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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
12.真の魔性は誰か

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第59話 きみだけの女王様

 枸櫞は発令所の美岬に会いに来ていた。

 流石に翼の処遇を下してのちだ、困憊して見受ける。


「水子級はきみの仇でもあっただろ。

 伏馬翼は、目的を果たした」

「――、わかってる。でもごめん。

 いま、きみの話を落ち着いて聞いてあげられない」

「様子を見に来ただけだよ。今日はもうあがらせてもらう、お疲れ様」


 せっかく覚醒できた壱号機が、即刻欠番のような扱いにされたのだ。それに伏馬翼は、彼女にとって目的を同じくしてくれる存在には違いなかった。

 こうならないほうが、難しかろう。


*


 枸櫞は自炊が得意だった。

 姉や父の朝食など、いつも用意していたくらいだ。

 それを顧みてもらえる機会はあまりなかったけれど、シトラが来てからは、また徐々に腕前をあげていた。


「くえん、またあのおさとうとぎゅーにゅーとたまごでやくぱんのやつ、つくって!」

「丁度やってるところだ、よかったな」

「やったぁ!」


 フレンチトースト焼いてて、昔、姉さんと観た、離婚で妻に出て行かれたシングルファーザーの洋画があったのをふと思い返す。

 家事や食事のひとつも、習慣としてやるには体力を使うものだ。

 負担を受けているものは感謝されるなり、せめて認めてはもらいたいものだよな。

 主婦の気苦労の多少は伺えるところで、さて、そろそろ期末考査が近い。

 まだ二か月と経たぬうちから、補習や欠単に怯える日々が来るなんて、大体ネーレイスたちが八号機ばっかり呼び立ててくるせいなんだが。


「今度、自分でもやってみるか?

 火を使う時は、僕や大人が見てるところでやってもらうけど」

「しとらにも、おりょうりつくれるようになる!?」

「ちょっとずつ、練習重ねてけばな。安全第一、約束できる?」

「うん!!」

「――、じゃ指切りしよう」


 本当に、こうしていると年頃の子どものそれと、見分けがつかないわけだ……。この子のなかに、姉さんはいまもいるんだよな。

 呼び出そうか考えないでもなかったけれど、テルクの外では結局、満足のいく交信にはならないだろうから、我慢することにした。

 もっと色々、あなたと話したいことだって、沢山あるんだ。あなたが生きていて、初めて言えたことが。


「待ってて、シトラ。……姉さん。

 もうちょっとで、全部、終わらせるから」

「?」


(この復讐に、けじめをつける。

 それが終わって初めて僕は、テルクと正面から向き合える、そんな気がするから)


 それにしてもシトラが姉さんから生まれたなら、神社姫が姉さんだったことになるが――いや、姉さん自身の自我が再構築される過程において、神社姫の元々の自我のがシトラに引き継がれ、そっちが主立っていたのは間違いないだろう。

 にしても、ヤヲ因子の性質はなんでもありに聞こえるが、なぜ姉さんは、ネーレイスに関わってしまったんだ?

 それを知っている者がいるとすれば、生前にコンタクトをとった理事長くらいなものだろう、美岬嬢に至ってはそれを知らないわけだし。


「また難しい顔してるね」

「琉稀さん、おはようございます」

「おはよう、遅番ようやっとあがったぁ」


 バイトの深夜シフトから上がって、彼女は職員寮を訪ねてきた。


「んー、おいしそーな匂い。悪いけど、取り置きでお願い。

 しばらく寝かせて」


 当たり前のように、枸櫞のベッドへ彼女は向かっていった。


(まだはいとは返事してないんだけどね……)


「ありがとう、枸櫞くん」

「なんです?」

「枸櫞くんがいたから、那戯くんたちの仇がとれたんだ、きっと」

「……どうでしょう。みんな、頑張りましたから」


 翼の名を出さないのは、琉稀なりの配慮なんだろう。


(僕なんかより、琉稀さん――四号機の覚醒が、伏馬翼を駆り立てたかもしれないけど……そうだとわかっても、きっと複雑な思いをさせてしまうんだろうな。あぁ、先輩のこと、いっぱいよしよししてあげたいな……)


「やだなぁ、先輩。ほかの男の名前出てくるなんて」

「茶化さないの」


 ベッドのうえで、衣ずれの音がした。

 琉稀はぼんやり仰向けになっている。


「そっか。一区切り、ついたんだよね」

「――」


 僕が泉客に来る前の、共鳴者たちに何があったかなんて、ほとんど言葉でしか知らないけれど。それがおおくの悲しみを招いたことは、想像に難くない。


「琉稀さんは、王様ってなってみたいですか?」

「鮫人のこと?

 あんまり疲れてる頭使わせるの、やめてくれないかな。

 そうだね……枸櫞くんだけの、《《女王様》》ならやってあげなくもないかもよ」

「はは、そいつは……僕は、幸せ者ですね」

「結局あなたのお姉ちゃんには、勝てないかもだけど。

 わたしだって、枸櫞くんに見つけてもらったんだもん。

 簡単に手放せるとか、思わないでよね」


 琉稀は頬をぷくっと膨らませた。


*


 登校すると、護斗に廊下で会った。


「おはよう、アサくん」

「あぁ、ソラの字おはよう。……ありがとうな、水子級を倒してくれて」

「あれを倒したのは、伏馬先輩」

「わかってる。だけど、お前だって頑張ってくれたことに違いないだろう」

「――、あのひと、今どうしてる」

「さぁな。

 拘束はされていないらしいけど、それからどっかへ行ってしまった。最後に早朝、波止場のほうにいたところまでは、確認とれてるが」

「そっか」

「もうあのひとは、共鳴者じゃない」


 案外あれで、彼の重荷は降りたんじゃないか。枸櫞としては、不思議とそんな気がしていた。主義は真っ向から対立していたが、その主義に、人としての共感は寄せられないでもなかった。


「美岬嬢は、あれから?

 だいぶお疲れだったようだけど」

「俺だって心配してるよ、けど、クラスメイトはお前だろう。

 なんならまた、直接見てやってくれよ」

「そう、わかった。

 にしても美岬嬢、きみも含めて人望があるよな」

「いたたまれないんだよ、みんな。

 那戯さんの遺したものを、引き継ごうと必死なあのひとだから、力を貸してくれている。確かに、経営の才能はある、だけど人望というなら、兄の地盤を引き継ぐという姿勢をこそ、はじめて支援してくれるひとたちも多い。そうした繋がりはゆるやかな信任で、けして、頑強なものではないんだ。

 今時だって、結局女だてらに見られることは多いし、お嬢もそれが、うすうす自分の限界だと知っている」

「――、美岬さんは、きみみたいな優しい部下を持てて、本当によかったな」

「お、おう」

「なんだよ、照れてんのかよ?」


 そこで、枸櫞のスマートフォンに着信があった。


『私だ』「――、はい」


 理事長の声だ。流石に身内を殺された、水子級を倒したともなれば、一報くるかと想っていたが、夜に街のレストランに招待された。

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