第17話 大橋村へ②
8月20日東京駅で待っていると二人が来たのはすぐにわかった。まあ、眼帯男と巫女服女を見つけられないほうがどうかしているだろう。
浜野はリュックサックとボストンバッグという日程にしては多めのまさに旅行客といった荷物であったが真夜は大きな楽器ケースを背負っているだけだった。
「ええっとそれは?」
さすがに気になって聞いてしまう。
「まあ気にしないで~」
話をはぐらかす気満々の言い方をされたため深く聞くことはできなかった。
真夜が浜野と新幹線に手荷物検査が無くて良かったなどの話をしていたが聞かなかったことにする。こんな、オカルト女の持ち物でトラブルに巻き込まれたくない。
父には、帰省をすると伝えている。
「大学に入って環境が変わり、バイトもサークルも忙しかっただろうから田舎のきれいな空気を吸ってリラックスしてきな。お土産はいらないからおばあ様によろしくと伝えておいて」
とのことだ。
母の死後、大橋村は外から婿入りしてきた父からするとあまりいい環境ではなかったはずだ。おばあ様はある程度融通をきかせてくれていたが、結局はよそ者扱いになってしまった。それが、私が今御茶ノ水にいるわけだが。それでも挨拶をしようとする父からは母への愛を感じた。結局いまだに再婚していないのは母への義理なんだと私は思う。
改札を通る前にお土産を買ったほうが選べるものが多いという浜野からのアドバイスを受けて、どこのデパートにもありそうな東京銘菓を買い新幹線に乗る。
東京から京都までの間、私と2人が別の列であったため特に話すこともなく時間は過ぎていった。
京都駅に着き、事前に予約を入れていたらしいレンタカー屋さんに行き、少し手続きを済ませた後、車に乗り込む。家族連れが乗るようなコンパクトカーであった。
「すみません。真夜さん運転を任せちゃって」
「いいよ、いいよ。きにしないで~。浜野だっていつも私に運転まかせっきりだもん」
どこかぎこちない動作でエンジンをかけながら真夜は答えた。普段使いしている車は左ハンドルのためやりにくいと言っていたがそれが原因だろう。
新幹線の中ではお互い無言でスマホで音楽を聞きながら時間を過ごしていたが車の中となると無言でいるのは何か変だと思った。
「浜野さんと真夜さんって一緒に仕事をするようになって長いんですか?」
「まあ、それなりには?美佐さんっていう浜野の師匠の遺言でね。面倒見るように言われて。初めは今よりもツンツンしていたんだよ~?この子」
真夜が懐かしむように話す。
「浜野が探偵事務所を継いで1か月経ったくらいの時だっけ?片腕骨折してボロボロになりながら力を貸してくれって言ってきたときは驚いたよ」
「やめてくれ。恥ずかしい」
見た目ではそう年は離れていなさそうに見えるが、話を聞く感じでは真夜は浜野よりある程度年上のようだった。
「それってやっぱり、化け物関係なんですか?」
私は恐る恐る聞いた。浜野は当たり前のように祭の失踪だけでなく坂上夫妻の殺人事件の調査をしているが本来の探偵業務から大きく離れている事は私にもわかる。フィクションと違ってもっと地味なものだ。アニメや漫画のようにそうそう骨折するような危険に直面しないだろう。
「そうそう。前も言ったけど私、渡辺綱っていう人の末裔でね。ほら、この先にある橋で鬼の腕を切り落としたって伝説がある人」
真夜が指を指しながら話を続ける。
「正確には、色々分家とか血筋的にはあったんだけども、その中の一つの家がそのご先祖様の功績みたいに化け物退治を生業にしたわけ。まあ、あの時は陰陽師とかが政府の役人として徴用されていた時代ですからな。今よりそういうのが身近にあったわけ。その仕事をついで化け物退治を生業にって感じですねぇ。といっても京都の本家とはやり方が違うんだけどね。本家は全日本大祓連盟っていう陰陽寮の意志を継ぐ組織がってまあそこは小難しい政治の話ですな」
自分には想像のつかないようなことを真夜は話していた。
「こういう事って浜野さんいっぱい経験してきたんですか?」
気になっていた。私は今までオバケも妖怪も見たことがなかった。確かに暗闇に気配を感じるとか心霊番組を父が見ているのを一緒に見たりすることはあったが本物と呼べる体験はなかった。
「まあ、この仕事をしてるとたまにな。まあ普通に暮らしているうえだと清水さんみたいに出会わないと思うよ。それっぽい現象はあるけど大抵は理屈と現代科学で説明できる。ホンモノなんてごく一部だよ」
助手席に乗る浜野はそう言って煙草を咥えた。
「ちょっと!レンタカーで煙草吸うのはさすがにイカレてるでしょ!」
真夜の怒号が飛ぶ。
「僕が吸ってるのはただの煙草じゃない。魔除けもかねて......」
「そう言う事じゃないでしょうが」
真夜に怒られしぶしぶと煙草をしまっていた。この人も年相応な反応をするんだ。少しかわいいなと思った。
「そう言えば、明日香と祭ちゃんってどんな関係だったの?」
真夜が聞いてきた。大体のなれそめとよく遊んでいたことを話した。
「祭ってば、経済学部なのに計算が苦手なんです。でも、ゲーム理論が面白いから楽しいとか言って。変わってるでしょ?あと、あれです。散財癖があって。スタバもコスメの新作も毎回買って。経済学部なのにって思うでしょ。曰く、消費こそ最も簡単な社会参画だって言い訳に使ってました」
「何それ面白!でも気持ち、わかるかもなあ。誰かが頑張って作ったものは買ってあげなきゃかわいそうって思うかも」
「真夜さんも祭派なんですか?浜野さんはどうです?」
女子トークに巻き込まれた浜野はビックリしたかのように見えた。というよりも実際に跳ね上がっていたかもしれない。
「僕は、貨幣経済について語れる段階にないな。師匠曰く貨幣こそが人類史において最も大規模かつ邪悪で身近に溶け込んでいる魔術とのことだけど」
「こいつ、いつもこんな感じなの。明日香ぁ、変わってるでしょ?」
真夜の言う通りだ。探偵浜野の謎めいたベールがはがれていく気がした。
「祭ちゃん無事だといいね」
ルームミラー越しに後部座席の私を見ながら言った真夜の言葉に私はうなずいた。
車で話していくうちになんとなくお互いのことがわかってきた。浜野は意外にも年相応の感覚を持っている。しかし、あまり自分のことを話すのが得意ではないようだ。しかし、色々なことを知っているし面白い話もたくさんした。あと物事を無駄に深く観察してるように感じた。探偵ならではの職業病もありそうだ。
真夜は、風貌に見合わず流行を追いかけているタイプのようだ。年齢はわからないが今の大学生と感性が大きく違わないように感じる。それでいて、浜野と同じくらいかあるいはそれ以上に物知りだった。それから、運転がとても上手い。それなりにスピードを出す運転だが一切揺れや怖さを感じることはなかった。
そうして団欒をしていくうちに大橋村の入り口についた。
村の目の前の道路に残ったタイヤ痕をさして前に襲われたときに残したやつと笑いながら真夜に言われた時には少しビビったが特に何事もなくたどり着くことができた。
祭、待っていてね。ようやく追いつけるよ
「と―ちゃく。今回は何もなくてよかったねえ」
浜野は眼帯を触りながら森を見ていた。




