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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
12.真の魔性は誰か

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第56話 決闘

 手甲鉤に、護斗の銛を召喚して対抗する。


「……シトラ、リターナーは出さない、これは僕と伏馬翼とでつけるべき決着なんだ。許してくれ」


 シトラは膝の上から、僕のことを不安げに覗き見ている。

 枸櫞は寂しく、ほほ笑んだ。


「美岬嬢との約束を果たさないとな。

 僕たちは、全員で生き残る」


 そこには本当のところ、あんたが欠けないでくれていたら、そう願わないではなかったけど――あんたは、僕らと根底から主義が異なっている。互いの主義を尊重しても、最後に棲み分けることのできない、決定的な断絶だ。互いを理解できてしまうから、絶対に互いを認めてはならない。……俺には、あんたが鮫人に乗る限り、シトラを害する懸念が拭えない。


『短い間に、よく仕込まれたモノだ』

「水子級は斃したんだろう?

 まだ気に入らないことがあるってのか」

『いいや。これは俺個人の主義の問題だな』

「ネーレイスが、あんたから奪った人たちに、あんたは充分報いている」

『まだだ。

 俺から家族と仲間を、その尊厳を悉く奪い貶したこの世界を、俺はけして赦さない!』


 翼は淡々とそう語った。枸櫞は、息を呑む。

 ここまで一貫していると、呆れを通り越して、美しささえあるものだ。


「あんたの在り方は、とても美しいよ。

 だからこそ、《《俺は》》それを認めない」

『人を惑わす唄に酔い、人を惑わす偶像となる!

 それがお前たち姉弟きょうだいの願いか!?』

「そうとも、あんたがけして認められないことだ、人は己だけで生きていかない!

 僕には姉さんが必要だった、いつだって!

 それはいなくなったわけじゃない!」

『シトラとかいう、紛い物に惑わされてか!?』

「違うッ!

 シトラはシトラだ、姉さんじゃない!

 姉さんの言葉も声も、家族として遺してくれたものすべて、僕のなかで息づいて、《《俺》》が無駄にしないって、そう決めたから!」


 八号機は、壱号機の剣戟を押し返す。


「始めは弱くたっていい。

 強くなるのは、変わることだから――僕と姉さんが、積み重ねてきたのは、そういう時間だった!」

「そのお前の姉さんは、殺されたんだろう!?

 現実から、ネーレイスに逃避するのをやめろと言っている!」

「シトラは僕に都合のいい存在じゃない、いつだってな!

 死に場所を求めていた僕に、容赦なく生きろと突き付けてくる!」

『――』

「テルクやネーレイスだって、現実なんだ。

 人の心を映す鏡であり、僕らを惑わすものだ。

 だけどな……惑わされるってことは、僕らが弱い存在のままだって、弁えさせてくれるってことだよ」

『なにを、言っている?

 惑わされていいわけが、ないだろう』


 ふたりの剣戟は、それからも続く。


「伏馬さん、あんたは強い。

 だけどその強さだって、家族を愛して初めて手にした力だったはずだ」

『何が言いたい!』


 再構築された手甲鉤の爪が、そのとき八号機の胴に刺さる。

 枸櫞は同調のフィードバックで、吐血しかかるが、それを敢えて呑み込む。こういう小回りがきく得物との戦い方は、まだ教わっていない。……ここまでよく耐えた方かもしれないな、自分ながら褒めてやりたい。


「僕はシトラも姉さんも、泣かせない。

 そういうやり方を、探し続けるよ。

 だから――シトラを泣かせるあんたのやり方だけは、認められない」

『そう、かよ。

 ……そう、だな。お前を侮っていたよ。

 人魚の力に染まりゆく、お前に人としての核などないと。

 それは間違いだった、だが、俺の答えは変わらない』


 念動が発動し、八号機は弾かれ、動きを止められた。


『運がなかったな、天充枸櫞。

 次は外しようがない。朝桐の銛もなければ、今更お前の手に残るはやはりそのふざけた首輪だけだ、死んでくれ』

「!」

「くえん!?」

「問題ない」


 やつが正面から異能を使おうが、足元は海、敵は壱号機のみ、ならばこちらも出し惜しむ必要はない。


『言いそびれていたが』「!?」

『俺のは単なる念動じゃない、自らの周囲のベクトル場なら、そこそこ操れるらしい』


 海水の拘束を脱し、壱号機が浮遊する。

 これで海上に縫い付けられているのは、八号機のみとなった。


「本当に、そうなら!」

『ふん?』


 枸櫞は首輪を戦輪状に再構成し、迫る壱号機へ投擲する。

 直撃コースだったが、戦輪は装甲表層を撫でて逸れていった。

 壱号機は容赦なく、通過した戦輪そのものを海中へ念動で叩き落とす。


『また奇天烈な芸を、驚いたぞ。

 だが、これで終わりだ』

「いいや。僕はまだ、諦めちゃいない」


 シトラを抱える以上、この程度のことで折れていいわけがないのだ。

次回更新のサブタイトル、予告しておきます。

第57話『異常お姉ちゃん』(ちょっと待て???

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