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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
17.切り札

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第83話 ナマズとメタン

「個体識別――九から十二までが、統合されている?」

『探査組の機体。ネーレイスに乗っ取られたか、それとも那戯か。

 ということは』


 そうして塔の外側に現れた、鮫人は――また見るも無惨な異形に吸われ果てている。


『介錯してやるしか、あるまいて』

「簡単に言ってくれますね、あんただって、同胞だったはずだ」

『もしほかの手があるなら、八号機の権能でもなんでも使ってやってみせればいい。

 但し、俺たちを巻き込むなよ。闢少年まで可能性のとばっちりを受けては、あんまりだ。

 ここからは、まごついている猶予などない。俺たちは、人の命を預かっているはずだ』

「――、ごもっとも」


 素直じゃねぇな。まぁこの男の妥協点は、必然そうなるんだろう。人の手で人のままに、ネーレイスを倒すことに固執した男が、ネーレイスの力に頼る僕を利用しようと言うのだから、それでも大した進捗かもしれない。


「軽くスキャンしてみましたが、体表面からは共鳴者の生体反応は取れませんね……」


 異形全体もおおよそ四十度台の熱源なので、サーモグラフィーでもほぼ判別ができない。

 枸櫞はさっそく、八号機で海中を突き進んでいく。

 人形の足首のひれが稼働して泡を散らし、迎撃を巧みに躱していた。


(そう。今ならこの身体の使い方が、よくわかる)


 連戦と護斗たちに揉まれてきたのは、実際無駄ではなく、枸櫞を王である前にひとりの戦士として成熟させつつあった。


「さぁ、先達様方のお手並み、見せていただきましょうか」


*


 そういえば前に、シトラが言っていた。

 ネーレイスは食事をしない、と。

 水子級のようなものは、元来異端なのだ。

 じゃあ、海坊主に取り込まれた神社姫は?

 それにいま、目の前にいる異形は?


 海坊主については、水子を研究して得られた融合体だとして、いま目の前にいるやつは――もし那戯にかかわりがあるモノなら、すでにやつは現れているはずだ、海の中かどうかなんて、いまのあいつには関係ないんだから。


「なにあの、どでかいナマズ頭は?」


 海中だったが、足元からの振動が感じられた。

 直後、海の底から無数の気泡が膨れ上がり、そこいらに散らばった残骸を押し上げていく。


「泡――」


 いやな予感がして、十三号機よ龍宮塔のなかに退避する。


『枸櫞さん!

 あの泡、メタンガスです!?』

「テルクの海中に、メタンハイドレートでもあるって?」


 そういえばバミューダ・トライアングルでの沈没船の一説に、そのようなのが一時議論されてたって話があったが、そういう場所だってなら、確かにうってつけの材料かもしれない。


「地震ナマズにメタンハイドレートって。

 まだ海底火山のほうが絵面に説得力ありそうだが」

『呑気なことを言っている場合か、泡がオブジェクトを押し上げていく以上、こちらも下手に身動きが取れない。

 このまま泡が収まるまで、龍宮塔を出ないつもりか?』

「おっしゃる通りで。

 ――、ダメですね、海流が支配できない。

 あれはやはり、神社姫ありきの力だったか」


 八号機は泡の方へ手を翳し、途中であきらめる。

 あれさえあれば、これもすぐに解消できたはずなのに。


『つーか、あれ鮫人を取り込んでいる意味あるんです?

 あれたぶん、ネーレイス固有の能力ですよね、元々の。

 海底のメタンハイドレートを刺激する能力なのか、単に地を震わせて、結果そうなっているのか』


 闢くんが尤もな疑問を突き付ける。

 そこへ翼が横から訊く。


『きみ、あれと会敵したのは初めてじゃないだろう』

『ここの探査のことを言っていますか。

 こうしてやりあうのは、初です。前は傍から見ているしかなかったですし。

 龍宮塔を捜してたのはそうでしたけど、最初は四機が海上を滑走していたはずです。

 後れをとったとき海中に居たってことは、メタンの気泡で、足場を崩されて引きずり込まれていても、おかしくないと想います』

『うむ。沈没理論で浮力を奪われるのか。

 脚の生えたナマズ自身は、海底をそのまま歩いてこっちへ向かっているということは』

「えぇ、自身の能力の影響は受けてないんでしょう。

 メタンの気泡そのものを操っている可能性が高い、か。

 シトラ……」


 枸櫞が湿っぽくなっていると、また翼が言う。


『いない子供の力をあてにするな。

 それでいま、お前の切れる手札はなんだ?』

「っ、――」


 正論なので言い返してもしょうがないが、やっぱりこいつ、配慮とかないんだよなぁ……。


(俺にできること。

 シトラはいなくとも、メリュジーヌの力はある。

 ネーレイスの力、それと泡で膠着する戦況を覆せる可能性があるとしたら、俺自身が鮫人から引き出す異能)


「そうでしたね。ここいらで、はっきりさせないと」


 首輪、戦輪、それはあくまで思念武器の一部でしかなく、異能と呼べるほどでもない。

 じゃあ、鮫人の真価は?


(姉さん、シトラ。俺はどう唄えばいい。

 テルクの王、ネーレイスを供することから生じる異能は、俺の持ち物じゃないんだ――だから)


 いま、天充枸櫞という己自身を問われている。


「俺が、テルクの王だってんなら……」

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