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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
19.

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第91話 切断

 そう、おかしな話ではないのだ。

 枸櫞が神社姫を取り戻したことで、因果律は上書きされた。

 ならば、元の枸櫞の時間から、テルクを介して死人が呼び戻されることだって――だけれど。

 雉鞍は驚愕する。


「あれが弐号機だと!

 珊瑚くん、覚醒していたのか!?」


 すでに十号機からの三機が対応し、その間に負傷した翼を闢が介抱している。

 砂浜から浅瀬にかけて、白い三騎と紅い単騎が対峙していた。

 猿田彦が苛立たし気に、


『よりにも、あのふたりがいない時を狙って!

 また那戯のやつか』

「いや、なにかがおかしい。

 ならば枸櫞くんが言っていた、白錫さんや護斗くんはどうしていない?」

『あ――確かに』

「ふたりが戻ってくるまで場を持たせる、手伝ってくれ!」

『仕方ないな、浮島!

 やれそうか!』

『ふたりとも、気を付けて。周辺の警戒も忘れずに』


(とは言ったものの――)


 厄介なのは、紅珊瑚の特性だ。

 あれはフィールドを陸海構わず一律に侵蝕して、いや?


「二人とも、陸の方に誘い込むんだ!

 砂はともかく、地層や岩盤が固ければ、珊瑚の侵蝕も停滞するかもしれない!」

『その案、ありかもな』『乗るわ、うん』


(僕にできるのは、敵の動きを見切ること、だけ。

 あれを相手して、勝てないにしても――、枸櫞くんへの恩返しぐらいは、働いてやらないと!)


*


「戦っている?

 弐号機と、それに雉さんが岩山のほうに誘導しているのか。

 ふたりとも」


 シトラが頷いて、枸櫞は可音の腕を掴むと砂浜へ跳躍する。


「なにを、いまどうやって」


 可音に空間跳躍の理屈を説いている暇はなく、どころか翼が目の前に、血まみれで倒れている。


「見事に、足首をやられましたか」

「――、斬るのを手伝え。

 斧の幅が足らない」

「い゛」


 可音が声を上げる。流石に申し訳なさそうな顔をしているが、血を見るのは苦手らしい。


「まぁ、仕方ないですね。

 闢くん、きみは犬吠埼先輩を支援して。

 僕は後から行くつもりだが、珊瑚くんの珊瑚くんを飽和するなら、きみのミサイルを浴びせて火力で叩き出すのが早い。

 遠慮する必要はないぞ、いまの珊瑚くんなら、その次にはネーレイスの力で対処してくるはずだ。向こうの目的と手札を暴かないと」


 この前、八岐級の一部を吸収していたはず。今の彼なら、それぐらいは活用できてしまうだろう。


「ですけど、翼さんが――」

「俺の方で、なんとかする。

 行ってくれ」


 枸櫞の視線には、有無を言わせないものがあった。

 闢は大人しく指示に従う。

 そうして砂地には、二人だけが残った。翼が呟く。


「――、思念武器と同じか」


 枸櫞はマスターキーの幅をヤヲ因子の効果で強引に拡張し、それは白い石灰質のナニカに変質している。


「太腿の付け根でいきます、麻酔ないんで、気張ってください」

「わかってる。日頃の鬱憤を晴らす、いい機会じゃないか」

「くだらない……ちょうど薪があったから使います」


 枸櫞は足首を押さえつけ、彼の足首を砂地で両断し、患部を焼いて止血する。

 あらかじめ近くにあったタオルとヤヲ因子を定着させることで、それを強引に補強した。

 そういえば、シトラがいない。

 八号機に戻ったようだが、


「無理もない、結局あれは、幼い子供だ」

「――、しばらくそのままで。

 医療キットを人形から持ってきますよ」

「……おう」


 見てくれから失血が激しい。輸血を考えなければならないが、調度できるだろうか。

 本当にこれを、珊瑚くんがやったのか?

 彼の性格なら、あり得ないことではないけれど。

 これに那戯が関わっているのかも、判然としない。

 目的が公然としている以上、艦隊単位の物量で包囲殲滅、が定石だろうし。先が思いやられる。今度は珊瑚くんを、共鳴者たちに殺せと。


(冗談じゃ、ない。

 珊瑚くんに、誰も傷つけさせて、堪るか)


*


「すいません枸櫞さん、逃げられました」

「――」


 枸櫞はその報告を受けて、内心ほっとしたまであるが、表情は複雑だった。嫌なやつとはいえ、翼の足が喪われたのは、よくないことだ。これが仮にほかの面子だったとしても、申し訳が立たない。


「……これ、一度テルクから現世に戻るべきだと想う」


 可音の提案は、尤ものことだった。


「負傷した翼くんに、治療を受けさせないといけないし、私ら全員、那戯を相手に万全とは言えないでしょう?

 復活した珊瑚くんの動機も読めないとなると、どのみちジリ貧だよ」

「わかりました」


 枸櫞は納得していた。


「こちらで十三号機に、ヤヲ因子を補給します。

 八号機以外は、それで帰れるはずです。

 美岬嬢はまだテルクにいるはずですから、交叉先輩と理事長たちに接触することを優先してください」

「枸櫞くんは、どうするつもり?」

「珊瑚くんがもう一度やってくるとき、ケジメをつけるのは《《俺》》です。やらせてくれませんか」

「だけど、この先いつ私らがこっちに来れるかだって決めてないのに」

「――、最初は独りでも、やるつもりでしたから」


 実際、枸櫞はヤヲ因子さえ現地で調達できれば、経戦は可能だ。


「ならば俺も遺る」


 雉鞍に肩を借りる翼が言うと、みなぞっとした。


「その足でなにができるってんだ!?

 壱号機も持ってかれたままだろう」


 ところで枸櫞が言った。


「伏馬先輩には、次来るとき、十三号機をまた導いてもらわないと」

「――、俺にそれを求めるのか?」

「ほかに誰がいるんです」


 翼はやれやれと肩を竦める。


「すぐに戻ってきてやる、お前を倒しにな」

「いつでもどうぞ……」


 探査組が首をかしげる。ふたりの折り合いが悪いのはうすうす察していたが、殺し合いに発展したところまでは話せていないし、仕方ない。


「犬吠埼先輩、戻ると決めたら、なるはやでお願いします。

 シトラと僕はいつでもやれますけど、珊瑚くんが復活した手前、ほかふたりが同じようなことになってたら、――流石に覚醒済み含む共鳴者三人相手とか、手に負えませんから」

「うん。気を付けてね、天充くん。

 私たち誰も、きみがこっちで戦い続けてること、忘れられないだろうから」

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