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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
7.琉稀

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第32話 爆鳴気

 シミュレーターには珊瑚たちも参加している。

 藍堂から説明が入った。


『ここには湾内から海中遺跡、そっから海嶺に至るまでの水圧や気候をインプットしてある。

 鮫人に乗るときもそうだが、水圧や波の勢いを舐めてかかると、死ぬぞ』

「――、アサくんたちって、漁師の家系?」

『専業じゃないけどな。

 地元民として……お前に、本当の海の怖さを教えてやる』


 ケラティオン――灰色の人型、汎用作業機である。

 思考追従速度では他のカラットフレームとは一線を画する、柴丁ぜいん重工製の機体だ。オイリュトミーグラフの計測機構を最初に導入したシリーズであり、その後も外観の変わらないわり、駆動系のアップデートは世代をくだって繰り返されているらしい。


(つか、護斗くん、ケラティオンにも銛持たすんだ)


「その銛はキャラ付けですか」

『もう始まってるからな』

「まだルールも聞いてないのに!?」


 すでに護斗機は海中で足首のホバーを噴かして迫っている。


『説明がないってのは、そういうことだ。

 もうわかるだろう?』

「!?」


(こっちは武器もないのに!?)


「不公平だろ!」

『伏馬先輩なら、俺より容赦してくれないぞ』

「くっ――」


 身一つで、回避を始める。


(三機すべてが敵?

 これらを返り討ちに、無力化するまで繰り返すつもりか)


『どうした、避けるだけか?』


(挑発に乗って自分を見失えば、ほかの二機に隙を突かれる)


「つか、珊瑚くんまで敵なの!?」

『ごめん、みっちゃん。

 藍堂さんからの指示なんだ』

「示し合わせやがっ――」


 珊瑚機、藍堂機も同じく銛を握って、枸櫞の隙と死角を狙っている。

 藍堂曰く、


『ネーレイスは待っちゃくれないそうだし、多対一がいいだろう。

 まぁ何度か、死に戻りを繰り返してもらうつもりだが』

「勝利条件は?」

『そんなもん、自分で考えろ』

「――、おまえらはいつも説明が少ない」


 急に潮の流れが変わった。

 完全に海中なので、海の表面は頭の上にくる。

 そこにある微かな光を眺めて、……どうにも昼の曇天判定らしい、こっからの潮や波の動きを考えろと。


『そうさな、ヒントくらいは教えてやろう。

 途中から十五分おき、昼夜を含めた時間帯も入れ替わる。

 せいぜい逃げ延びてみせるといいが』

「――、あぁ、どうも」


 ケラティオン内部のコンソールを見るが、縦の直方体で、鮫人のようなゆったりとしたモニターとも異なる。背後までの視界は確保されているが、まずはこの仕様になれなければ。


「逃げきらなきゃ、体勢を立て直せず、逃げると三機といつまでも決着がつかない」


 そして今日明日は土日なので、実質、制限時間など設けずに護斗らはやる気だろう。


(人形の操縦には免許がいるそうだけど、シミュレーターや似たようなゲームは、心得がないじゃない)


 姉さんとは昔、時々やっていた。


「鮫人と共通するのは、せいぜいが手足がある、ぐらいだろう。

 まぁおそらく、護斗と藍堂さんが要求しているのは、こいつを自分の身体と同じくらいに扱ってみせろってのが、ひとつ。

 次に、ネーレイスとの乱戦下でも俺だけは生き残って、八号機で立て直せるように――てとこか。

 頭ではわかっているんだが」


(何回も繰り返したくないなぁ、これ)


 珊瑚機の突進は、速度だけはあったが直線的すぎ、それを狙って枸櫞が取りつき、銛を奪取する。


『蹴っ――』


 さらに珊瑚機の背部にふたつあったボンベの片方、ロックを外して、残る人形を蹴落としていった。


「悪く思うなよ、珊瑚君。

 こっちも逃げ続けるほど、蓄えてない」

『動きが止まってるんだよ!』


 護斗機をすれすれで回避するが、今度は藍堂機が正面から迫った。


『ボンベを奪った意味もなかったな、その畏れ知らずは褒めてやろう!』

「……ところで御仁、僕は化学という人の叡智を愛してるんですよ」

『な――』

「爆鳴気って、ご存じです?」


 珊瑚から奪ったボンベは、水素のものだ。

 酸素は呼吸用のそれを、自機から供給すればいい。

 ボンベを離しさえしなければ、あとはこちらの《《自爆》》に藍堂を巻き込んでしまえばいい。



『天充、それ次から禁止な』

「――」

『初戦で俺と朝桐くんまで墜としたのは褒めてやるし、機転そのものもまぁきらいじゃあなかった。だが、やけになっての自爆はなしだ。

 お前にはもっとも難しいこと、生き残るために全力を注いでほしい。そのためのカリキュラムだ』

「はい……」


 最初からそれ言ってくれれば、まだやりようもあったと思うんですが。


『いいか、お前のために言っているんじゃない。

 お前が八号機で生き残らなければ、他の共鳴者は、非覚醒状態の人形での劣勢をあっという間に強いられる。

 これまでならとかく、ネーレイスの出現周期の早まっている原因を断定できない以上、我々は八号機の空間跳躍を前提として、ここからの戦略を考えねばならない』

「でもこの教習、あんたら三人タコ殴りしないと終わらないんでしょう?

 僕がコンティニューするたび、こっちのケラティオンは燃料事情がリセットされますけど、最初から五分前後で酸素が枯渇する前提じゃありませんか」


 最初に十五分おきがどうとか言っていたのだって、実質ブラフだったんだろう。こちらが自分の状況を確認して処理する能力があるのか、までを見定める。


『節約すれば八分は』

「んな詭弁に騙されてやるとでも?

 流石に殺しますよ」

『……おまえ、可愛げがないって時々言われん?』


 三機でよってたかって襲っている以上、こっちが激しく動いて消耗するのも見計らっているはずだ。


『ちなみにあとから、濱田先輩も来るから』

「このうえ増えるのかよ!?

 マジで勘弁しろッ!」


 枸櫞は声を荒げた。


*


 被撃墜数は枸櫞、珊瑚、護斗の順で下降していく。

 そういう訓練であるゆえの必然だったが、不満を抱いても、今度こそは抗議する余力も残らない。


(濱田先輩来てから、ほんとに難易度ぶちあがったな)


「伏馬先輩と同じぐらいから、人形やってるって本当なんですね……」

「うん?

 まぁ、後輩との模擬戦、楽しかったよ」


(このひとだけ、ほとんど落ちなかったんだよな……)


 このひとを目標にしておけば、少なくとも伏馬のやつとまた組むようなことになっても――切り抜けられるかもしれない。


「濱田先輩から見て、伏馬ってどんなやつですか」

「あいつのことは呼び捨てなのね。

 真面目だが、融通が利かないことがある。

 ネーレイスで身内を喪っているってのが、僕らにも引け目でな。

 あれが言うこと聞くの、美岬ちゃんくらいだよ。

 那戯くんが死んだとき、現れたネーレイスなんだがな。

 あいつの親父をやったのと、同じだったんだ。

 俺たちは水子みずこ級と呼んでいる個体だ、ネーレイスには寿命がないとされるから、まだ向こうにいるんだろう。

 あれを倒すまで、あいつの復讐は終わらない」

「始まっても、いないかも」

「え?」


 伏馬のやつは、きっと水子級という単一の個体にすでにこだわっていない、そんな気がした。それはある意味、自分や美岬もそうであって。


 ――でもあなた、今のままでいいの。

 お姉さんをあんな目に遭わせたあの男や、世間の好奇と騒ぐだけ騒いで貶めておきながらのあの無関心を、許せた?


「……きみは、ネーレイスを飼っているんだったか?

 胸中は複雑なものがあるんだろう、俺だって過去、おおくのネーレイスを屠ってきているし。

 こんなことを言うと、あいつには怒られるかもしれないが、ネーレイスは意思を持った生き物というより、現象がカタチを得たようなものだろう、つまりその――あぁ、俺もそんな口がうまくないんだよな、あれだ。

 あれの存在そのものに、善も悪もない、というか」

「はい。おっしゃりたいことは、わかります」

「あいつが復讐を遂げられたとして、そのさきであいつは新しい人生、始められるんだろうかって、怖くなる。

 私怨を晴らしたい以外の価値全部を、かなぐり捨てている」

「――」

「復讐をやめろ、とは言わんさ。

 だけど、今を生きるものが、死の影に囚われ続けるのは、はたから見ていて気分のいいものじゃない」

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