表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
15.幻惑

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/107

第74話 遭遇

 美岬は帰りがけ、気丈に振る舞っていた。


「ごめんなさい、取り乱して。お父さん亡くされたばかりのあなたにあたり散らかすなんて、私どうかしている。

 お金や住所のこととか、私で何とかなることなら、手伝えるから」

「それだけで充分助かっているよ、ありがとう」


 見送る背中は、随分小さく見えたものだ。


「――、優しい子ではあるんだが」


 父親への復讐を誓う少女は、おそらく泉客の実権を手に入れ、遺跡から手を引こうとする父を弾こうとしている。

 ここに来て日も浅い僕が、彼女の私怨に口出しするつもりはないが、那戯とやらの死は、どうにも彼女の語るところとは別に、きな臭さを憶えた。彼女ひとりの証言を信用するには、その主観に寄りかかっては怪しすぎるというか。もっと客観的な理由も、確かめられるならそうすべきか。


*


 異変はすぐに起きた。


「八号機――?」


 八号機の背部から、倒した妖竜級のそれと同様の白い翼が生えていた。


「これは……」

「通常の覚醒とは異なるんだけど、枸櫞くん、心当たりは?

 八号機の中に、倒したネーレイスのなにかが残留しているかもしれない。八号機はネーレイスに寄生された」


 すでに海中遺跡の八号機は、黒い檻のようなもので封じられている。


「異変の自覚の有無は、どうでもいいわね。

 悪いけど枸櫞くん、あなたを拘束させてもらいます」

「そうですか」


 久原が彼を拘束室へ案内しようとした矢先、八号機から唄がした。


「これ、妖竜メリュジーヌの!?」

「唄を遮断しなさい!

 このままでは港湾内の皆が――朝桐くん、急いで五号機を動かして、八号機を破壊する!」

『は、はい!』


 すでに五号機は海中に待機していて、八号機へ銛を振りかぶる。

 そうしてその肩口に刃先が当たったかとおもえば――消えた。


「八号機と五号機、天充枸櫞の姿がない。

 テルクへ転移されたか、ち、面倒なっ」


 久原は舌を打ち、美岬へ状況を報告する。


*


『ネーレイス以外の要因で、テルクの幻界が開かれたとき、原因を排除する。

 機密保持のため、共鳴者の無力化の際、生死を問わずこれを制圧する』


 八号機の異変はネーレイスに由来するものだが、鮫人による転移は「ネーレイス以外の要因」と護斗のなかでは認識されたようだ。

 そしていつの間にか、八号機に乗せられていた枸櫞へ襲い掛かる。


「待てよ朝桐くん、僕が乗っているんだぞ!?」

『――』


 近接戦では分が悪いので、枸櫞は戦輪を召喚した直後、後退と苦戦を強いられる。


「いまはこの状況から、一緒に帰るのが先だろう!

 美岬さんのところへ!」

『!?』


 一瞬、向こうの動きが止まった。

 その間に枸櫞は後退し、距離を置く。

 妖竜の翼――左の片翼だけだったが、これで飛ぶのは難しいだろう。


『ならばその翼はなんだ、天充枸櫞、耳当たりのいいことを吹いて、お前はとうに魔性だった!

 お前のようなやつがいるから、お嬢が傷つく!

 人魚なんかに穢されていいひとじゃないッ!』

「融通が利かねぇ」


 八号機は戦輪を投擲するも、五号機は器用にそれを弾き上げた。

 だが、彼は弾くならそれを地に叩き伏せるべきだった。

 変わった軌道を鎖で操って、枸櫞は五号機の両腕を背面から即座に削り落とした。


『なっ』

「僕に、敵意はない。

 まだ続けるかい、こんなのは不毛でしかない」

『――』


 二機が浜に立ち尽くし、膠着しているところへ、海側から白い異形が膨れ上がった。


「あれは……」

『水子級?

 だがやつは、ネーレイスの唄は使えない――』

「こっちに向かってくる!

 一時休戦だ、朝桐くん、一緒にあれを」

『ふざけるな!

 誰が人でなしの言うことなんて、このッ』


 両腕を喪いながら、五号機は八号機へ突進する。


「あ、おい――何しようって」


 水子級の腹から、なにかが高速で飛翔し、五号機の腹を穿った。

 もとは、八号機へ狙いをつけたものだろう。


「朝桐くんっ!?」

『……、すまない、八号機の』

「――」


 なぜ、なにもしない僕に詫びる?

 さっきまでの敵意むき出しのおまえは、どうした。

 なんで僕に両腕切り飛ばされておきながら、ネーレイスから身を挺して僕を庇ったりなんか――。

 不自然な状況に呆然と、八号機は息絶えた五号機を抱え上げる。


「こんな、簡単にっ――おまえらは」


 水子級の下卑た笑みに、苛立ちを覚える。

 まだ朝桐なにがし――彼のことなんて、何も知っちゃいなかったが、美岬の大切なひとりだったことくらい、わかっている。


「……冗談じゃない」


 八号機の持つ戦輪は首輪にもどり、またしても投擲される。

 水子級は躱そうとするが、首輪の自動追尾が働いて、ぶよぶよの本体の首が拘束される。そのまま、海上から岩礁に引きずり飛ばされた。

 そのままやつの首がちぎれ飛ぶが、ダミーなのか本物なのかも定かでない。直後、首そのものが生え変わって、より敵意をむき出しに、やつは八号機へ吠えた。


「なんでもいい、奴を倒す力なら、人魚だろうと、なんだろうと――」


 人形のあぎとが、開こうとするも、水子を喰らう気にはなれなかった。八号機の背に意識を集中し、妖竜の片翼からなにか使えるものはないかと……いや結局、八号機の腰のあたりにむずついて、尾が生えている。

 これでは、魔性と呼ばれても仕方ないか。

 枸櫞は海上を駆り、片翼は加速に使って水子級へ接近する。

 接近戦の経験の有無など、問題でない。ようは度胸だ。

 肥え太った異形、あれが再生を繰り返すなら、それができなくなるまで徹底して痛めつけてやろう。

 首輪を再度、戦輪に造り変える。

 戦輪、鎖、尾部それぞれを別確度から操作して、やつの視界と対応を攪乱してすり潰していく。

 こちらが優勢なはず――だったが、突如、やつの気配がその場から途絶えた。


「逃げられた……?」


 残ったのは、やつの脱ぎ捨てた肉の衣と、浜に斃れた五号機の残骸――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ