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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
18.

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第89話 帰ってきた

「説明は省いたけど、あいつの衛星には、テルクのあらゆる座標を計測する機能が盛り込まれていたの。

 地形や気象は言わずもがな、因果律を含む、あらゆる情報を――これで奴はしばらくの間、迂闊に因果を書き換えたりできないはずよ。枸櫞が因果律の眼、と呼んでいたものだけれど……、那戯もまったく同じ名前で呼んでたわ、不思議ね」

「いうほど、でもない」


 枸櫞はあっけらかんとしている。


「……あいつのことは許せないけど、あいつの虚無感の正体は、なんとなくわかるんだ。

 あいつは元々、才能を持っていたし、総てを手にしていたに等しい。実際、ヤヲ因子による復活まで手に入れたわけだし。

 あいつは無意識のうち家族が欲しくて、美岬を造ったんだろう、愛したかったからじゃない、自分には人並みの関係が培えると証明し、顕示したかった。

 だけどあいつは、造物主の座から降りられない。

 神に等しくは成れても、王や人の統治者にはならない――だから、排除しなければならない」

「――、大変だったね」


 姉はまた、枸櫞を優しく抱き寄せる。


「……枸櫞、私また、ちょっと眠るね」

「姉さん?」

「その代わり、枸櫞がずっと待ってた子が、帰ってくる」

「――」


 因果律の眼を壊したことで、艦隊が沈黙した。

 同時に……変化が起きている。


「く、えん?」

「シトラ?

 シトラ、なんだよな」


 姉が眠ると、それは幼い童女の姿に置き換わる。

 ついに、シトラが帰ってきた。


「うん!

 シトラ、くえん、いっぱい頑張ってくれたの、覚えてるよ」

「――、ありがとう」


 そこへ、闢が口を開く。


『それで、あとは。

 泉客那戯を倒して、美岬姉さんを助けるんですか』

「そう、なるかな」

『少なくとも、シトラは戻ってきてくれたんですから。

 大丈夫ですよ、枸櫞さん。

 きっと、枸櫞さんと俺の元居た時間に戻れます、から』

「あぁ……そうだな」


 元居た時間へ戻ることは、前提として。

 シトラを取り戻した代わり、檸檬が眠りについてしまった。きっとテルクでなら、またいつでも会えるけれど、寂しいものは寂しい。――本当にこれで、いいんだろうか?


(ただ元の時間へ戻るだけで、済ませるのか……)


 翼が言った。


『やつの倒し方は考えているのか?』

「ネーレイスを分解する、例の力です。

 威力は衛星の破壊で証明できてますし、今度、那戯の意識が表出する場所におびき出して、やつと美岬嬢、ヤヲ因子の繋がりそもそもを断ちます。

 あいつには個とか、本体と呼ばしい概念が現状ないに等しいですから――意識の在りかを固定しないといけない」


 戸惑っているのは、可音だった。


『おびき出す、ってどう……』

「それをこれから考えるんです。

 一向にセドナの行方は掴めませんし、まずはまた小休止ですかね」


 海上へ上がると、すでに艦隊がいない。


『撤退、したのか?』

「としか見えませんが、一回また、さっきの陸へ行きましょう」


*


「……思えばテルクで、大陸ってものにかち合ったことがないんですよね。

 ネーレイスが出るたび、色んな座標へ飛ばされますけれど」

『のわり、先史文明の遺構は地形を問わずに遭遇する。

 ネーレイスや鮫人が、先史文明に関わるものであるのなら、それらを彼らが造ったというのも、あながち間違いじゃないんでしょう』


 可音の言葉に、枸櫞は頷くが、


「こんなだだっぴろい海の星で、セドナなんてどう探すってんだか――」

『焦ってもしょうがないでしょう。

 那戯が永らく探して補足できない以上、私たちが下手に動いて接触しようとすれば、そのほうがあいつの計画を早めてしまう可能性だってある』

「犬吠埼先輩は、どう思うんです。

 テルクの王権だとか、なんとかって。

 バトルロイヤルに本気ってわけでもないんでしょう?」

『私の場合はまぁ……この海の王になれたところで、ネーレイスを必要としていないから』

「――」


 陸に上がると、みなが砂浜に降りて、顔合わせをする。

 枸櫞はまず、可音と握手することになった。


「ねぇ、女装とかしたことある?

 ほんとに檸檬ちゃんそっくり――」

「あはは、よく言われます」


 最後に女装したのは、あの男をテルクで処分した日になるが、そんなことを話す必要も理由もない。

 それとさっきから、シトラが結構きつく、首に巻き付いている。


「ぎゅうううう」

「……よしよし、どうしたんだシトラ」


 可音に対して、妙にあたりが強い。


「安心して、シトラちゃんの枸櫞くんを盗ったりしないから」

「なんか、すいません」

「いいのいいの、こうして生きてまた話せるだけ、私らとしても感謝してるんだから」

「先輩。さっき言ってたこと、お聞きしたいんですけど。

 ネーレイスを必要としないって、どういう――」

「そのままの意味だけど。

 シトラちゃんを前に言っていいかはわからないけど……世の中、大切な人やものを喪うなんて、それが必然のことなのに、ひとは無力な自分を恥じて、その人らなりに欠落を埋めようとするでしょう?

 そのとき、テルクやネーレイスと言った、超常の力を欲するのは、過酷な事実をまえに、そうでもなければ補えないから。

 私はヤヲ因子を得て、鮫人に乗ってからも、そこまで差し迫ったものに見舞われなかった。それだけなんだよ、きっと。

 ただまぁ、現世に残してきた、父さんたちのことは心配だけど」

「――、そう、ですね」


 そんなもの、なのかもしれない。

 そして四人の家族の顛末についても、枸櫞はよく知っていた。

 いなくなった四人を待って、いまも懸命に生きている。

 鮫人に関することに協力してくれなくなったけれど、責任は軍と泉客グループにあることだ。


「探査の時、あなたたちの身に、なにがあったか。

 聞かせてもらっていいですか?」

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