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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
16.滂沱の異形

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第78話 命を吸い上げて

 気づけば十三号機の姿も消えている。


「……転移した、このタイミングで?」


 浜にひとり残った那戯は、黒の異形に厳しい視線を向けた。


「十三号機まで――こいつは」


*


 この哀しみは、僕のもののようでいて、そうじゃない。

 神社姫のもの。

 最後に聞こえた、拒絶の言葉――それから身体を、どこかに吸われた感覚があった。いつもの空間転移と同じものだ。


(これは、僕の記憶じゃない。だったら)


 さっきも、妙な幻惑を見せられた。

 いや、神社姫の捕食とシトラを欠かした、この時間軸における、そのような追想だったことはわかっている。あのときは戦闘中だから、それに構っている余裕なんてなかったけど――たしか、そのあととなると。


*


 伏馬翼との決裂は、あっさり訪れた。


「なぜ珊瑚くんを殺した、仲間じゃないのか」

「お前こそ、久原女史を一体どこへやったんだか」


 そう、僕の手はとうに血に汚れている。

 証拠はなくとも五号機の件に前後してのことだ、疑われない方が難しいだろう。


「お前が人魚の魔性に染まると言うなら、その時は俺がお前を殺してやる。よく覚えておくんだな」

「――」


 短い時間ながら、珊瑚くんは出会ってすぐの僕を慕ってくれていた。

 悪く想えるはずがない。

 奴が立ち去って、発令所内には美岬が残っていた。


「鮫人との戦闘で、よくあるのか。

 こういうことは」

「いいえ。本当に、いつぶりか……ネーレイスにやられるならともかく。

 いずれにせよ、伏馬先輩の動きは牽制するつもり。

 人形が覚醒しよう矢先でそのたびほいほい潰されてたんじゃ、共鳴者の命がいくつあっても足らないわ。

 珊瑚くんのことも、湾内で暴れさえしなければ――できることなら、助けてあげたかった、けど」


 枸櫞は嘆息する。テルクでの戦闘を、軽く考えていたわけじゃない。

 だけど、共鳴者が立て続けに死んでいくいま、自分がそうならないわけじゃない。その重みを、改めて考えなくてはならないだろう。

 そうなったとき、僕は――


(姉さんと生きてきた時間のなにを……この世界に遺して、逝けるんだろう?)


 そんなもの、なにもなかったんだとしても、ふと考えてしまう。

 姉さんの復讐は、必ず果たす。というか、この際は前倒してもいい。

 どうせもう、二人殺しているんだ。

 手段なんてどうだっていい、あの男たちを、地獄へ道連れにしてやらなくては――僕が今を生きる意味が、なくなってしまうから。



「殺した?

 記者と、例のふたり――」

「それから全員、都内で沈めてきた。

 それでも死体が上がるなら、そん時はそん時だね……」

「それって――」

「足が付いたかは、わからない。

 どのみち最初から、やるつもりだった。

 きみの提案は、成就しても実行までが遅すぎる、それだけ。

 大丈夫、鮫人には乗るよ。どうせほかに、やることもないし」

「ごめん、なさい」

「なにを謝っている?」

「きみがそんなに、思い詰めてたって、わからなくて」

「バカらしい」

「復讐が終わったなら、どうしてまだ、私に協力してくれるの」

「君の所にいると、うまい汁が吸えるから。

 自分でもわかってるだろう」


 結局何人殺したところで、警察の捜査の手が僕に伸びなかったのは、僕の手口が上手かったというより、湾内の認識阻害が、間接的に僕にまつわる人間の生死や捜査を攪乱していたということだろう。

 共鳴者という立場も、なんだかんだと便利だった。



「朝桐くんも久原さんもいなくなって、紅嘴くんまで……」


 琉稀さんは、最近の欠員に不穏なものを覚えるらしい。

 《《仕方のないこと》》だった。


「私は翼くんにまで、あんな風になってほしくない」

「自分のことばかりですね。

 あなたも、あの人も」

「ごめん……でも、最近はネーレイスの出現の頻度もおかしい。

 あなたに頼むしか、ない」

「どうせなら、正直に言ったらどうでしょう。僕のせいで、朝桐君たちはいなくなったんじゃないかって」


 彼女は呆然と僕を見ていた。それから、


「きみに関わった人、みんないなくなってる。

 まるできみが――人の命を、吸い上げていくよう」

「!」


 そう言い残し、あの人は背を向けた。

 それがあの人を見た、最期の……



「大丈夫、天充くん?

 顔色が優れないけれど」

「――」


 美岬が教室で、声をかけてきた。

 今更、また他人行儀なふりをする。案じているのは本当だろうけど、この女だって、結局は自分のことしか考えていない。


「美岬さんこそ、平気なの。

 白錫先輩が、やられたばかりだろう。

 理事長も、これだけの犠牲が出ては、流石に何事かと口喧しいんじゃないか?」

「それは……まぁ」


 この女も、よくわからん。歯切れが悪いと想えば、


「お父様、この前倒れたの」

「なに?」

「私が手を下すまでもなく、心労が祟っているみたい。

 張り合いのない人よね、ほんと。

 だけど――ネーレイスはこの先も現れる、必ず。

 あなたの力、貸してくれるよね、天充くん?」


 元々、そういうきらいはあった。だけれど、今度のことで、枸櫞は確信――少なくともそれに近しいもの――は得た気がする。


「美岬さんが必死なのは、わかってる」


 付き人だった護斗を亡くして、何食わぬ顔をしていながら、堪えているのも事実だろう。だけどこの女は、自分に求められる役割に徹するしかない。兄の死が彼女をそのように規定して、縛ってしまったのかもしらないが。……まぁ、この女が自滅しようと言うなら、そのさまを見届けるくらいの甲斐性は、誰かが担ってやっていいのかもしれない。

 この女も結局、僕を利用するだけだと、わかっちゃいるのだけど。


 その日の夜、僕は美岬の部屋へ招かれた。

 互いの契約に甘え、依存するほかに、できることなど、今更。

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