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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
13.泉客那戯

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第64話 理由

 職員寮の枸櫞の部屋へ戻ると、シトラが真っ先に出迎えてくれた。


「みさき、おかえりなさい!」

「ただいま、シトラちゃん。ありがとう」

「姉さん、おかえり!

 テルクでなにかあった?

 疲れてそうだけど」

「うん、もう済んだことだから……」


 それでも彼女が精神的に負ったダメージは、回復までにしばらく時間を要するものだろう。今回は闢くんとかの『荒療治』が効いてくれたようだが、もうしばらくはそっと見守ってやろうところだ。


*


 私を産んだのは、結局母ではなかったんだろう。

 なのに生前の母は、私たちをよく可愛がってくれた。

 兄の那戯と、分け隔てることなく――きっと。

 後から調べると、泉客那戯は鮫人の技術からトレースして、私という人型を造ったらしい。

 先史文明の技術、人とネーレイスの間に位置するもの。

 天充枸櫞が闢くんの身内に私を択んだのは、そういうことだ。

 哀しいけれど、彼の見立ては正しいんだとおもう。


 天充くんと、那戯はよく似ている。

 機械いじりに心得があったり、水面下に滾らせるその支配欲だったり。私は自分が主催者のつもりでいて、結局は海原の共鳴者たちに、振り回される側でしかなかった。


「美岬ちゃん、おかえりなさい」

「白錫先輩……」


 琉稀はシトラたちのあとに続いて、彼女の手を優しく握った。


「戻ってくれて、本当に良かった」

「あの、わたし――」


 あなたと天充くんに、いつも酷い態度をとっていた。

 思い返すと、恥ずかしいことだらけだった。

 琉稀は首を横に振る。


「これからの時間、楽しいことで沢山満たしていけばいい。

 そうでしょう?

 ひとをおもちゃにして扱うだけの奴らなんて、忘れてさ」


*


 枸櫞はぼんやりと、波止場に立っていた。

 最後に伏馬翼の所在が確認された場所だ。

 あの男を、人として到底好きにはなれないが、ネーレイスに対する妥協しない、一貫した姿勢には、目を瞠るだけのものがあった。

 那戯に利用されていたと、それから気づく機会は、あったんだろうか?

 そこへ、自転車で護斗たちが通りすがる。

 というか、僕を追ってきたんだろう。

 なんでか、クーラーボックスと釣竿を複数担いでいた。


「――」

「みっちゃん、釣り下手?」

「わからん。きみらが手慣れてるだけだろう」


 竿を借りて設置してから、三十分ほどの間に、護斗が六匹、珊瑚くんが四匹と着々釣っていくのに、用意してもらっておいて、僕は竿のまえで延々と待ち続けているだけだ。

 もともとモチベーションもないといえ、同じ潮流のなかで、ここまで差が出るものなのか……?


「いやぁ、てっきりソラの字、なんでもできるやつかと想ってた。

 全然可愛げがねぇんだもん」

「ひでぇ」


 まるで久原女史のようなことを、護斗が言う。


「お前こそ、よかったのか。

 美岬嬢の、そばにいなくて」

「お嬢には会ってきた。

 先輩や新しい弟くんたちといる時間を、いまは大切にさせてやりたいし」

「健気だなぁ。アサくん、もっと身ぎれいにすればわりとモテるんじゃないの?

 俺より普通に、ガタイいいんだし。

 今時は包容力のあるやつが需要あるんだぜ、腕っぷしがあると、なおよい」

「ソラの字、人をおだてることには一級品だよな。

 煽ることにも、だが」

「いま余計なこと言った?」


 結構、含みのある言葉に聞こえた。

 実際、初対面の頃もお互い――というか、舌戦では僕が一方

的にのしてたのか?

 それではたしかに、可愛げがないと言われても仕方ないか。


 枸櫞は気づくと、鼻歌を口ずさんでいる。

 緩やかなトーンの、漫然と過ぎる時間を潰すのに適度な、海に合うフレーズの曲、姉さんの持ち歌にもいくらかあったはずだ。

 そういえば姉さんは、テルクやネーレイスに関わる前から、海の詩を詠みたがったものだ。僕はいつもこうやって……姉さんの背中を、虚しく追って、置いていかれてしまう。

 海にノスタルジーを感じるほど、豊かな感性はしていないつもりだったけど、なるほど――数十億年単位、生命の起源というやつは海にあるとされているし、そうおかしな感覚でもないんだろう。


「それ、みっちゃんのお姉さんの?」

「あぁ。なんか、久々に思い出して。

 海、か……泉客那戯は、万物を海に還そうとする。

 有史、ひとはようやっと、海から離れて歩く足を得たのに、この海原は、僕らの隣にあるんだから、ヘンな気分だ」

「「――」」

「海がいのちを培うのなら、それでもいい。

 でも僕らは浜を、この地に立っている。

 海を離れたものが、自由を求めちゃおかしいのか?

 それが海の否定になるんじゃない、ただ僕らは、もっと多くの場所を歩くことができるんだぞ、どうせならもっとそれを愉しみたいじゃないの。

 僕はひれのついた足じゃなく、人の足でここにいる。

 あいつがテルクを制するってことは、局のラジオだって聞けなくなるだろう、せっかく出てる姉さんの歌だって、リクエストできない」


 枸櫞は立ち上がり、護斗は本日十二匹目が竿にかかった。


「それが、那戯さんにお前が挑む理由か」

「絶好調じゃないの。

 ……挑む、ってのは微妙だな。

 僕は那戯なんて、問題にしていないし。

 ただ、ずっと答えが欲しかった」

「答えって?」

「シトラが僕のところへ、来てくれた理由。

 意味のあること、価値が在ることなんだって、僕が信じたいだけかもしれないけど」

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