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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
13.泉客那戯

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第65話 しとらー、業務用○○くん

 そのシトラが、火傷したという。

 僕は釣りを途中で切り上げると、なるべく急いで帰宅する。


「ごめん、枸櫞くん。

 私がついていながら」

「いえ、なにがあったんです?

 あぁ……」


 フレンチトーストにひとりで挑戦しようとして、失敗したらしい。


「約束、してたよね?」

「――」

「まぁ琉稀さんがいたから、シトラが破ってはいないのか。

 でもこうならないようにひとつひとつをみんなが気を付けて、大人になってくんだ」


 枸櫞は彼女の目線の高さに合わせて、そう説いた。

 シトラはやがて、ぼろぼろと泣き崩れる。


「ごめん、なさいぐえん……しどらひどりででぎるって……でぼ……」

「あー、もう。怖かったよな、痛かったよな。

 大事なくてよかった、その怪我は勉強代だな?」

「う゛ん……ごめんなさあああああああああ」


(姉さんも中にいるのに、喧嘩でもしたのか?)

(きーこーえーてーるー。

 いや、止めたんだけど、枸櫞のためのご飯、自分で作るって張り切ってて、あぁ小指の端が炙られてまだひりひりしてるよー)

(人魚の肉なら、唾つけてりゃ治るよ。……にしても)


「すこし、外の空気を吸ってきます。

 大丈夫、すぐ戻ってきますから」



 枸櫞は交叉神社のほうに赴いた。


「昼のうち、御守りでも買っておこうかなって」

「ほぉ、いい心がけですな。シトラちゃんに、なにかあった?」


 浅葱さんは、すぐに察した。

 僕はさっきの件を話したうえで、


「僕にはシトラを叱ることができない、そのたび思い知らされるんです。甘いと言ったらそこまででしょうけど。

 せっかく約束したのに、怪我されちゃったら意味ないでしょう?」

「それはきみの言ってた通り、シトラちゃんの勉強代でしょう。

 枸櫞くんは、あの子の家族としてできる最善を尽くしてる。

 はい、ついでに大漁祈願とかも買っていく?

 釣りにいいかもよ」

「いえ、海上安全でも十分です。

 こういうのは、シトラがどこにいても、きっとあの子の役に立つ……といいよなぁ、って」

「優しいんだね、枸櫞くん」


*


 また帰ってくると、シトラがダンボールで工作をしたらしい。


「しとらー」

「そんな……」

「しとらー」

「二回言うのね、やってきちゃったのか」


 某怪獣王を真似たポーズで、頭から背中にかけてのそれをひっかぶっている。なんで妙にドスの効いてる声なんだ。


「それ、終わったらちゃんと片付けてね」


 職員寮の部屋は、そんな粗大をずっと置いとけるスペースがあるでもない。


「今度はなにがあったんです琉稀さん?」

「さっき、闢くんがきて、一緒に遊んでたの。

 そしたらけろっと、元通り」


 火傷したなんて、嘘のようにか?


「で、なんかシトラちゃん、思いついて工作はじめちゃって」

「よりによって怪獣王ですか、姫様よ。

 闢くんとは、完全に入れ違いになっちゃったな」


(それでよかったのか、姉さん)

(シトラがそうしたいなら、私が止める理由もないでしょ?)

(おう……そっかぁ)


 姉さんはシトラの奇行にとんと関心がない。まぁ幼い頃の貴女からして、そういうとこありましたけどね。


「でもそっかぁ、考えてみたらまだろくにおもちゃのひとつも買い与えてるわけじゃないんだよな。育児室のはレンタルだったし、シトラが自分で好きに遊べるものか……ショッピングモールに、おもちゃ屋ありましたよね?

 闢くんも今度、連れて行ってあげるか」

「そういえば枸櫞くんは、昔のおもちゃとか自分ではなにも持ってないの。手荷物にはないよね?」

「まず買ってもらえませんでしたね、欲しいものがあっても、大体諦めてた気がする。或いは姉さんのお下がりとか、……僕がジャンカーやってるのも、金欠と親父が無関心だったから、なとこ、ありましたし」


 おかげで早期に、自分でバイトしてお金は稼ぐ方向へ行ったかもしれないけど、時々子どもだった頃を思い返せば、やり直して、当時家電量販店なんかに流行りだったゲームとか、姉さんづてとかでなく、自分で触ってみたりしたかったかもしれない。


「どうしても金が欲しいときは、姉さんに仕事紹介してもらったこともありますよ」

「芸能の?」

「服のカタログのモデルとかやらされてましたね、要望通りの写真が撮れてれば、それでお金入るし」

「流石顔がいい姉弟……枸櫞くんの着こなしてる写真とかないの?

 芸名とかないでしょ、名前で検索すれば」

「恥ずかしいから、しないでくださいよ」


 するとシトラがダンボール着用のままびゅーんと迫ってきて、目を輝かせている。


「くえんのしゃしん!?

 しとらもみたい!!」


(止めてくれないよなぁ姉さん!?)

(よくお判りで、満更でもないくせに。

 私も初めて見たけど、なんだ、決め顔で着こなしてるじゃん)


 枸櫞は琉稀が自分のスマートフォンで画像検索かけている間のしばらく、むくれて離れていた。


「うわぁ、やっぱりまだちょっと幼げが残ってる目元なのに、カメラマンさんがいい腕してたのかなぁ?」

「その天充枸櫞は業務用ですから!!!

 営業用天充くんですから!?」

「業務用枸櫞くん――そのうち飲料メーカーから案件が飛んできそうな響きだね」

「時々よく言われるから、やめてっ!!!」


 最後らへんわざわざ言い換えられてしまうと、懇願は半ば悲鳴じみていた。


「それで、さっき枸櫞くんが持ってきてくれたお魚さん、私の方で軽く味付けして、いま冷蔵庫で寝かせてる」

「地元のひとは強いですねぇ、ほんと」


 護斗たちに持たされた時は、正直自分でどう扱うか、手土産に対して途方にくれていた。琉稀さんがいてくれて、本当によかったな。

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