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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
7.琉稀

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第33話 神格等級

 シトラを部室で膝に載せながら、美岬の説明を受けている。

 イヌイットの神話だったかに、セドナという神の話があるそうだ。

 それもまた人魚とかセイレーンに似通った姿を、時としてとるらしい。

 テルクには、それが実在する。


「上位個体ってこと?」

 セドナ級……」

「だけど、普通の木っ端なネーレイスとは異なる。

 上位個体、間違ってはないけれど、いずれかと言えば上位存在といったほうが正しいかもしれない。神社姫がそのように」

「SF好きそうなやつが、よく言うアレかぁ」

「出現するネーレイスに、私たちは神格等級――まぁ、だいたい個体ごとが有するヤヲ因子の総量を大雑把に分類してるんだけど、そう呼んでいる」

「因子が多ければ多いほど、神に近づく?」

「おおよそその認識で、間違っていないね。

 セドナたちの時点くらいで、真水狩人アーウィヅォウト級あたりになるか……」

「彼らも、天変地異を引き起こすほどの力を?」

「だけれど、セドナや神社姫に至っては、そも鮫人との交戦記録がない。

 テルクで確認はされるのだけれど、他のネーレイスによる鮫人召喚のなか、間接的にその存在を確認され、示唆されるばかりに過ぎない、今までも」

「つまり――あの日、神社姫が八号機を呼びだしたこと自体、異例のことだった」


 美岬は頷いた。


「きみ、ネーレイスを寄せつける色香でも持ってるの?」

「冗談きついな、シトラだけだろ、そんなんは」

「くえん、うわきだめ、ぜったい」

「おう?」


 ……にしても僕は、どうして当たり前のように、ネーレイスと戦うこの生活を、受け容れちゃってるんだろうか。

 姉さんの復讐が、僕の目的なんだとすれば、ネーレイスとの戦いは直接に関係していない。ここまでの戦いは、呼ばれてやむなく対応してきただけだし、五号機の件なんて実質、久原の暗躍を防ぐため、なし崩し的に美岬の側で動いたようなものだ。

 ここまでを生き残れているのだって、不思議なくらい。

 シトラが、やはり僕を導いているんだろうか。


「たく、僕がいつ浮気なんてしたってんだ。

 これでも一途に尽くすタイプと思うんだが」

「れもん?

 それともみしゃき?」

「……なんで、姉さんが出てくるんだ。

 それに、そこは琉稀さんだろうがよ!」


 シトラの頭をちょっと強めに撫でまわしてやる。

 まさか本気で近親とか言わんよな……?


「うわん、せっとくずれりゅー」

「まずはこの地毛、整えてから出直してこい」

「それで枸櫞くん、これからどうすんの」

「と、言いますと」

「バイトしたいとか聞いたけど」

「あぁ、なるべく早々に」

「最近は護斗くんたちが特訓つけてるはずだよね、そんな暇ある?」


 彼は苦い顔をする。


「あれ、控えるようにお願いしていいですか。

 ネーレイスとの戦いなんて嫌でも避けらんないんだし、身構えててもしょうがないでしょう?

 そりゃあ八号機がネーレイスやテルクに向けた、戦略の要になるのはわからないじゃない、だけどこのままじゃ身が持たない」

「はぁ……」


 なぜか嘆息されてしまった。


「枸櫞くん、真面目に聞くけど。

 きみ、なにがしたいの?」

「また啓蒙家みたいなことを」

「きみがシトラちゃんと一緒に過ごすために、なにができるか」

「――」

「目先の日銭を稼いだところで、そのためにシトラちゃんかまってあげる時間も、学業もままならなくなるんだったら、本末転倒じゃない」


 流石に、押し黙らされる。

 美岬のほうはつづけた。


「学費は、ご家族の遺産をきっちり管理できれば払えるかもしれない。

 だけどそれは、きみの実力や仕事で得られた対価ではないでしょう。

 このさき学園出てからも、シトラちゃんとあなたの人生は続くのに、行き当たりばったりに見える」

「そりゃ、そうだろう。

 けど、だったら僕にどうしろっての。

 シトラを育てる、責任は持つつもりあるけどさ」

「体面的に、私の婚約者になるとか」

「――、冗談だよなぁ?」

「ひとをもっとうまく使いなさいと言っているの。

 きみが琉稀さんとよろしくやっているのは知っているけど、この街に来てからこれまで、泉客の力がなければ、きみはまともな生活なんてできてたと思う?」

「脅して、いるのか」

「そう取られても仕方ない発言だったのは、謝る。

 だけど、婚約なら気が向いたときにいつでも破棄できるでしょう。

 縁者として私に、金の無心をすればいい。卒業するまで待ってからでも――」

「ヒモになれと?」

「それが現実的でしょう、グループの資金が、あなたとシトラの生活をバックアップする」

「申し出自体は、とてもありがたいんですけど……その」

「あによ、私の顔が気に入らない?」

「いや、美岬さんの容姿にどうってんじゃない」


 見てくれはいい女だけど、時折要所でぶっ飛んだことばっかり吹っ掛けてくるし、もし仮に琉稀さんと付き合ってなくても、恋人や男女の間柄になるのは、ごめん被ったと思うが。


「きみなら、初対面の相手に、いきなり復讐がどうこう持ち掛けるような女のなにを信じる?」

「――」


 少々長い沈黙が、ふたりの間に流れる。


「美岬さんは合理的にやってるつもりだろうが、そういうのは周囲の人間の打算や風評に迎合してるのと同じだよ。きっときみ自身がもっとも気にくわないものだ。

 ひとに頼るのはいいことだろうけど、だとして家族や身内を打算の道具にするのは、やめたほうがいい。きみ自身がそういう人間になってしまうと、それはきみがいずれ血の通う家族を求めるようなとき、必ずあとで跳ね返ってくるよ。とてもよくない意味で、だ」

「だけど、あなた」

「……たしかに、僕にはあとがない。

 なあなあにできないし、シトラを育てるとなれば、僕自身なにかしら代償にするしかないんだろう。

 きみの提案を尊重はさせてもらう、ただそれを受けるかどうか、少し時間をもらえないか」


*


 美岬に形式的な婚約を持ち掛けられた件、すでに琉稀たちの耳に入っていたらしい。

 僕は浅葱さんに社務所へ呼び出され、正座させられていた。


「その、なんで僕は正座させられているんです」

「枸櫞くん、さすがに浮気はよくないと思う。

 シトラちゃんの情操教育的に」

「冤罪です!?」

「でも、美岬嬢の婚約者になるんでしょう」

「そりゃ持ち掛けられましたけど!」

「琉稀というものがありながら?」

「――、ちゃんとその話、するつもりでしたよ。

 だけど、美岬さんにはきちんと断るつもりです」

「つもりってなによ?

 男なら筋通せよおらぁ!」


 浅葱さんがいつになく、気色立っている。


「僕には金がないと言われたんです。

 そんなことで、この先シトラを育てていけるのかって」

「「――」」


 琉稀は浅葱の隣で見合わせるけれど、ずっと黙っていた。


「美岬嬢のことだ、縁談の風除けに、すでにそういう相手がいるってことにしてあれこれ言われるのを逃れたいんでしょう。

 それならアサくんでも立ててればいいものを……」

「枸櫞くん」


 琉稀が口を開き、反射的に彼も言う。


「はい」

「きみだって、わかっていたよね。泉客さんがあなたに向ける関心が、テルクだけのことじゃないって」

「――」

「そんなに私、頼りないかな。

 やっぱり檸檬や美岬に、わたしじゃ敵わない?

 ぱっとした顔やお金も名声も、わたしなんてなんにもないもんね」

「違っ……僕は琉稀さんのことが!」

「いいの、もう」


 好きなんだと言い切ろうとして、止められてしまう。

 琉稀は、泣いていた。

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