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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
12.真の魔性は誰か

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第60話 かの親子

 夕刻、美岬は枸櫞に文句を垂れていた。


「て、なんで私が天充くんの服を選ばなきゃならないわけ!?」

「だってしょうがないだろう、制服で行けと言うならそれでもいいけど、あと僕が持ってる礼服なんていま、喪に服するやつだけだよ?」

「うわあ。確かにそうだろうけど」

「レンタルでもなんでもいいからさ、人に会うならちゃんとした格好じゃないと、僕自身納得いかない。

 あまり畏まっても仕方ないけど、界隈のドレスコードや空気感を僕じゃ掴めない。

 あぁ、フレンチの食器の使い方なら知ってるから、それは問題ないとおもう。

 姉さんと昔、一緒に勉強したんだ。こんな風に役立つ機会が来るなんて、思いもしなかったよ。

 きみが本当にいやなら、べつにいいですけどね」


 既にショッピングモール内の服屋に入った後である。


「ここまで連れて来ておいて、それ言うんだね。

 私もスケジュールに、たまたま空きがあったからよかったけど。

 ……支払いはこっちで持つよ、うちの父が、急に申し訳ない」

「やっぱり、水子級の話だと思うかい?」

「そうに違いないとおもう。

 あの人は軍と交渉するのに、きみという存在をだいぶあてにしているようだから」

「買い被られているな」

「いつまで、くだらない謙遜なんて続けているの」

「――」

「自分が為すことの意味を、正しく受け入れられないのも、それはそれで無責任でしょう」

「……悪かったよ」


 そこまで言い切っておきながら、美岬のほうも謝る。


「ごめんなさい。会うたび、こんなことをあなたに言うつもりなんてなかったのに、私、余裕がないんだ」

「うん。人の目には、気を使わないとね。

 あまりカリカリしていると、何事かと思われる」


 この女の八つ当たりサンドバッグにされるのも、自分に原因がないわけじゃないんだが――やはり人の上に立つものとしての器は問われる。彼女だって、それを自覚的だ。


「きみにはもっと、かっこいいところを見せてもらいたいな。

 ついていく僕たちだって、プレッシャーを与えたいわけじゃない」


*


 おかしいな、僕が服を選ぶ回だと思ってたら、なんか美岬嬢の試着をスマホに

撮り収める係になっている。

 あとで護斗に、高く売りつけてやろうか?


「じゃなくて、僕が自分の服を選ぶという話じゃなかったか?

 もうだいぶ時間が押してるんだけど」

「制服で行けばいいじゃん、学生なんだし」

「ああ、もう。

 きみはなんでも着こなすんだな、うちの姉さんほどじゃないが」

「シスコン」

「そうだが?」

「無敵かよ、開き直っちゃって。

 そりゃ、天蜜レモンさんにはかないませんよーだ、本職と較べるのはなしでしょ」

「……まあたまの衣替えで、気分転換を図るのも悪くはないんじゃないか。

 おかげで本来の目的が飛んだけど」

「うーん、すっきりした」

「きみだけな」

「悪かったよ、今度私から食事に誘うから、ゆるして」

「あぁうん」


 なぜか枸櫞の両手は、彼女の買った彼女の服の手提げで埋まっている。


「車へ運べば、あとで藍堂さんに運んでもらえるから」


*


 理事長は枸櫞のテーブルマナーの手際に感心している。


「その年で、よく学んでいるな。本当に一般家庭の育ちかね?」

「……姉さんの教育が良かったことに、いま感謝しています」

「ところでどうやら、うちの娘にさっきまで振り回されていたようだな」

「――、昔からそうなのですか?」

「ご想像にお任せするよ」


 なんなんだろうな、この親子は本当に。

 ひとの人生を板挟みに、振り回して。


「ご子息の命を奪った水子級は、壱号機によって無事討伐されました」

「あぁ、知っている」


 理事長の食器を動かす手が、止まる。


「私の弱さが、那戯を殺した。

 言い訳をするようなことでもない」

「――」

「ネーレイスを無視し、テルクの探査を強行したのが私だ。

 悔いはない」

「いったいそうまでして調べてきたものは、ご子息の命に見合うものだったんですか?」

「きみは、美岬なら私よりもっとうまくやれたと想うか」


 まぜっかえされた。


「現場を見ていませんからね。

 美岬さんが知らない、べつの事実でもあるなら、とかく」


 ふたりの間に、しばしの静寂が流れる。


「……本当にあると言うんですか?」

「だとして、きみは私の言葉など信じるかね」


 確かに、那戯の件は過去のことであって、僕は完全に部外者だ。

 口を出す資格なんてないんだろう。

 理事長は嘆息とともに、語りだす。


「ここからは、私の独り言だ。

 那戯の鮫人は、生前すでに覚醒していた」


*


 藍堂は車に美岬の荷を積み終えるが、彼女がいつまでも戻ってこないことに気づく。


「見失った?

 ばかな、厠へ行っただけだろう……」


 実際、女子トイレに行くところまでは確認できていた。

 取り敢えず、本人の電話にかける。


『久しぶりに戻ったが、すると壱号機は空の器か。

 丁度いいじゃない』

「……あんたは誰だ?

 それは美岬嬢の端末だ、彼女はどこにいる」

『問題ない。僕は美岬の兄だよ』

「!」

『あぁ、泉客那戯だ』


 美岬の声帯を通して、そう語りかける、美岬でないナニモノか。

 藍堂は戦慄した。

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