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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
18.

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第86話 有段者?

 枸櫞は十号機との近接戦を避けて、海底を後退していく。


「いや、慣れてるけどさ。

 こっちだって連戦で疲れてるのに……」


 那戯に対抗する切り札は得た、次は龍宮探査失踪組との信頼関係の構築?

 浮島が共鳴者の病理よろしく、魔性に狂った可能性もなくはないが――そういう線ではないだろうと、枸櫞は見ていた。ならなんなのだ、ってところをこの戦闘で明らかにしていきたい。


「そんなに死に急ぐんでしたら、もう一度地獄を見せて差し上げましょうか」


 八号機が開口し、海水を喰らう。

 まだこの辺りには、討伐したナマズの異形の因子くらい漂っているかもしれない。ネーレイスが天充枸櫞へ従属するというなら、いまはあの力が欲しい。

 枸櫞の思惑通り、突進する十号機の進路上にメタンの泡が吹き上がって、その足を奪う。


『だが――!』

「ほぉ、流石に対応してきますね。

 で、この戦い、落としどころは見えているんです?

 殺すまでがお望みなら、そのようにしますが」


 十号機の向けた鎌の先端から、波動が発する。


(覚醒もしていない鮫人が?)


 海底の砂を巻き上げて、一度攪乱を試みるが、その波動に相殺された。


「ええと……」


 どうしような、これ。

 近接戦はある程度こなせるようになってきたけれど、練度だけで言えば、向こうは濱田先輩とそう変わらないくらいの場数はこなしているはず。

 接近して間合いに入られると、こちらとしたら本当に手加減ができなくなるんだけど。


(海中で波動を操る以上、何らかの異能なんだけど。

 たまにいるんだよな、真に発達した極技は、異能と見分けがつかない、というか――)


 その道を極めた者には、超常なんてなかろうと、到達できる高みがあったりするものだし、それらは体験を通してしか凡俗との違いが分からないことも、往々にしてある。


「……あぁ、詰んだ?」

『なにがだ?』


 ある種の縮地、海中という制約を無視したような動きで、次の瞬間には目と鼻の先で振りかぶられている。

 いやダメだろ、最終盤にこういうバケモノじみたやつ投入されるの!?

 那戯との決着を残したまま、ここで俺が負けるわけに――


「っの――」


 枸櫞は捨て身を択び、その場に直立する。

 十号機の鎌は、八号機の背中に届き――直後、思念武器が分解された。

 妖竜が枸櫞の意図とは関係なく、何かしたらしい。

 ぶっちゃけ戦闘に限っては、神社姫シトラより信頼がおけるまである。


「――、先輩、なにかしらの有段者だったりしますよね?」

『なんだ、翼から聞いていなかったか。

 この状況で捨て身を取れる度胸は大したものだが、こうなることを見越していたのか?』

「いいえ、それはないです。思念武器がかき消えるのは、僕の意図ではなかったですし。

 まぁ、相打ちは覚悟してましたけど」

『……らしいな』


 直後、十号機の四肢関節にひびが入って砕け落ちる。


(微細な泡で最初の迎撃時、関節を潰しておいたが、普通に肉薄された。

 やっぱり俺、近接戦は不得手なんだよなぁ)


「本当にその鮫人、覚醒していないんですか?」

『あぁ、これまで一度も』

「……大人しく戻りましょう。それから、犬吠埼先輩たちに謝ってください、驚かせたんだから」

『全部、きみの言うとおりにしよう』



 それから龍宮塔のなかで、ヤヲ因子を用いて十号機の四肢を繋ぎ直した。


『俺は嫌だよ。手伝えない、戦えない』


 そう言ったのは十一号機の雉鞍だ。


『せっかく助けてもらっておいて、悪いとは思うよ。

 けど……もうテルクの海にいるだけで、気が狂いそうだ。

 みんなだって、違うのかよ!?

 どれだけ時間が経ったかさえ、わからないのに……俺、帰りたい。

 帰りたいだけなんだよ――!』


 枸櫞はそんな彼に、


「その願いはすぐ叶います。

 事実、ネーレイスの中から出られたでしょう?

 あなたたちは充分戦ったし、それを言う権利だってある。

 ここに美岬嬢がいても、同じことを言ったでしょう」

『――、ごめん、俺、弱くて……』


 寧ろ、あなたみたいなのが一人でもいないほうが、俺としたら困っていた。以前は珊瑚くんが主にそういう感じではあったけれど。

 そこへ、浮島が言う。


『聞かせてくれ、枸櫞くん。

 きみの考えるところを。

 翼やきみの狙い通り、那戯を倒したところで、本当に問題は解決するのか?

 神社姫を取り戻せば、本当にすべて、元通りになるのか。

 正直な、危惧しているんだ。

 きみの時間軸が選択されるとすれば、いま俺たちがこうして語らっていたこと自体、なかったことになってしまうんじゃないかって――』

「そうですか。

 まぁ、懸念はごもっともですし、そもそれ、僕が言ったところで信頼に足るかは別ですよね。

 《《俺》》がシトラたちと出会って紡いできた時間は、あなたらの培ってきた時間とイコールじゃないんですから。

 ……全部、取り戻すつもりでいます」

『きみの持つ、ネーレイスの力で?』

「――、ええ。

 皆さんがネーレイスの力を扱うことに、抵抗があるのはわからないでもありません」

『いや、それについてはもう、結論は出ている』

「?」

『感謝しているよ、きみの力がなければ、僕らが翼とこうして再び話す日も巡ってはこなかったろうから』


 そこで一旦言葉を切ってから、彼は続ける。


『問題は那戯の性格なら、俺たちがテルクにいるうち仕留めようとするってことだ』

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