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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
16.滂沱の異形

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第76話 妬いて

 海坊主のなかの神社姫が、妖竜の翼を視た途端、急激に顔を歪め、叫び始めた。威嚇――


「姉さん、シトラ。いっちょまえに妬いてくれるのか?

 家族冥利に尽きるじゃないの」


*


 十三号機に残っている翼は、いまだ首を拘束された八号機の変容に眉を顰める。


「八号機はネーレイスの力を喪ったかと想っていたが――妖竜を取り込んだ事実が、消えていない?

 まったく、天充弟め……そうまで魔性に好かれて、気の多いやつ」

「あんたは、動かないんです?」

「壱号機と繋がらないのだよな。

 遺跡にあるのは、那戯が用意したヤヲ因子の幻体だった。

 本物はやつに持ち去られ、その事実は改変されなかったらしい。

 鮫人本体の因果を操作していると考えるしかない」

「じゃあなんで、ついてきたんです」


 那戯は恣意的に、環境と事実を改竄してしまう。

 ヤヲ因子というのは、つくづくなんでもありのようだが、そうしてかき乱された因果は、その後どう整合しようというのだろう?


「そりゃあ勿論」


(壱号機の覚醒が維持されているのと、関係しているんだろう。

 だが――あれは元々、俺が手にした力だ、返してもらう)


 それは人間のための力であって、お前たちのような魔性のためのものじゃない。


「十三号機は後退して海坊主からの距離を置け、八号機に支援がしたいなら、おまえのはミサイルポッドで牽制するだけでも違ってくる」

「八号機に当たったら!」


 だが、八号機の細さに対して、いまだ覆いかぶさっている海坊主の異形は――


「あの図体なら、外すこともあるまい。やってみせろ」

「簡単に言ってくれますね……だけど俺、まだあんまり動けそうにないんです」

「なるほど、十三号機のヤヲ因子がいい加減に足らないか。

 ポッドを切らしたら、転身して海坊主に切りかかれ……ネーレイスからヤヲ因子を奪う」

「どうやって?」

「ひとまず体表を削れ。

 口での捕食にこだわるな、覚醒した二号機は、珊瑚を介してネーレイスを喰らったはずだ。

 鮫人やそれの異能には、ヤヲ因子を吸収する何らかの機能がある――バケモノになるのと紙一重だが、やらなければ、お前が喰われるぞ」

「さいですか!」


 闢は翼の言い草に、なんなのだと思わないではないが、同時にやるしかないこともわかっている。

 言われた通り、後退して距離を置くと、ポッドのハッチを開く。

 が――


 海坊主に拘束された八号機が、動く。

 片翼と肩口の間から、新たになにか――妖竜の首が生えた。開口し、声を上げる。


「八号機が、ネーレイスの唄を!?」


 そのまま機体の体表が見慣れた朱の色に戻っていく。

 神社姫を抜きに、再度の覚醒を遂げた。


*


 枸櫞は八号機の左腕で、生えてきた妖竜の頭を撫でる。


「いい子だ」


 唄が始まるとともに、八号機の顔に垂れた墨のような涙も吹き飛ばされ、さっぱりした。

 枸櫞は銛で、黒い神社姫の髪を裁断して浜を後退する。


「うん、海上でなくてよかった、ふんばりが効く」


 対抗して、怒った黒い神社姫も唄いだすが――いつもに較べ、苛立ちと潔癖さを感じさせる声音を紡いでいる。

 音が重なり、八号機は押し返されてしまう。


「まぁ、歌はシトラのがうまいのは認めるよ。

 それで?

 飽きたなら、そろそろ戻ってきてくれないのか」


 八号機は指をくいっと引いて、向こうを招く。

 そろそろ那戯が介入してきそうなものだが……



(ヘンだな。

 そもそも神社姫との関係を切ったなら、また僕がシトラを手にする可能性を、やつは許すはずもない。

 目的はほかにあるとでも?)


 海坊主に捕食させたとはいえ、そんなものを早速ぶつけるなど、奴は何を考えている。


「ほかのネーレイスでもよかったはずだ……何を考えている、泉客那戯?」

『そう難しいことでもないと思うがなぁ』


 海坊主のなかから、奴の声がまた響く。


『神格等級のみで言えば、神社姫はセドナに次ぐ――テルクで次点に強力なネーレイスだ、その下に、水子と海坊主と言ったところか。

 残念ながら、彼女より強いネーレイスを、僕は見つけられなかった。

 こっちもね、必死なんだよ』

「はた迷惑な!」


 以前の食事で理事長が言っていた。

 那戯の異能は――ヤヲ因子を含む粘土を捏ねる力だ。


「みんな、あんたの《《土人形》》だってんだろう、海坊主も、美岬嬢も!」

『そうだな。ヤヲ因子の粘土で美岬を造り、ネーレイスを捕食するネーレイスを編んだ。水子級はいい参考になってくれた。あの暴食の異端は、ネーレイスの限界を超えて、我々が到達するべき道筋を示してくれたんだから』


 この海坊主は、人造のネーレイスということだ。

 元となるものはあったかもしれないが、ネーレイスを捕食する性能は、那戯がこれに付与した。


『きみが美岬を孕ませてれば、もうどうにかなったんだけどねぇ、テルクの王』

「……まだそれを言う?

 いい加減、テルクの王ってのはなんなんだ。

 鮫人はあくまで、王権の足掛かりに過ぎないはずだろう!」

『本当に自覚がないのか。

 ネーレイスを捧げられた供物として、きみは当たり前に喰らい続けてきたじゃないか。なぜほかの鮫人がネーレイスを食べないのか、まったく考えなかったわけではあるまい。

 テルクの総ては自然、きみへ奉仕するようにと働きかける』

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