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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
15.幻惑

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第72話 首輪の戦輪

 展望室で、海中遺跡の白い人形が見えた。


鮫人こうじん――泉客で管理するオーパーツの人形だよ」

「オーパーツ?

 それと僕たちの目的に、なんの関係が」

「まずは手伝ってほしいことがあるの。

 なに、やればわかるから。

 まさか、私がただで願いを叶えてくれるとでも想っていたの?

 そんな虫のいい話があるわけないでしょう」

「――」

「ご想像の通り、あなたには鮫人、八号機と呼ばれる機体に乗ってもらう」


*


 その夜、妖竜級とされるネーレイスに対峙したとき、僕は完全に騙されたと想った。


「こんなのは聞いていない」

『そりゃ話していないもの、先に敵が来ちゃっただけ』


 発令所の美岬は、一切動じていない。どうやら八号機が来たのは、現実ではない、特殊な異空間らしい。


『テルクの海原、あなたが話す前に行ってしまうから』

「っ、おまえ」


 いちいち人を苛つかせることにかけては、天才的な女だ。


「戦って、負けたらどうなる」

『そんなこと、いちいち説明しなきゃわからないほどお馬鹿なの?

 どのみち、あのネーレイスを倒さないことには、あなたは現世うつしよへ戻れない』

『死にたくなければ、思念武器メンスマテリアルを』

「?」

『あなたの想う武器を、その人形はひとつだけ象ってくれる。

 やってみて』


 そうして僕の手に握られた、首輪と鎖――こんなものを、武器とは呼ばんだろうて。罵倒してくる久原を後目に、枸櫞は首輪を戦輪へ再構築する。


『武器を、造り変えた?』

「使えないなら、使えるようにするだけでしょう。

 うるさいなぁ」


 最初に出たのがなぜ首輪だったのか、僕にはとんとわからないままだ。そうしてさっさと妖竜の首を刈り取ってしまえば、幻海はすんなりと解除される。


*


 翌朝、教室でつっかかってきた威勢のいい青年。


「お前が、天充枸櫞だったか?」

「初対面の人間にお前呼ばわりされる趣味はないですかね。

 名乗っていただいても?」

「お嬢に迷惑かけたら、俺がお前を殺す」


 名乗ってすらくれず、有無を言わさなかった。

 あとでクラスメイトの男子が教えてくれた。


「朝桐くん、泉客さんが絡んでくると途端に反応が過敏になるんだ。

 というか、普段からカリカリしてる。昔から情緒がおかしいんだ。頭のネジが外れてるとしか――」

「せっかく、そう悪くなさそうな顔なのになぁ」


 そうか、頭の病気持ちじゃあしゃあない。


*


 久原は護斗を、昨晩のうちに呼び出していた。


「戦輪、ですか」

「そう、彼の思念武器メンスマテリアル

 解析を続けているけれど、どうやらネーレイス、会敵した妖竜メリュジーヌ級の血を吸っているようなの」

「単に返り血を浴びた、という意味ではないですよね」

「えぇ、戦闘後、八号機が有するヤヲ因子の観測総量が著しく増大している。彼のオイリュトミーグラフのやたらな同調率の高さに合わせて、前例のないことよ。私たちはこの新たな共鳴者を警戒しなくてはならない。いずれ、美岬嬢の手に負えなくなるのもそう遅くはないでしょう。

 そうなったとき、彼女を守れるのはあなただけよ、護斗くん。

 共鳴者殺エコーズキラーし――きみの手で、やつを止めなさい」

「……わかりました」


 体のいい言葉で、利用されていることは分かっていた。

 だけれど護斗に、ほかの選択肢はなかったから。


*


「護斗くんにガン飛ばされた?」

「うん、まぁ、そんなとこ。

 昨日の戦闘、僕は何か不味いことをしたかね」

「いや、ちゃんとネーレイスは倒してくれてたし、戦いかたに文句が出るとも思えないな――或いは久原さんに、なにか吹きこまれたか」

「知らないけど……それで、あの人形とテルクの海原が、姉さんの復讐になんの関係がある?」

「鮫人によっては、ネーレイスの唄に呼ばれるまでもなく、テルクの海原へ行く力を持つこともある。

 きみならそれができるんじゃないかな」

「ネーレイスとの戦いは、命がけのことだろう。

 ほかの共鳴者たちは、納得してやっていることなのか」

「強制はしていないよ。

 降りると言うひとも時々いるけど、あれの出現頻度はさほどでもないから。あなたがやらなくとも、きっと代わりにやってくれるひとはいるでしょう。だけど――もしあなたが、自分は択ばれた存在だと想うなら、テルクを自由に使ってくれたっていい。

 あそこはあなたのために用意された舞台でしょう、片手間に復讐くらいできる」


 テルクはべつに、僕の復讐の絶対条件ではない。

 手段を問わなければ、加害者を人知れずに拉致して、どこぞの湾内にコンクリート詰めなり有刺鉄線で縛りあげて沈めるなり、やり方はないではない。ただ……テルクという異界への移動に、瞬間転移という超常が働くのは、拉致を試みる際のアリバイ工作上、なんとも魅力的な話じゃあった。


「鮫人とヤヲ因子を解析すれば、いずれ僕らは自分たちのちからで、テルクへ赴くことが?」

「可能でしょうね」


 実際、海軍は十三号機を通じて限定的なそれを可能とした。

 当時は十三号機など知らなかった僕も、それをそう遠い日の話ではないとなんとなく確信できた。

 あとは鮫人とヤヲ因子を、僕自身が知っていくことだ。

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