第14話 ソミールと探偵
私はカラオケオール(正しくは少し寝たのでオールではなかったが)ののち始発で家に帰った。ただいまとあいさつをして新聞と清水修一郎、つまり父宛ての保険だか電気会社からの手紙がポストに入っていたのでリビングの机において自室に入る。
朝が早い父は朝食を取っており手紙を受け取った。
父は高校の頃は厳しかったが大学に入ってからは信じられないほど放任主義に変わった。そのためたまに朝帰りしても何も言ってくることはなかった。父曰く自分で自分の責任を取れる歳になったからだという。それでも、何かあったときは早めに相談しろと厳しく言い聞かせてきた。
部屋にギターを置き数時間寝てからデカデンティア探偵事務所に向かった。日が変わってから食事を取っていなかったが探偵事務所の下にカフェがあることを覚えていたので早めに向かいそこで食事を取ろうと考えていた。
営業日時を確認していなかったので休みだったらいやだなと思いながら向かったがカフェ「ソミール」は営業していた。
ソミール店内は、純喫茶を思わせる見事に調度品がそろえられた空間だった。中には客が1人もおらず店員と思われる女性が一人本を読んでいた。
「いらっしゃい。好きな席にどうぞ~」
窓際の2人用の席に座るとメニューとコーヒーを持ってきた。
「あの、まだ注文していないんですけど」
「ただのサービスよ。良い豆が手に入ったの」
「えっと、ありがとうございます」
良い豆が入ったのなら猶更お金を取るべきじゃないかと思ってメニューに目を向けた。
「おすすめはカレーよ」
悩んでいる私を見て店員は勧めてきた。
「じゃあそれで」
注文を聞き次第店員はカウンタ-の奥に行く。カウンター裏に調理スペースがあるようだ。
コーヒーを飲んでみると少し酸っぱさを感じるような珍しい味がした。
「お姉さんってゆっきーのところの依頼人さんでしょう?」
カウンターからそう声をかけてくる。
「ゆっきーとは?」
「ほら、上で探偵してる浜野貫之。貫之だからゆっきー」
「なるほど、まあそうですけどもどうして私のこと知ってるんですか?」
「ほら、ゆっきーのとこ閑古鳥が鳴いてるからさ。ここから階段上る人は大体覚えられちゃうのよ」
それはそれで、カフェのほうもお客さんが来ていないから見てられるのではないか。そう思ったが口に出さないでいた。
「ゆっきーちゃんと探偵らしいこと出来てる?」
「今まで探偵なんかに依頼したことないのでそれは何とも。でも色々調べてくれている見たいです。浜野さんとは知り合いなんですか?」
「うん、ゆっきーの前にデカデンティア探偵事務所を運営していた人がいわゆる私の恩人でね。恩人の後継者ってことで目をかけてるってわけ」
デカデンティア探偵事務所に前任がいたのは知らなかった。しかし、浜野があの年であそこまで立派な事務所を構えているのは不自然なので前任がいるのは不思議なことではないだろう。
「それで、その人は今何を?」
「死んじゃった。仕事ができる人だったんだけどね」
しまった、あまり聞くべきではないことを聞いてしまったようだ。
「それは、ごめんなさいご愁傷様です。優秀な探偵さんだったんですね」
「うーんそれはどうなのかしら。あの人の本業が探偵だったのかは何とも言えないわね」
要領の得ない回答だった。そんなことを言いながらカレーを席に運んできた。
一口食べたが確かにおいしかった。
「その人って探偵じゃなかったんですか?探偵として助けてもらったから恩人ってわけではないのですか?」
「うーん、あの人が一番の功績として語っていたのは日本で一番値段の高い木彫りのクマを探す依頼のことだけども」
「彼女、美佐さんの本業はうん、そうね、化け物退治よ」
化け物退治、普通に生きていると聞くことがない言葉だ。
「まあ、お祓いみたいなものよ。そんなことより聞いて、ゆっきーこの前京都に行ったのにお土産くれなかったのよ。信じられない」
お祓いと聞くとなじみのある言葉に聞こえる。つまり、心霊商法みたいなことをしていたのだろう。あの浜野という探偵は本当に信用していいのか不安になってきた。
「ゆっきー、最近一生懸命仕事に取り組んでいるから、お姉さんの依頼も解決するといいわね」
店員さんはそう言った。
カレーを食べ終わる時、ちょうど3時になる前であった。会計を済ませ、階段を上り探偵事務所に私は向かった。




