表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
14.混線

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/107

第67話 波止場

「シトラを取り戻す、か……」


 そうするべきが道理なのはわかっている。迷うべきところでもない。ただ、十三号機でテルクへの跳躍ができたところで、那戯の手札が未知数だ。


「三、から四人。

 命を預けあうやつが欲しいところだが、乗ってくれるだろうか、濱田先輩は。浅葱さんは、貫さんの介抱に努めているわけだし、気が進まないな」

「どうして貫さんが襲われたんだよ!?」

「おそらく十中八九、泉客那戯の仕業だ。

 まだ実際に不意を討たれたのか、テルクで会敵した結果かまではわからないが……共鳴者殺きょうめいしゃごろしの力を、奪われているだろう」

「あんたは、なぜそう言い切れる?」


 十三号機の少年は、未だにまごついている。

 泉客に来てから、彼の周りには善きものがあれで沢山あった。

 だからこそ、血縁者の不条理極まりない動きに、納得がいかない。


「僕が泉客那戯なら、必ずそうするからだ。

 他の共鳴者は、王権の競争者となる。

 必然、共鳴者殺しの力は潰すか、奪うかしかなくなる。

 あいつには悪意はない、あるとすれば、呆れだ。

 社会に対する、世界に対する――人間すべてに対して、ネーレイスやテルクの進化についてこれないモノになど、そもそも興味がない」

「だけど、あんたを徹底して踏み躙ろうとしている」

「僕の尊厳や意義を踏み躙るのは、あくまで《《ついで》》だ。

 やつの目的さえ叶えば、僕が憎んでいる人間たちもすべて、彼の力で一掃される。口では詫びても、邪魔をしたという意識すら、ほんとうのところは持ち合わせてもいない。

 だから僕の怨恨になど興味もないし、敗者として扱えてしまう」

「……なんなんだよ、那戯って人間は。

 美岬ねえさんの、兄貴、なんだろう?」

「そう。人の子でありながら、徹底して共感性に欠けている。

 死生観が生きながらにして、人魚の魔性のそれと大差なかった男だろう、普通はもっと肉体の生老病死のそれに振り回されて然るもんだが――だから簡単に、解脱を試みてしまえるのか」

「意味わからん」

「簡単に言うとね、あいつは人間らしい人間の愚かさ、悉くが邪魔……というか、必要ないんだよな。

 自分は生まれながらに、確立した理念のそれに従い、行動できてしまえる」


 いつの時代の裕福な若者にもよくある慢心のそれと、ある意味で変わらない。

 体力と感性の優れた時代に摂取した全能感や渇望、青年期にありがちなもの、それが豊かな家庭に生まれ育ち、挫折を知らず成長とともに自信と慢心を肥大させたとして。

 別の人生、艱難辛苦を送っている『貧困な』人間などないものやノイズとして扱えるのと、同じこと。

 志ばかりは高いが、本当に足元や身近な人間、或いは社会の底辺を触れるでもなく、それがどういう経緯で発するか、想像する力を養っているでもない。

 ……というのが、枸櫞の想像する彼の人物的な背景だ。

 ――なぜなら、その背中を追って育ったろう美岬は、実際そのように歪んだから。金や権力で、ひとは自分の想い通りについてくると、本気で考えている。

 兄妹のどことない稚拙さは、そうして通底してしまったのではないかと、枸櫞はとてもいやな想像をしていた。


「泉客美岬が、ずっとそうであったように」

「姉さんはあんなやつとは違うだろ!?」

「そうとも。

 人は成長できるからだ、……かたやあの男は人魚の中に答えを見出し、人に期待することをやめてしまった。

 あとは俺たちが、お互いの正しさをぶつけ合うだけだ。

 生き残ったものが、正しかったことにされるだろうよ」

「それが、泉客那戯の望む世界だから?」


 枸櫞は首を横に振る。


「人間はそうすることでしか、いつも世界を治められないからだ。

 法や制度を敷くにも、まずは覇権と信用を勝ち得なければならない、だけど那戯は、ひとからの信用など求めていない。

 ネーレイスのように、自らに隷属しうる手駒があれば、それでやつの世界は完結する。

 それが嫌だと言うなら、共鳴者として――テルクに向かう資格のあるものだけが、抗うことを許される」

「!」

「闢くん、ここからは命がけだ。

 お姉さんのためでも、シトラのためでもなく、きみは自分自身のために、命を懸けられるか?」


 酷な選択を、子どもに強いている自覚はあった。

 彼はただの子どもでなく、戦う力を持っている、だけれど――それはこれまで、強要された役割であって、彼自身の意思でできたことではない。かりに意思があったとして、またテルクに立って戦わせることを、枸櫞はほかの大人でやれない以上、自分から問い質さざるをえないのだ。


「……ここに来てから、いろんな温かいものを教わったはずなんだ。

 交叉のふたりや、姉さんやシトラからも。

 記憶をかき消されそうになって、その意味を初めて、じっくり考えた。俺は俺が、それを喪わないために、泉客那戯を倒したい」

「じゃあ、僕を手伝ってくれないか。

 きみだけは、責任を持って――僕が生かしてみせる」

「そいつは気に喰わんな」


 波止場に、ふたりの後ろから、もうひとりやってきた。

 枸櫞は身構える。


「伏馬、翼――?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ