第10話 下見へ
8月13日午前11時ごろ、僕は早めの昼食をソミールで取っていた。
「ゆっきー、京都に行くの?お土産って期待していいの?」
この時間の店にはいつも僕しかいない。暇を持て余している店長が声をかけてくる。これは毎度恒例のお土産買って来いという圧である。
「あくまで仕事で行くだけで、旅行じゃないですからね」
「ゆっきーのけち」
店長が頬を膨らませて文句を言ってくる。
その時、店の前に大きなエンジン音を鳴らして赤のスポーツカーが止まる。
「真夜さん来たね」
「みたいですね。じゃあ会計をお願いします」
「良いよツケで。というより、テナント料から差し引いて♡」
「それ意味あります?」
こうしてカフェでの支払いをテナント料から差し引くことはままあることであった。といっても正確な金額は覚えていないので(正しくは僕が面倒くさがってメモをしていないだけだが)多めに差し引いているのであった。
店を出ると、すぐ前に車が停めてあった。赤色の車体に黒のストライプが入っている車だ。シボレーのカマロだとかいうらしい。映画トランスフォーマ-とやらで活躍したと真夜は言っていたが僕は見ていないので、でかいアメ車くらいの感覚だった。
運転席には肩にかかるほどの白髪をポニーテールにして巫女服を着た女性が乗っていた。
名前は渡辺真夜である。
後部座席には、大きなコントラバスケースが載っていた。シートベルトを締める様子を見て真夜は車を出した。
「真夜、急に連絡して悪かった。それで昨日も仕事だったんだろ?今日は本当に大丈夫なのか?」
「んー?まあ、大丈夫。仕事といっても小さなものだったしね。八王子の地下街に”何か”出るって話だったからそれの対応だったし。」
「何が出たんだ?」
「さあ?浜野と違って分析は得意じゃないからねぇ私は。オバケだったんじゃない?多分。パパっとやっつけておしまいよ」
真夜は師匠のつてで知り合った千代田区の端っこにある鷺丸神社の宮司である。たまにこうしてお祓いなどいわゆる化け物退治をしている。
「それで、おとといの電話を聞く感じ今回もやばそうなの?」
真夜は目配せして聞いてきた。僕は、坂上夫妻殺人事件のような人の手では起こりえない案件が起きたとき真夜の助けを借りている。
「まあな。多分人を素手でいとも簡単に殺せるようなやつを追ってるんだ」
「それくらいなら、現役だったころ具志堅用高もできそうじゃない?」
「ボディーブローで体を貫通させられると思うか?」
「わーお、それはザ・ワールドでもなきゃ無理だね」
「ザ・ワールド?」
「まじか。浜野、ジョジョの奇妙な冒険も知らないの?」
「最近アニメでやってたやつか。見てはいないよ悪かったな」
真夜は僕と違い流行を追うタイプなのでこうして話が合わないときがある。
「それで、何の仕事を受けたらそんな化け物としょっちゅう遭遇するわけよ。私としては悪い話じゃないんだけどさ」
「ただの大学生の失踪事件だよ。追ってるうちに失踪した大学生の両親が正体不明のバケモンに襲われちまった」
「なるほどね。それがいそうな場所が今回の目的地ってことか」
「そう大橋村だ。失踪した女子大生と依頼主の故郷だな」
そんなことを話しているうちに車は高速道路に入っていた。
「大橋村、ね。一応渡辺本家にも確認を取ったけど何も記録はないってさ。京都だし何か”いる”なら伝わっててもいいと思うけど」
「情報なんてものは伝えたいものしか外に広がらないものだよ。インターネットと同じさ」
「そんなもんなのかねえ。昔から情報には飛びつくのが人間のサガな気もするけど」
僕が今回の調査で得た情報を可能な限り真夜に伝えた。途中でサービスエリアで食事などを済ませて東京、京都間移動中の話題としては足りなかったため途中から雑談となっていた。
「それで、最近ようやく最後のジェダイを見てさ。去年忙しくて見に行けなかったやつ。スターウォーズのエピソード8」
真夜がお互いの近況を話す流れで言い出した。
「面白かった?」
「うーん、ネットでは批判的な意見が多いよねやっぱり。作りたい絵というものは確かに伝わるしきれいなんだけどもね。話の掛け合い自体もよくある映画みたいな流れだけどもスターウォーズでそれを見たかったかっていうとね?ほら、味方の登場人物が基本的に面倒ごとばかり起こすんだよ。ヘイト役っていうのかな?とにかく不快なわけ。でもそれは1つの側面であっていい側面もあるよーって内容なんだけど。それってつまり、ジョージ・ルーカスが監督していた時のフォースのライトサイド、ダークサイドとして扱えばいいことでわざわざ物語上の構造を無駄にわかりにくくしてるんだよね。
それに、世代交代がテーマなんだけどさ?今までの古い考えは全部捨てて新しくしましょうって感じなの。なんか過去作の登場人物を新キャラに変えたいだけに見えちゃってね。やっぱり世代交代っていうのは継承ってことが一番大事だと私は思うわけですよ。古臭いものは伝統として語り継ぐものの引き継がず。いいところはもっと良くする。それが世代交代だし古今東西行われてきたものなんだと思うんだけどね」
スターウォーズのことは全く知らないが世代交代に対する考えについては同意できるところがあった。僕にとっての師匠がまさにそれなのだから。真夜のスターウォーズ評はハイパードライブ特攻がどうだなど、その後も少し続いた。
いつの間にか2人は京都に着いていた。空の端では夕焼け色が見える。
「どうする?いったんどこかに泊まる?」
「いや、このまま行こう」
「了解」
「レッツゴー」という真夜の掛け声とともに僕らは進んでいった。




