第63話 完遂
期末考査が終わって、夏季休業手前へ差し掛かる頃。
泉客那戯の消息は、依然として絶たれたままだ。
美岬を通じて、いつでも出てこれるやもしれないが、あの人を犠牲にするつもりはない。
「最初に約束したでしょ、美岬さん。
全員が生き残る道を探す、そこからきみ自身が外れてはいけないんだ。
ところで、今度の夏は山でも案内してくれないか?」
「山、どうして」
「そりゃ、海なんて見飽きるほどだからね。
もう親の顔より見たんじゃないかってくらいだ」
すると美岬は噴きだして笑う。
「いいよ、わかった。全部終わったら、天充くんの言うとおりにする」
*
考査の終わったあたりから、都内へ転移して、姉さんの事務所のマネージャーを、身をやつして尾行した。
毎晩のように通うキャバクラで、姉さんをキズモノにしたあの男もすぐに見つけた。
こうしてあたりはついたので、あとは警察には、僕が怨恨の線で拉致したなんてことを気取られないよう、入念に計画を編む。
奴らは、ひとを食った性格で、隙を見つけるのは簡単だった。
泥酔して店を出たところをひっ捕まえれば、それでよかった。
付近のカメラの歩行認証あたりはどう誤魔化すか、結局最後までいろいろ考えていたのだが、顔が映らなければ御の字とすることに。靴は踵を増すやつを履いたが、正直役に立つとも想えないがまぁ。……どうせまともな科学捜査で、僕のアリバイが整合することはないんだから。
警視庁や警察庁が、テルクの海原を前提に捜索を行えるわけもない。
犯行はマネージャーから順、二回にわけて行う。
主犯は、マネージャーがいなくなれば、警戒くらいするかもしれないが、もうどうにでもなれ。
死体と証拠さえ、テルクにすべて沈めればいい――。
*
二回とも驚くほどすんなりと進んでしまった。
「おい!?
俺を助けろ、おまえ!」
「――」
フードを被った僕の顔など、わかるまい。やつも相当数の人間に、恨まれているはずだ。
僕は砂上に倒れたやつに近づいて、フードをとった。
やつは、息を呑む。
「死んだ、はずじゃ……」
「本当に死んだと、想ってました?」
枸櫞の顔立ちはなんだかんだ、生前の檸檬によく似ていた。
するとウィッグや化粧で、それに近い姿にはなれるのだ。
彼は乱暴に、拘束した男を岩場へ突き飛ばす。
「じき、潮が満ちる。
意味はお分かりですね?」
そうして、動けない手足の静脈に狙って弾痕をつけ、放置する。
自分は岩場に登って、やつが喚いて、こと切れるまでをじっくり見物させてもらうことにした。
とにかく、長く苦しんでもらおう。
どうせ、マネージャーにもこのまえやっている。
人を殺すことに、良心の呵責などないか?
どうでもよろしい、僕はただ、これを整然と執行したいだけなんだ。
「――、――」
これで、よかったのだ。
僕は望んで、奴らを殺す。
「本当に海なんて、見飽きてしまうよ……」
「きみの執念には、見上げたものだ。
できれば、敵には回したくないんだが」
「――」
背後から声がかかった。
テルクの岩礁、美岬の姿でやつはまた現れる。
「復讐達成おめでとう、天充くん」
「……どうも、よもや那戯さんにお祝いしていただけるとはね」
彼女の背後に、薄水色の壱号機も立っている。
夜景には映えた魔性だ、皮肉なくらいに。
「いつまで美岬嬢を使い潰すつもりですか、ぼろ雑巾じゃあるまいて?
そういうのをやめていただければ、お互いもっと建設的なお話にもなりましょうに」
「きみはそういうのに、拘る人だったんだな。
だけれどやはり、正義の味方でなく、独善を貫くモノだ」
「僕は人の造る法を尊重し、順守していきたいと心の底から願っていますよ。
運よく、僕らにはこの世界があった。
ここは到底、日本の国内とは呼べんでしょう?」
「好きだよ、その詭弁。
実際、警察は君を疑ったところで、けしてきみを罰せない。
そのどこまでも合理を徹底する、きみの姿勢こそ、僕のパートナーに相応しい。
きみが僕の手を取ってくれれば、僕は美岬を殺さなくて済む、どうかな?」
枸櫞は岩から降りて、虫の息の男のところまで歩いていく。
そして、額に一発。
僕ら家族を壊した存在は、目を剥いて、今度こそこと切れる。
枸櫞は黙々と、ウィッグを脱いだ。
あとは死体を、浜で焼く。
「もういいのかい?」
「飽きましたから。
それに――姉さんの真似も、得意じゃありません。
あなたはこの世界で、いったいなにを望んでいるんです」
「美岬から聞いたはずだろう。
テルクと現世の均衡を覆してやるのさ。
ネーレイスの身体、ヤヲ因子は本当に便利だな。
先史文明と先人たちは、素敵なものを僕らに遺してくれた。
そうは想わないか?
僕は遵法になどとんと関心はないが、世の理を手にするやり方は心得ている。文明諸共に滅ぼせば、規範そのものが押し流されるわけだ」
「可愛い顔と口して、言うことがほんとう物騒ですね」
枸櫞は彼に近づいて、その下顎に指をかける。
「?」
枸櫞が唇を寄せると、向こうは動揺して、彼の顔を叩く。
「ばかじゃないの!?
付き合ってるひといるのに!!!」
「――、やっぱりまだ、そこにいるじゃないか、美岬さん」
「!」
泉客美岬は、後ずさった。
「俺はそういうきみの潔癖さを、媚びなさをこそ好きなんだよ。
とても高く、評価している。
だからさ、いつまでもそんなクソ野郎に身体使われてないで、いいんじゃないか?」
「っ……やっぱ人類、滅ぼそうかな」
「おお、こわ」
枸櫞は肩を竦めて、おどける。いまのは完全に『美岬』だった。
美岬の顔で、やつは苦笑する。
「死にぞこないをこうやって取り戻そうとはね、仕方ない。
だけれど、壱号機は貰っていく。もともと、翼にはもったいないと想っていたんだ」
美岬が、項垂れる。
背後で壱号機が動き出し、遠方へと去っていく。
「んー、まんまと盗られちゃったな」
「なにやってくれてんの……ばかそらみつ」
「じゃあ、あの兄のために、死んでよかったのか?
きみの自我を、完全に消し去るつもりでいたんだろう」
「わたしは」
「造り物だから、長生きなんてできなくてしょうがない?
それ同じこと、闢くんに言えるかね」
「――、ほんとっ、ずるい。
私をこんな風にした責任、絶対取ってもらうから!」
「知っているかい。
アステロイドベルトでは、重婚が可なんだって。
日系の移民で、両手に花なひと、そう言えばいたよな」
「あぁ、元は軍人の。
……それはなに?
遠回しなプロポーズですか?」
「本気で受け取らないでくれよ、俺は琉稀さん一筋って、もう腹括ったんで。
それに、まずは家族のもとへ、生きて帰れる。
壱号機は盗られちゃったけど」
「あいつ、もう私の意識は乗っ取れないかもしれないけど、私が見聞きするものは、結局ヤヲ因子を通じて、筒抜けているとおもう。
私なんか取り戻して、いいこと」
「闢くんが喜ぶ。僕も嬉しい。
シトラは大喜び、なにか問題でも???」
「な――」
「いいことづくめしかないね、証明終了《QED》?」
彼のおちゃらけた態度には、やや納得いかなかったが。
美岬は、彼の胸に飛び込んで、しばらくじっと顔を埋めていた。
「ありがとう……私を、見つけてくれて」
スーパー復讐タイム終了しちゃった……次から何を糧に続き書いていけばいいんや?(;^ω^)
わいの宇宙では重婚可なんや(ルー○ス並感で貞操の行方を語るな




