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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
18.

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第88話 チェインドライヴ・海

 乾坤一擲、という言葉はこのためにあるようなものだった。

 幸いにも海坊主は贅力こそあっても、機動力のあるネーレイスではない。気づいたところで、海中からの槍の一閃を回避する力はなかった。

 海上の様子を、闢たちはよく見ていた。ミサイルによる硝煙の充満する中で、黒の異形は、唄わせるためにまた神社姫を表出させている。天候を操る力は、神社姫に由来したものだ。

 海坊主のネーレイスは、単体では本来、嵐のなかにしか留まれないが、神社姫と融合されたことで、広域への移動を可能した。


「槍に、ネーレイスを壊す力を与えた?」

「……のようだな」


 ちょうど海坊主と黒い神社姫の間を削って、貫通していく。


「闢くん、あとは無理に海上のものへ手を出さなくていい、こちらへ来るミサイル群を飽和して、全員海中へ移動しろ」

『本気なの、翼くん』

「おそらく、悪天候はどうにかなるはずです。

 艦隊がまだ去らないなら、八号機との合流を優先しましょう」


*


 枸櫞は海中に落ちてきた黒い神社姫を抱きとめる。


「――、姉さん?」

「――」


 気絶するそれを抱いたまま、巡洋艦群の魚雷群を、戦輪で牽制するが、徐々に押されていた。


「泡も収まってないのに。

 哨戒機、だけじゃないな――こちらの座標を、なにかが補足している……那戯なら、たぶん」


 テルクの軌道上に、そういうものを仕掛けているんじゃないか、人工衛星とか?


『八号機!

 天充くん、無事なの!?』

「犬吠埼さん――えぇ!

 皆さんに手伝って欲しいことがあるんです!」

『言って!』

「追っ手を撒くんです!

 海中から、大陸の偵察機とそれもう一個、狙撃しないと」

『海中から狙撃?

 できるの、そんなこと!』


 八号機は黒い神社姫の首筋に食らいつく。

 最初のときのよう、すべてを貪る必要はなく、朱桃の身にそれは静かになじんでいく。だが、


(やはりまだ、シトラじゃない)


 この前、那戯が言った通りに――、


『その神社姫じんじゃひめは、シュラインノーブルであってシトラではない。きみが童女と培った無為な時間を、その異形は持たないのだと』




 ただ神社姫を奪い返すだけでは、足らない。

 彼女シトラとの時間を取り戻す、最後の一欠片ピースが。


「安心して、枸櫞。

 あなたは誰の弟だと想っているの?」


 最初に反応したのは翼、続けて犬吠埼。


『まさか、いるのか?』

『え、あ――いたの?』


 探査組は天充檸檬の事件や死について、聞かされる時間もなかったので、仕方のないことだ。だが、彼女は確かにいま、ここにいた。


「姉、さん……」


 艶めかしい肢体を弟のまえに惜しみなく晒して、その女は――


「那戯の野望を砕く、最大の機会が巡ってきたわね。

 枸櫞、あなたの考えている通り、奴はテルクの北半球軌道に人工衛星を打ち上げている。それも、傀儡のネーレイスをもとにした、ね」

「――、姉さん!」

「おっと!」


 枸櫞は声を出さずに泣いていた。姉をまたいつぶりかに抱きすくめて、戦闘すら一瞬忘れかけて。


「まだやることがあるでしょう?」「うん……」


 彼女は枸櫞の頭を撫でた。


「シトラたちを取り戻す、俺たちの奪われたもの、すべて!」

「……というわけで、可音、久しぶり。

 細かいのはあとにして、追っ手を潰すよ。

 みんな手伝ってちょうだい」

『うん、私にできることなら!』

「思念武器の形質を、枸櫞に委ねて――軌道上の衛星の座標は、私に任せて。

 簡単に言うと、巡行ミサイルをふたつ用意する」


 翼もすぐに要領を得たらしい。


『こちらの位置を再度特定されて攻撃される前に、ふたつを同時に撃ち落とす、そういうことか、天充』

「あの、こっちには二人いるんですが」

「あーうん、会ってるからいいよもう。

 枸櫞、集中して」

「うーっす……」


 その場に集う六機分の思念武器を、二つの弾頭に再構成し、片方は大型になった。


『あっさり造りましたね、枸櫞さん?』

「調子がいいんだ、さっきから」

『普段よりこちらも、身体が軽い。

八号機がやっているのか?』


 前に珊瑚たちと連携したときも、このように力が溢れる一幕があったけれど、また同じような感覚に見舞われている。ひとつの目的のために、共鳴者たちの感覚が繋がった。――さしずめチェインドライヴ、とでも呼ばしきか。


「いやまぁ、ロケットの打ち上げは漢の浪漫じゃん?」

『にしては経緯が殺伐としすぎてますけどね』


 闢少年は呆れていた。

 雉鞍も、思念武器の再構成には積極的に協力した。


『……天充くん、いや枸櫞くん。

 偵察機の照準は、俺にやらせてくれないか?

 昔から、目がいいのくらいしか取り柄がない』

「構いませんけど、海中からですよ?」


 翼が言う。


『問題ないはずだ。

 雉さんは海をある程度透視できる、鮫人を通じた千里眼といったところか。代わりに近接戦は心もとないが……』

「そいつはいま、助かります」


 ついでに、猿田彦が名乗りを上げた。


『そちらの発射時、角度の固定は俺が手伝うよ。

 残りは周辺警戒に十三号機、それ以外の全員で、軌道上衛星を狙ったほうがいい――にしても凄いな、枸櫞くん、これだけやって、まだ泡を制御できるのかい?』

「ジャンク弄りは好きなので」

『???』

「……冗談です」


 伝わらないものだな、ジャンカーの血が騒ぐとかそういうの。


(そも基本構造が頭に入ってなければできもしない、ミサイルを短時間で平然と構築するのよね、まいぶらざー、ぶらぼー)


 まぁ、メタンを操る能力とかいう地味に使い勝手のいいモノありましたし、普通はこの手の燃料には使いにくいんだけれど、ヤヲ因子で温度操作すれば、テルクの海中にあるメタンハイドレートをほぼそのまま搭載することが可能だって気づいてしまったんですよね……どうせ今回限りの即席ですし、おすし。


「わざわざ念話使うほどか。

 流石に本来から、構造は色々そぎ落としちゃってるけど、こっちの座標は姉さんと俺でやればいいし、テルクの気候は、こっから俺たちの味方だろう、姉さんいるんだから――皆様、一発きりです、心してくださいね。

 これで外せば、どうにもなりません」

「枸櫞、がんば!」

「あーがと、姉さん、一緒にやろう」

「これって実質、ケーキ入刀では?

 初めての共同作業!」

「自重っ!?」


 枸櫞と姉の関係を切り込むのも今更野暮ということで、みなが五からカウントを始めている。


「三、二、一……ぶっ跳べぇえええええええ!!!!!」

『墜ちろぉおおおおお!!!!!』


 八号機と十一号機の点火と同時に、大小のミサイルが海面へ向けて進み始めた。

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