第22話 村の噂
「聞いていると思うのですが、私は東京で西さんと出会って。別に東京生まれ東京育ちってわけじゃないんです。どちらかといってルーツは埼玉でってそういうことはどうでもいいですよね。
明日香さんは幼い頃に東京に行ったと聞いています。だからわかると思うんですけど、この村、おかしくないですか?これはさっきも言いましたね。すみません。
ええっと、そうだ。明日香さんが連れてきた2人って大学生じゃないですよね?いや、別に何か探ろうってわけじゃなくて。雰囲気で。都会にいたことあるならだれでもわかりますよ。ほらここの人ってほとんどずっと村にいるから。だから気づかれていないと思います。私も別に誰かに伝えてないですし。理由、あるでしょうから。
昨晩明日香さんお参りについて聞いていたじゃないですか。参加したことあります?」
「無いです。その時は幼かったので」
「そうですか。私は何回かあります。半年に一回のペースなんですよねお参り。村人全員大広間に集まって、そこで一番年をとっている者が祝詞を読む。
多分祝詞だと思います。念仏ではないかな?念仏ならおばあちゃんが読んでいたので雰囲気でわかるけどそういうのではなかったから。そんな感じなんです。内容は多分日本語なんですけど、何というか聞きにくくって。あれです。まるで古文を読み聞かせられているような。でもおかしいんですよ。村の全員が集まるって話なんですけど実際に集まるのはごく一部というか。かな恵さんとか大吾さん、梨沙さんが来たことは一度もないんです。あとおばあ様も。
西に聞いたんですけど、痣無しがお屋敷で集まるのが風習だって言ってて。詳しく聞いたんですけど痣がない人は痣なし。痣がないならそれ以上何もあらへんっていうんですよ。気になりますよね。でもそれについては聞き出せなくて。
でも気づいたことがあるんです。お参りの時ってお山のほうからかすかに音楽が聞こえるんですよ。新年に厄除け大師とかで聞くようなやつです。初めは祝詞で聞こえなかったんですけどよく耳を澄ませると聞こえました。
あと、明日香さんっておばあ様の名前わかります?」
「え?」
私にとっておばあ様はおばあ様だった。母も村のみんなそう呼んでいた。思い返してもその名前を思い出すことができなかった。
「わからないでしょう。そうだと思いました。いや、明日香さんがおかしいんじゃないんですよ。村のみんなに聞いて回ったんです。でも誰も知らなかったんです。これっておかしくないですか。ほら、この村で一番偉いのはおばあ様じゃないですか。それ自体は特に変だとは思いません。どこの地域でもあることだと思うんです。でもその人の名前を誰も知らないっていうのはおかしいと思いませんか?
ああ、そうだ。痣。痣について思い出したことがあります。三枝ちゃんと大樹くん、夏樹さんのお子さんです。幸三さんも十三郎さんも言うんですよ。痣が出るとええなって。おかしくないですか?痣ってうれしいものじゃないじゃないですか。でもめでたいものみたいにこの村の人たちは扱ってて。気味が悪いなあって。正直思いますよ。
それから大橋の血筋の人。いやに血筋にこだわっていて、お参り以外にも集まりがあるみたいなんですよね。それも不気味だと感じます。ほら、男が集まってならどこでもあると思いますよ?西日本は少ないですけど男性中心社会ってのはどこでも残ってますから。でも緑郎さんも呼ばれないみたいで。どうも血筋の人にしか伝えない何か、あるみたいなんです。
そして最後、長くなってごめんなさい。ここの人たちって結婚するとき絶対に村に住もうって言ってるみたいなんですよ。西だけかと思ってたんですけど、緑郎さんもそう言われたみたいで。夏樹さんは村から出たいみたいですけどね。村の人らは引き留めてるみたいなんです。嫁いだ身で言うのはどうかと思うけどねぇ。不気味で不気味でたまらんちゅう感じで」
まくしたてるように笹見さんは語った。
私はそのどれにも、まったく気づいていなかった。周りのことをあまり見れていなかったのかもしれない。あるいは、村にいた当時幼すぎて未熟だったのかもしれない。または、父と村を出たことで、この風習から逃げきれたからか。これらのいずれかかすべてなのだろう。
笹見さんの話を聞き、私はこの地を恐ろしく感じ始めていた。その風習をではない。私や母が何も気にすることなくこの地で暮らしていたからだ。
正直に言うとここから出て、東京に暮らすようになって良かったと私は考えた。これまで感じていた望郷の気持ちはすっかりと消えてしまったのだ。
笹見さんはすべて思っていることを話してくれた。私も隠していることを伝えようかと思うが口を閉ざす。きっとそれは祭と笹見さんの身に危険を及ぼす。そう感じたのだ。祭の両親を殺した奴がこの村にかかわっているのである。どこで誰が何を企んでいるかわからない。
今となっては村のみんなが知らない誰かにとって変わっているように感じた。
「笹見さん、気持ちはわかります。何だろう。どう声をかけていいかわからないな。」
「いいんです。この思いを共有できただけで。聞いてくれてありがとうございます。なんだかすっきりした気がします」
笹見さんは頭を下げた。




