第24話 逢魔が時
屋敷に戻って昼食をとってから私は放心状態だった。痣を見られてしまった。だが、確か祭は大社の奴らに見つかるなといっていたはずだ。大社とは何だろうか?大吾さんが大社の連中と関係しているとは限らない。今できる事は、大吾さんが関係ないと祈ることと何かあった際に自分を守れるようにすることだった。といっても長袖に着替え部屋から出ず、渡されたお守りを肌身離さず持っていることくらいであった。
ほどなくして真夜が帰ってきた。放心状態の私を見て何かあったと察したようだった。
事のあらましを覚えている限り説明した。
「なるほど、なるほど。明日香氏、それはしくじりましたねぇ。とはいえ明日香の言う通りにできる対策なんてたかが知れてるのがなぁ。やっぱり可能な限り私から離れないことと、お守りを持っておくことくらいしかできないかな。でもまあプライバシーは守ってほしい年頃でしょうし?つらいとは思うけどそこは我慢ということでお願い」
とのことだった。
そこから私は真夜と部屋の中でずっと過ごしていた。インターネットがつながることが救いであった。SNS、ネットサーフィン、動画視聴。いくらでも時間をつぶす方法はあった。せっかくの里帰りであったが、もう私にとってこの地は帰る場所ではなく恐怖の対象となっていた。
そんな風に時間をつぶしているうちに夕食の匂いが漂ってきた。明日には帰れる。この地から離れられる。そう思うと気が晴れる気がした。ここから無事に帰れる。”私”は。じゃあ、祭は?
そう祭だ。私だけ無事に帰っても意味がない!
「真夜さん違う。違うよ!私が無事に帰れても意味がない!祭も!」
そういう私をなだめるように言う。
「わかってる。わかってるから。そこで清水さんには大事な話があります」
真夜は小学生に先生が言い聞かせるように言った。
「祭ちゃんを連れて帰るにはまだ少しピースが足りない感じなの。浜野もさっき見た感じ蔵の片づけを手伝わされちゃってるようだったし。だから、今夜。最後に私たちに調査する時間をください。本当は一緒にいたほうがいいのだけども祭ちゃんを助けるにはこうするしかないの。調査に一緒に来てもらうってのはもっと危険だからなし。だから明日香一人で待っててもらうことになる」
「それは、それだと私が危険じゃないの?」
「そうね。でも一緒に来るよりはそっちのほうが安全だね。だから何かあったらお守りの紐を引いて。すぐに助けに行く。あと車の鍵も渡しておく。免許はないだろうけど、オートマ車だから。ギアをパーキングから、ドライブに変えるのはわかるよね?ライトのつけ方は?うんあってる。この辺は対向車もいないだろうし。もしも何かあったときは一人で逃げて」
真夜はそう言った。
「祭を助けるにはこれしかないんですよね」
「そうだね。明日香だけ帰すならいくらでもやれるんだけども」
「わかりました」
私は決意を固めた。
「よしじゃあ、腹ごしらえに行こう!もうおなかペコペコ!」
今までのシリアスモードはどこにやら。真夜の後を歩き大広間に向かった。
「この鹿肉おいしいね」
という私の言葉に
「せやろ?私も好物やわ。明日香は明日帰るんやろ。また寂しなるわ」
おばあ様が返す。
今後のことを考えたときの緊張が出ているためか会話は少なかった。
真夜の見立て通り浜野はろくに情報を得られなかったようだった。
お風呂に入った後、真夜と浜野は屋敷を抜け出していった。私は彼らが祭を連れ戻す手だてを見つけられることを祈るだけだった。
部屋にこもっているとふすまを叩く音がする。
「明日香?ええか西やけど。幸三じいがなあ。なんか話したいことあるって家の前に来るよう呼んどったわ。なんでも千代ねえの死の真相を伝えたいっていっとったわ。ねえちゃん、脳腫瘍やろ。今更なに話したいんかわからんわ。もう耄碌したんちゃうわな?年でもう次会えるかわからんから帰る前に伝えたいゆーとったわ。まあ伝言はしたで?」
西おじさんはそういうと部屋から離れていった。
母の死の真相?西おじさんの言うように脳腫瘍だと聞いている。医者が父に伝えているのも聞いた。それに真相も何もないじゃないか。
「この村何かおかしくないですか?」
笹見さんの言葉がリフレインする。まさか、母の死も村の何かに関係しているのだろうか?
幸三おじいさんの息子大吾に痣を見られたところである聞きに行っていいものか。私は心配になった。これは罠かもしれない。だが母の死だ。何も聞かないわけにはいかなかった。
私は、外に出る。外の風は真夏にも関わらず冷たかった。幸三おじいさんの家の前に人影がある。おじいさんが私を待っているようだった。お守りは持っている。車のカギもある。財布とスマホとともにポケットに入れたためズボンはパンパンだった。
もしなにかまずければ車に駆けこめばいい。それに祭は言っていた、私も連れていかれるって。なら、いきなり殺そうとしてくることはないだろう。ならば何とでもできる。相手は老人である。
心配を胸に幸三おじいさんに近づく。家の前の空間に机といすがあり幸三おじいさんはコーヒーを飲みながら待っていた。
「幸三おじいさん?お母さんの死の真相って何?」
「話せばなごうなる。寒いやろこれでも飲み」
魔法瓶に入ったコーヒーをコップに注ぎながら私に渡す。昔、星を祭と見ているときいつもこうやってコーヒーを用意してくれていた。
「ありがとう」
私は受け取り、口に入れた。どこにでもある懐かしいインスタントコーヒーの味がした。
「千代の死因はな」
幸三おじいさんが話す。緊張からか言葉がスローに聞こえてくる。
「ただの脳腫瘍じゃよ」
私は立っていられなかった。
コーヒーに何か盛られている。
それに気づいたときにはすでに手遅れだった。




