第41話 拘禁
美岬は憤然と、理事長室へ赴いた。
「入るならノックぐらいしたらどうだ」
「天充枸櫞が、道中で海軍に拉致されたんですよ?
こうなること、あなただって予想できていたはずです!」
「――、美岬。これが結果だ。
政府や軍が本格的に動けば、我々などひとたまりもない」
「見え透いた犠牲を出して、どうしてふんぞり返っていられるんです」
彼女は怒りに肩を震わせている。
「遺跡から手を引け。あれは元来、我々の手に負えるものではなかったのだ。
お前はそうして、あの少年を取りこぼした。
次は一人だけでは済まされん」
「天充くんは、私の手で救ってみせます。
あなたに共鳴者たちを語る資格なんてない、犠牲を損切りしているだけのあなたには!」
美岬が部屋から出ていくと、父は頭を抱えた。
「……それがただの増長でないなら、天充枸櫞はこの難所を乗り越えていたはずだ。もう事態は決している」
*
後頭部の鈍痛がやまない。暗がりで目を覚ますと、後ろ手を拘束されていた。
「――」
「八号機の共鳴者、天充枸櫞だな?
どうやら人違いということもなさそうだ」
「……」
すっと息を吸おうとした彼に、ナイフを携行した男たちが警告する。
「叫ぶのはやめておけ、ここを水深何百メートルだと思っている」
「どこですか、ここは」
「きみに答えてやる義理はない、異端の共鳴者」
異端、か。
「こんなところへ問答無用に連れてきたとして、僕になにかやらせようってんでしょう」
(地元で先輩に会って、美岬嬢に教わった興信所を訪ねた。
駅から尾行されていた?
ようには思わないけど――)
「ヤヲ因子を、嗅ぎつけたのか」
「察しがいいな。こちらとしたら、言うこと聞いてくれればそれで済むのだが」
(潜水艦内……かといって、僕も詳しいわけじゃない。
だけど、すでに陸から離れていそうだ)
「当代で人形を覚醒に至らせたのは、八号機と二号機の共鳴者のみだ。
泉客の周辺では、遺跡に阻まれてしまうが――きみはその限りでもなかったのだから、我々には僥倖だ」
(陸軍に行くはずが、海軍に拉致られると。
共鳴者の争奪戦なんて、彼らはやっているわけか?)
「回りくどいのは嫌なんですが。
そいで、海軍さん方は僕になにをお求めなんです?」
「十三号機の共鳴者と協力し、この舟をテルクへ送ってくれ。
ネーレイス用に開発された、試作弾頭のテストだ」
「……御冗談を」
「きみは我々の周りを嗅ぎまわっていたはずだ。
十三号機の限定跳躍能力は、喪われていない」
「なぜ僕なんです。共鳴者はほかにいくらだって」
「天命を与えられたなら、国に生まれた海の男は、それを全うするべきではないかね。言い訳など必要ない」
押しつけがましい話だ。
「十三号機には、十三号機の共鳴者がいるはずだと言っている。
なんならこの場で死んでやるぐらい、僕はやってやるが?」
客観的には舐めた態度だろうが、枸櫞は本気だった。
話していた男に、直後殴打される。
「共鳴者の病理か?
お前たちは自分らの価値を高く見すぎている。
必要なのは故国へ奉じる駒だ、おのが誇りもない輩は、ほんとうにたちが悪いな」
鼓膜が破られたらしい、半分くらいの物音が、遠ざかってしまった。
この程度なら、人魚の力で徐々に修復できようが――やつらは僕に、抵抗させないつもりだ。
閉鎖空間ということもあり、彼らはここでの出来事を隠蔽できる気でいる。
実際、できてしまうんだろう。だから平然と手を上げられる。
(待てよ。なぜ十三号機の能力をあてにしている。
八号機やシトラではなく――泉客からの情報すべてが、こちらに流れているわけじゃないなら、彼らは僕自身が八号機を跳躍できるとは知らないのか?)
それとも、枸櫞にそう思わせるブラフかもしらないが。
舟をテルクへ転移させ、ネーレイスへの試射訓練?
陸軍はこのことを掴んだとして、そののちどう動いているだろう。
(もし陸軍に伝わっていないなら、こちらが約束を反故にしたと思われるのは、よくない)
出かけに理事長から、接触すべき人物の連絡先は貰っている。
美岬嬢は両軍とも、介入されたくはなかろうが――こうなったら、巻き込んででも解決を図ろう。“暴”には、相応の権威で対抗しなくてはなるまい。
「なら十三号機だけでやってればいいでしょう、こっちまで巻き込むなよ!」
「減らず口だな。人造の共鳴者など、消耗品だ。人形を覚醒できる手堅い駒が本命だ、きみは生かさず死なさない」
口に猿轡を押し込まれた。
「大人しく協力するとは思えなかったが、結局こうするのが正解のようだな」




