表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
13.泉客那戯

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/107

第61話 ○○○芸も程々に

 枸櫞は藍堂からの連絡を聞き、呆然とする。


「ネーレイスのイタコ芸も、引き出しは程々にしとけって……」

『それはやつに言ってくれ、お嬢の中のな』

「解離人格の可能性も、まだ否めませんよね。

 自分を泉客那戯だと思い込んでいる、泉客美岬か」

『詳しく調べてみないことにはな。

 だが、自覚的にそうした悪ふざけをするひとでないのは、きみも知っているだろう?』


 いや、テルクの海原やヤヲ因子の特性なんだろう。

 このまえの妖竜の唄がそうであったように、テルクでは自他の境界というやつがあやふやになる。

 弐号機の暴走時、珊瑚くんが僕をごく自然なことのように同化しようとしたこと、ほかにも思い当たるところは、多々ある。


「なぜ僕に繋げるんです。

 真っ先にかけるべきは、泉客の理事長へでしょう?」


 その会食を終えたばかりの枸櫞だったが、ちょうどあの男は車で先に離れてしまった後である。


『あれ曰く、きみがテルクの王だから、だそうな』

「――、鵜呑みにしてやる必要はありません。

 お嬢はどこです?」

『まぁ俺も、お嬢がもっとも信頼するきみに期待してしまうんだろうな。

 おそらく、きみのところへ向かう』

「その通り」

「『!?』」


 枸櫞は断りを入れてから、通話を切った。

 背後から耳元に語りかけてきた、泉客美岬は不敵に笑っている。


「お父様との会食はどうだった、枸櫞くん?」

「悪趣味だな、泉客那戯。妹の身体を乗っ取るだなんて」


 レストランのすぐ外、おそらくヤヲ因子による転移を用いたんだろう。美岬嬢は人形使いでないけれど、ヤヲ因子を持っていることは確定している。

 やつのここまでの行動に、おそらく嘘はなかった。

 枸櫞は美岬の姿のそれをまえに、腰のホルスターに手をかける。


「銃刀法も形骸化したものだよねぇ、流石にそれは、美岬が哀しむ」

「あんたはいったい、なんなんだ」

「ボクは君の種が欲しいんだよ」

「――」

「きみだってもう、うちの父に聞かされたんじゃないか。

 美岬はそのために、僕が造った存在だと。

 それともなんだい、実の姉にはくれてやろうに、うちの妹ではたないと?」

「あほくさい……」


 エロ漫画みたいなルビ振りやがって……。

 最近の僕の周りに、まともな女がいない気がするのはなぜなのかな、姉さん。

 大体、自称那戯の言うところの、実の姉にはくれてやろうに、というのだって眉唾だ。どうせ姉さんのせこい性格だ、僕が琉稀さんとやってるときに、憑依したシトラがそのまま種を掠めているとか、そういうくだらない猫だましがあっても、正直なところ僕は驚けない。

 僕はいま、琉稀さんに一筋なんだ。……そりゃぁ、姉さんには親愛以上のものを持たないでもないが。


「まだ敵と決まったわけでもないのに、そう警戒されてはな」

「僕は、泉客美岬をよく知っているわけじゃありません。

 その女は僕を、テルクへ引き摺りこんだ、元凶でしかない」


 それは枸櫞のごく正直な感想だった。


「迷惑にしか、想っていない?」

「――、なにが狙いだと、訊いている。

 あんた生前、わざと伏馬翼の憎悪を駆り立ててたよな。

 彼の目の前で死ぬことで、水子級への敵愾心をより深めた。

 壱号機の覚醒が、狙いだったろう。

 自分の命を懸けて、人として死んでまでやらなきゃならないことだったのか?」

「そこまで読まれているとはね。いや、うちの親父はきみを随分と買っているということかな?

 きみも察してのとおり、鮫人を覚醒させるにもっとも手っ取り早いのは、共鳴者の感情を一定閾値まで引き摺りだすことだ。

 伏馬翼の、ネーレイスへの復讐心は、その実もっとも有効に見えた……しかし、随分と時間がかかってしまったよ。

 本当はテルクの王が来る前には、もっとなんとかなっているつもりだったんだが、これでは水子級に食い散らかされるリスクを冒してまで、ボクが永らくを待ったかいも、なくなりかねなかった。

 最後の一押しは、きみへの対抗心だったんだね」

「!」

「ボクでは翼くんへの好感度を、稼ぎそびれたってことかな?」


 自分もひとのことなど言えたものではないけれど、こいつも大概、狂っている。シトラや姉さんがそうであるように、魔性へ適した資質を、生前からして持っていたことの伺えた。

 美岬の顔で――、


「その顔で笑っていいのは、その顔の持ち主だけだ」

「なにを言っている?

 美岬は空の器だよ、自分は泉客の娘として育てられたと哀れにも思い込んでいる、人形に過ぎない」

「っ、お前は――」


 ネーレイスをヒトの敵だと割り切っていた、伏馬翼のがよほどマシだったまである。敵か味方か、以前の問題だ。

 泉客那戯を名乗るこの存在が、僕には腹立たしくてならない。


「きみの種が欲しいのはそうだけど、いまは待つことにするよ。

 いずれ、きみとはテルクで相まみえることになるだろう。

 それまでは……この哀れな人形は、きみたちの手元に預けておこうか。

 どうせもう、長くはもつまいし」


 糸の切れたように崩れる美岬の身体へ、急いで駆け寄る。

 倒れる前に、なんとか受け止めたが――気絶している彼女の顔は、青白い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ