言う。
「ここから出たい奴を自由にする。それに村のみんなに本当のことを伝える。お前らは大橋村のみんなを利用している。それが許せない。ここに残りたい奴らはお前らで勝手に山で生きてろ!」
祭は言い放った。
「明日香、早くここから出よう。今度こそ東京に帰ろう」
その言葉を聞き私はうれしくなる。これでようやくすべて終わるのだ。祭の失踪も母を縛り付けていた呪縛も。すべてなくなるのだ。祭のほうを向く。
祭の後ろで影が動く。人影だ。私が何か口にするより早くその人は”引き金を引いた”。
銃声が鳴る。祭の隣にいた片方の男が胸から血を吹き出しながら倒れる。もう一人の男が、刀を祭の胸に突き刺す。
「え?」
情けない声を出した祭は前のめりに倒れこむ。私は何も反応できなかった。黒塚に両手を押さえ込まれるまれる。
「祭。貴様が何か企んでいたのは聞いていたさ。我らは何世紀もの間、共に過ごしていたのだ。貴様のような若造の思い付きでどうにかできるわけがなかろう」
「そんな......」
祭は苦しそうに言う。彼女から流れる血が止まらない。私は抑えられていて何もできなかった。
「黒塚、時間稼ぎご苦労」
銃を撃った人物が建物のなかに入り、松明の光を浴び姿が見える。
幸三おじいさんだった。幸三おじいさんは私の知る幸三おじいさんのままで頭に角は出ていなかった。
「どうして!こいつらはおじいさんを道具としか思っていない。なんで助けるの!」
私は叫ぶ。
「何でって言われおってもなあ。むかしから、わしらはそうしおってからに。別に変なことあらへんやろ」
淡々とそう言った。幸三おじいさんは無理やりやらされている。そういう雰囲気はなかった。
「それで村のほうは?」
黒塚が幸三おじいさんに聞く。
「大吾と理恵子がやっとるわ。夏樹もそのガキんちょも殺しちまったが、ええんよな?あの年でも痣出えへんし村から出よういっとったもんな」
「ああ、それでいい。明日香、お前の言う事は正しい。私も街に出ることはある。ここ100年の情報技術の発展は目まぐるしいものだ。ここもいずれ見つかる。お前の言うとおりだ。だから、お前たちを始末するついでに大橋村の役目を終わりにする」
今こいつらはなんて言った?夏樹さんを?その子供たちを殺した?しかもついでだと?こいつらは、化け物だと今心の中で理解した。
正体がわからないわけではない。決して無敵なわけではない。こいつらは化け物の考え方をしているんだ。そして安心した。私はこいつらとは違う。こいつらのように私は化け物じゃない。村のほうでも化け物どもは動いているようだ。このままじゃ浜野達の身が危ない。
だが私の体は拘束されている。祭も倒れており立ち上がれる様子はない。祭が拘束したという大社のもの達も梨沙が解放しているようだった刻一刻と状況は悪くなる。目のまえにいるものが、ただの人間であっても状況は変わらないだろう。それぐらいの窮地だった。
その時、轟音と閃光が走った。
「なんだ!」
黒塚が叫ぶ。
「屋敷のほうに雷が落ちた!火がついているぞ!」
「雲一つもないぞ!どうなってやがる」
誰かの声が聞こえる。
「おばあ様!」
黒塚が叫び建物の外に飛び出す。
私の拘束が解ける。
私はすぐに祭に駆け寄る。祭の腕を肩に回して担ぐようにして駆けていく。
「女どもが逃げるぞ!」
誰かがそう叫んだ。
「祭、逃げるよ!」
静かに祭はうなずいた。祭は何とか走れはするようだった。だが出血が止まる様子はない。このままでは死んでしまう。
走るときポケットに違和感を感じる。お守りだった。今更である。意味があるかわからないが巾着の紐を引く。ぴぃとネズミのつぶれたような音がした。それだけだった。何の役にも立たない。
私がいた建物は神社のようであった。周りにも何軒か木造の建物がある。森の中に作られた集落であった。いや、ここは山だ。眼下にお屋敷が燃えているのが見える。どこに逃げればいいかの目印になった。木々を抜け逃げようとする。
「追いかけろ!」
黒塚と思われる男の声がする。
祭に肩をかしながら私は走る。山の中で足場が非常に悪かったが、高校時代に陸上部にいたときのいつよりも早く走れているように感じた。ただ祭への負担がかかっているのは確かだった。汗をものすごく掻いているしどんどんと顔色が悪くなっている気がした。
「祭、絶対に帰るよ!ディオール、おごってもらうんだから」
祭は静かに微笑んだ。
ふっと何かが横を通り過ぎる。木に矢が刺さっている。そのすぐ後に銃声が鳴る。咄嗟に身をかがめ(音を聞いてからだと意味はないと思うが反射的なものであった)すぐにどこか硬いものに当たる音がした。後ろからの追手がどんどんと近づいてきた。
屋敷まではあと少しだ。屋敷についた火はどんどんと雑草などをつたって村全体に広がり始めていた。私達が山から降りる時には山にも火の手が届きつつあった。祭も出血が止まらないこともありすでに私たちは走れなくなっていた。
だが火の手よりも早く追手が迫りつつあった。私たちの後ろにいる男が掛け声とともに刀を振り下ろすのを感じた。
万事休すか。
白い影が目の前を通過する。幽霊のような、あるいは白虎か。あまりの速さで何かはわからないがそれは村に広がる炎を反射してもいた。そして私たちの後ろで金属がぶつかり合う音がした。
「明日香!ごめん遅くなった!」
そこにいたのは真夜だった。その手には1.5メートル程の見たことのない文字の刻まれた西洋剣を持っていた。
前方には眼帯を外した浜野がいた。
そうだここからが本番だ。
絶対に私は祭を連れてここから帰ってみせる。




