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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
12.真の魔性は誰か

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第57話 異常お姉ちゃん

 壱号機が上空からとどめを刺そうと降りた時、海上から八号機を中心に濃霧が生じて手甲鉤を逸らされる。


「霧、バカな――悪足搔きを!?」


 どのみち、壱号機の念動に固定されて動けないハズなのに――いや、これは。


(こいつ――足場の水のみを干上がらせ、自重ただで崩《転んだだけ》れた?)


*


「さて……やつが体表のベクトル場だか力場だか操作して、攻撃をいなす以上、それをなんとかしないとだが――テルクの海原が解除されない。

 目視されるネーレイスは、すべて倒しただろう?」


 八号機は海上で尻をつきつつ、そのまま波で自身を押し流して体勢を立て直す。

 視界を塞いだことで、壱号機の念動から一時外れた。


「それは、《《まだ私の唄が残っているから》》」

「――」


 まさか、今更、野暮なことだ。

 その声は、シトラの声帯を通して出る、シトラでない声。

 本当に、あなた、なのか?




「ねえ、さん……」


 生前とは違い、腰から下まで届く、長い髪。裸で――僕の上、目の前に、覆いかぶさっている。

 シトラの身体を、乗っ取った?


「そう、これはネーレイスとしての私。

 シトラを産んでよかった……ちゃんとあなたの子よ、枸櫞」

「――は」

「どうせもう、ヤヲ因子のことは知っているでしょう。

 あれはそれを内包するものの願いに応じて、因果すら組み換える。

 ネーレイスとしての私はこれから《《あなたの種で孕んで》》、自分の器を産むの。どう、興奮しない?

 勿論、シトラと私とは、別の人格でしょう。だけれどね、あなたを愛していることは、どちらも本当。人格なんてそんなもの、この海原では大した意味をなさないの――だから私はシトラであり続けることができる。シトラとしての私を、この海で輪廻させる」

「……狂ってるよ、姉さん」

「だったらあなた、血の繋がった人間のままで、私を恋人と認められた?

 きちんと恋してくれたかなぁ?

 られないわよね、知っているわよ」


 檸檬は哀しげに笑う。


「だから私は、この海原で生まれ変わることに賭けた。

 計画通り、てんじゃないわよ、これはあなたの知っている通り、最低の事故から始まったこと。

 もとの身体が起き上がれもしないうち、ヤヲ因子が悪さをしたみたい。だけどこれで、ずっとあなたと共に在ることのできる」

「姉さんはテルクのことなんて、知らなかったはずだ」

「死ぬ前、いまの泉客の理事長さんから打診を受けたことがあったの。

 あれで地元は、鮫人とネーレイスのかかわりを、みな元からよく知っているのよ、あなたが考える以上に」

「姉さんは、ずっとシトラの中にいたの?」

「勿論。自分ではそうと、わかっていなかったけど。

 大丈夫よ枸櫞、あなたからシトラを奪ったりしない。

 私が好きなものを、シトラや琉稀も好きでいてくれただけ――こんなに幸せなことはない」

「なんで今更、出てきたのさ」

「シトラたちの中で、あなたとの日々を通じて、私だったものが育った。

 前は言葉も、ろくに思い出せなかったけど、今は違う。

 だから枸櫞、愛してるって、今ならあなたに堂々と言える」

「――、そういうことか」


 ひとつ、合点がいったことのある。


「姉さん、僕の記憶をいじったね。

 父親違いだったってこと」

「うーん、どうだったかなぁ。

 それより、いまはやることがあるんじゃない?

 伏馬のバカを、こてんぱんにやらないでどうするの」

「当たり前のように、言ってくれる。

 姉さんの言葉なら、あいつも止まってくれるかもしれないが」

「馬鹿言わないで、あれはあなたを傷つけた。

 私に救ってやる義理はないし、あれは救われたがってもいない」


 やはり――テルクに在るものは、大なり小なり魔性を孕んでいるんだろう。僕との想いを遂げるために、姉さんはネーレイスにまで、なってしまった。

 そりゃさ、大昔の高家は、近親間の婚礼が普通だったそうだけど、今は違うだろう。虚弱児云々言わずもがな、社会がそれを許さない。姉さんがネーレイスの血肉を得たとて、グレーラインもいいところだ。


「琉稀さんも、このこと知ってるんだね。

 踊らされていたのは、僕だけか」


 枸櫞は裸の姉を、そのまま抱き寄せた。


「もう離さない、なにも奪わせない」


 きっとこの海原から離れた時、姉さんはこの姿を保てないだろう。

 そうしたら、これはシトラに戻る。


「また、この海原に来るよ。姉さんに、会いに行く」

「うん。いつでも待ってる」

「僕は――僕の果たすべきことを、するよ」


 たとえ姉さんが、生まれ変わったとて、姉さんが奪われた尊厳モノに、僕はまだ報いていない。

 ようやっと近親未遂(※未遂ってなんだよ)チキンレースのタグノルマ達成できました。

 そんな魔性ノルマの達成、お前しか求めてない?

 それはそう……復讐コンプリートまで、今しばらくお付き合いください。

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