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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
9.チェインドライヴ

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第42話 十三号機の造反

 枸櫞は舟がテルクへ移動したことを、肌感覚で感じ取っていた。


「目標を呼び寄せる。

 艦の共鳴機構きょうめいきこうを展開し、十三号機に唄わせろ」


(十三号機の、唄?)


「鮫人の性能を最大限に引き出す。

 八号機もやっていることだろう、結局はネーレイスと同根だ」


 同根、か。遺跡にまつわるものが先史文明の遺物というのはわかる、だがその口ぶりからすると、ネーレイスも先史文明に属する扱いに聞こえる。というか、下手するとテルクそのものが、そういう産物であってもおかしくはないのか。


「鮫人の異能などと不確実なものに頼らずとも、我々はより効率的に、ネーレイスを滅する手立てを講じてきた」


 枸櫞は回答を求められていないし、だからこその猿轡だったが、目で訴えている。男は彼に向って説く。


「きみら泉客が《《人形ごっこ》》に興じている間にも、大陸側の動きはきな臭くなる一方だ。

 日本海を制するということが、史実どれほどの意味を持つかきみらは自覚していない。

 ネーレイスを一掃し、テルクを制する力を持つ。

 そうすることで我々は、大陸への新たな足掛かりをも得るだろう」


 妄言――でもないんだろう。ネーレイスと鮫人、テルクにあるものの意味を、枸櫞より肌身でわかっているものもいない。


「人魚の呪いに無粋な侵略者たちの業、このさき我々が克服しなければならないものは数多ある」


 とのことだ。そのとばっちりで暴行されるのは、こちとらたまったものじゃないが。


(克服、か――)


 復讐は必ず果たす。その先で僕は、姉さんを喪ってからそのままになったこの虚無を、自分の中の欠落を克服できるのか、ふと考えてしまった。

 陸軍に接触するはずが、まんまと海軍に捕まってしまった素人の自分、なんて現状をさておき。


*


 遺跡の鮫人のところへ、琉稀の姿をしたシトラが、三人を連れてきた。


「弐号機と三号機、それに五号機で、俺たちに枸櫞を助けろって?

 シトラちゃんよ、海軍だぞ、相手は本職の軍人だ。

 人形三機あったところで、それを東京に送るわけにもいくまい。

 或いは空間跳躍で、天充弟を呼び戻すんじゃだめなのか」

「それじゃ、足らない」

「?」


 濱田の言い分はもっともで、だけれどシトラはそのさきのことを言っている。


「十三ごーき、動くの」

「「「!」」」


 枸櫞を拉致したタイミングで、シトラは十三号機の話を持ち出した。

 濱田は護斗に窺う。


「彼女の言葉は、確かなのか」

「白錫パイセンの声で聴かされるのは、初めてですけど。

 ソラの字がここにいれば、言葉通りに備えたと思います」

「……時間を無駄にするわけにもいかないな。

 俺は三号機で待っている。

 ネーレイスに呼ばれるでもなく、テルクへ俺たちで跳ぶ日が来るなんぞ、ついぞ思いもせなんだ」


*


 十三号機の唄は舟側の共鳴機構に拡張され、ソナーには複数のネーレイス、動体の影が示された。

 枸櫞はそれをじっと見ている。


(ほかの人形の唄を間近に聞くなんてな。

 冷静に聞き分けると、ネーレイスやシトラのそれとは違う――寧ろ、《《逆》》か?)


 音源を逆再生されているような、不自然な感がある。

 動悸がした。僕のネーレイスに近しくなってしまった部分に、こいつは訴えかけている。

 人魚の唄――テルクには様々な伝承が流入して、混在しているんだろうが、この唄はそれを覆し、否定するために綴られる。悪意――ネーレイスの声にはいつも悲哀が乗っているのに、ここにかかるのは無造作な絶望だ。伏馬のように、ネーレイスへの怒りがあるのともまた異なる。自身を束縛するすべてのしがらみを、押しつぶすように。


(海軍はいったい、十三号機になにをしたんだ)


*


 テルクの浜へ跳ばされた、弐号機、三号機、五号機――そして四号機。


(なぜシトラは、八号機でなく四号機を?)


『護斗、濱田先輩、あれは!』

「!」


 先に奇妙な振動が伝わってきて、全身を静かに揺さぶっていく。

 苦痛――十三号機の感じている?

 海中から、うようよと無気力に揚がってくる、ネーレイスたちの白い肉の断片だ。


『来るぞ』


 濱田の声で、一堂は思念武器を携え、海へと身構える。

 四号機が真っ先に動いた。


「シトラちゃん――なにを!?」

『枸櫞を助けないと!』

「まさか、あの艦に?」


 潜水艦の艦首が水面に覗いたとおもったら、直後、下から三叉槍が突き上げる。

 三叉槍は刺すだけでなく、水に指向性を与えて放射状に爆散させた。

 舟は跡形もなく吹き飛び、近づいた四号機も浅瀬で尻をつく。


『きゃっ――』

「離れろ、あれは危険だッ!」


 四号機のフォローに五号機が入った。


『くえん、どこなの!?』

「まさか――あいつも跳んだ?」


 護斗はシトラの言葉を、敏感に読んでいた。

 枸櫞ならば、使えるものは何だって使う。こんなところで大人しく死んでやるタマでもないはずだ。

 次になにが現れるか、予想がつく。

 八号機だ。


「無事だったか、ソラの字」

『……あぁ。みんな、手伝ってくれ。

 十三号機を生け捕りにする』

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