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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
7.琉稀

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第34話 真水狩人

 父の死んだ日以上に、だいぶ凹んでいる。

 自覚があるくらいに、ひどい。

 あれから琉稀さんは、スマートフォンの着信にも返事がない。


「声が、聞きたいのに――……姉さん、どうしよう。

 もうあの人に僕の言葉なんて、届いてないのかな?」


(姉さんみたいに、頑張り屋さんなひとを、好きになってみたんだ。

 あなたにはいつも「陰でする努力は当たり前」で、だけど同じようにそれを知っている人には、やさしく寄り添ってあげたいんだって――本気だったよね。

 僕もいまならその意味、少しわかる気がするんだ)


*


 夜の波止場へ、美岬は呼び出されていた。


「ずるいよ、美岬ちゃん」

「――」


 呼び出したのは、琉稀である。

 振り返った彼女の髪が、潮風にたなびいた。


「いや、卑怯なのは私か。年下の足を引っ張るような言葉で、悪者みたいに言って……あなたが枸櫞くんのこと、真剣に助けようとしてくれてることも、わかってる。そのやり方が、些か無神経すぎるのも、あなたらしいっちゃらしいし」

「白錫先輩」

「美岬ちゃんて、誰かのこと真剣に愛したこと、ないよね。

 那戯くんが死んだとき、あなた、理事長のこと許さないって言ったけど、私、それを見てつくづく――馬鹿だなっておもった、あなたのこと。

 よくわからないって、その顔よ。

 せっかく枸櫞くんは、親切にあなたへ説いてくれたんでしょう?

 その場限り、形だけの関係は合理じゃなくて、迎合だって。

 そこに心が伴わないものだと気付いて、ひとは支持し続けることなんてできないの。

 だけど……お金かぁ、枸櫞くんはひとりなら、きっと私を選んでくれてた。流石に、わからなくないよ。

 翼くんにいつまでも振り向いてもらえなくて、そんな私でも一人前だ、価値ある存在だって、あんなに真剣に寄り添ってくれるひとなのに――私はあの子の足だけは、絶対に引っ張りたくない、引っ張らせたくもない。

 だからあなたが彼を支えたいなら、その下心も込みで認められるの。

 わたしが大人だからじゃないよ、枸櫞くんを幸せにするには、どうしたって必要なことだから。

 彼の隣にはシトラちゃんが必要なの、どうして檸檬なんかに似てるかは知らないけど、流石に『姉弟きょうだい』じゃ、恋愛なんてならないし。私、もう恋人ですら、なくても……ただ枸櫞くんの永遠になりたい、あの子のなかの、消えない何か」

「先輩、私が無神経なのが悪かったです。

 婚約の件は冗談にしても、彼の生活を支援するつもりだったんです。

 ただ彼の覚悟が知りたかっただけで」


 直後、美岬は頬をはたかれた。


「冗談――冗談って、何?

 私はいいよ、どうせいつもそういう扱いだし、べつに枸櫞くんの一番じゃなくたって、これまであの子が真剣に向き合ってくれた時間が、嘘じゃないってわかるもの。

 だけど枸櫞くんはそうじゃない!

 檸檬を亡くしても、お父さんに愛されてなくても、彼は……愛されて、報われる資格があるはずなんだ、きっとシトラちゃんは、そのために彼のところに来たんだ。

 あなたはそんなことすら、ろくに読もうとしない!」

「ごめん、なさい」


 美岬はその場で、膝から崩れて尻をついた。

 足に、力が入らない。それまで富んでいた自身の人生で、味わったことのない類の無力感だった。屈服した、勝ち負けでなく、ふたりの関係を踏みにじったことの意味を、今更に思い知らされている。


「――、……先輩?」


 いつの間にか波止場に、琉稀の姿はなかった。


*


「ネーレイス、現れたのか」


 八号機に慣れすぎているのか。いつの間にか、遺跡や人形から離れたところにいようと、テルクにほかの人形が呼ばれたことが、体感としてわかるようになっている。

 シトラが、部屋で眠そうに目をこすっていたが、ぱっと覚めた。

 なにか、焦っている。真っ青になっていた。


「くえん、《《まだ》》行っちゃダメ!」

「人形のところへ跳ぶんだ。向こうへ行ったのは、壱号機と四号機?

 よりによってあのふたり――シトラ、どうした」

「……」

「っ、もういい、待機しないと藍堂さんにどやされる」


 美岬からの合鍵でも持っていたんだろう、藍堂がこっちの部屋に駆け込んできた。


「どうした、天充。

 お前ならとうに遺跡へ行ってるかとおもったが」

「シトラの様子が変なんです。

 藍堂さん、この子を頼みます。

 八号機には、僕ひとりで行くしかないらしい」


*


 四号機が、テルクの波間に漂っている。

 人形の心臓部を、一突き。

 それ以外の外観は、ひどく綺麗なものだった。


「……なにが、あった?」


 壱号機はだらんとやる気のなさそうにして、浅瀬へ立ち尽くしている。


「伏馬、ここでなにがあった。

 説明、できるだろ!?」

『ネーレイスだ。

 真水狩人アーウィヅォウト、そろそろ習っているだろう?』

「――」


 この日を境に、四号機は欠番となった。

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