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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
7.琉稀

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第31話 特訓

 生前の美岬の兄がどんな人物だったか、調べている。

 それとなく、護斗にも聞いてみたが――、


「仲のいい兄妹けいまいじゃあったさ。

 けど、あの日の出撃に際して、発令所にいたのは理事長と美岬さんだけだ。理事長は発令所の指揮権限を美岬嬢に譲り、以降は遺跡やテルクのことに、口を出さなくなった」

「そのお父さんを、彼女は胸中複雑に見ているようだけれど?」

「まぁ、な。

 那戯なざれさん――お兄さんのことな、と、理事長は生前の折り合いもよくなかったから、そのことが尾を引いてしまっているんだと思う。

 あまり、このこと美岬さんには」

「流石に、聞かんよ」

「あぁ、くれぐれも気を付けてくれ。

 ところで」

「?」

「ある人が、お前に特訓を受けてほしいと言っているんだ」

「特訓、なんの。

 鮫人について、できることなんてあるのか。

 いざなれば、嫌でも向こうに飛ばされるだろう、毎日のように」

「心技一体とはよく言うだろう。

 いざという時、心に身体が追いつかなかったら、お前はどうすんの」


(急にアサくん、説教始めたな。

 これ嫌な流れ来てねぇか?)


 そして、発令所へもうひとり、やってきた。


「それを身体に叩きこんでやると言っているんだ」

「藍堂さん……」


(ごついひとだと思ったら、案の定フィジカル要員だったか)


「わりぃアサくん、今日は腹痛くなってきた。

 このまえの怪我が響いてるっぽいなぁこれ」

「関係ねぇよ、おまえのはすぐ治るだろう、どうせ人魚の肉喰ってんだ。あとはその惰弱な精神さえ、なんとかなれば――」

「本気で言ってないよな?

 ネーレイスの力なんて、あてにしてるなよ???」


 藍堂に肩を掴まれた。


「ここで逃げるのは、男らしくないぞ」

「いっ――」


 逃がしてもらえないらしい。


*


 学園から交叉神社の鳥居くぐって境内までを、ノンストップで走らされた。


「存外その細身で、よく喰らいついている。

 骨はありそうだ。

 遅いが、途中一度も立ち止まらなかったな?」

「ひー、ひー……ひー、あんたら、なんでいきなり持久走やらすんだよ……始めるにもテンポってものがあろうに、トレーニングなら、段階を、踏めぇ――!」

「まだ声を出せている。

 もやしだと聞いてたんだが?」

「いや、彼の姉さん芸能人だったでしょ?

 昔からダンスやらに必要な基礎体力だのは一応仕込まれたらしいですよ、存分にやってください」

「アサ、お前、あとで覚えとけよ……っ」


 人外の回復力の限度だってどこまでかわかったものじゃないからって、常人なら確実に倒れるスケジュールで走らされてるし、身体中がからからだ。


「恨むのは好きにしてくれていい。

 一息入れたら続きだ、五分もあればいい」


 だが、ここで藍堂は護斗を制する。


「いや、その辺にしとけ。

 朝桐くん、きみの焦りをあまりあてつけてもいかん」

「――、ですが、ネーレイスは待っちゃくれないんです」


(ここまでだって、ソラの字がうまくやってくれてるのはわかってる。

 だが、準備が足らないままネーレイスと戦わせるなんてことにまたなるよりは……こいつが生き残れるかで、みんなの生存率も大きく左右される、手を抜けるわけがない)


「さっきの天充くんの言い分は一理ある。

 口では惰弱なことを言うが、こいつは差し迫ったことから逃げ出す性分でもないんだろう。

 きみが自分で消化できもしないスケジュールでは、たとえ生きてても、しばらくは壊れるぞ。そうなっては元も子もない。

 まず半時間はくれてやれ、そっからVRでの人形教習をやる」

「なるほど、カラットフレームですか」


 へとへとな枸櫞は、逃げる気力の残っていなかった。


(まだ、続くのかよ)


 特訓という名のしごきそのものは、やめてくれないらしい。


「ハッハッハッハァ――」


 だいぶ遅れて、ジャージ姿の珊瑚くんが女子みたいな走りで境内に辿りつくが、こっちは本当に死にそうな息のつき方してる。


「さ、珊瑚くん?

 無理についてこなくて大丈夫なのに」

「み、みっちゃんが頑張ってるから……僕が逃げるわけには」

「そこは頑張ってアサくんを止めるほうに行って欲しかったんだけど」

「でも、この前の戦闘、僕が弱かったから、あんなことに……」

「責任、感じるのはわかるけど、あれは鮫人の覚醒を軽んじてた、僕ら全員の責任だ、むしろ二号機でそれがわかってよかった。

 珊瑚くんは、頑張ってる。頑張ってくれていいけど、身体を壊さないでくれ、頼むから」

「そうだね、僕の身体はみっちゃんだけのもの、だから……ね」

「?」


 藍堂は怪訝に珊瑚のことを見て、護斗に訊く。


「なぁ、彼、《《彼》》なんだよな?」

「時々俺も確信が持てなくなりそうですけどね。

 珊瑚のやつ、体質で日差しに強くないから、普段ならまず見学させるんです。あいにくの曇天だし、本人やる気出しちゃったし……けどあとで障らない程度に控えないと、あれのかーさんに俺が殺されかねないんですけどね」


 護斗にも怖い人間などいたのだなと、枸櫞はぼんやり考えながら、口元の汗を拭う。



 木星圏、小惑星帯に人工天体《ダイソン球》を造り、宇宙移民が成された時代。

 すると多国籍での出資競争の体をなし、とりわけ中華系資本と人材がそちらに流れて、ダイソンアーミーという統治組織は、実質的な軍事独裁体制を築いてしまった経緯がある。

 そうした宇宙開拓史のなか、カラットフレームと呼ばれる開拓用パワードスーツの規格が生まれた。

 両腰部にワイヤーアンカー基部を装着した特徴的な外見、八メートル大の人形であり、スペースデブリの回収や資源採掘、非電子戦環境における軍事行動にもあっという間に転用され、普及していったのだ。

 オイリュトミーグラフ、人形との同調率指標も、それに応じて生まれたとされる。


『まずは操縦に慣れてくれ』

「鮫人とはスケールからして、全然違うけど」

『当たり前だ。お前に格闘技の実習を入れる予定だったが、今日はこっちで勘弁してやる』

「対人形戦?

 僕らが戦うのはネーレイスだろう、アサくん」

『――、やらないよりはマシ、だ』

「おに、あくま、あしゃぎりのえこーずきらー!!!」

『最初からそのつもりでやっている』

「なおのことたちが悪いなっ!」

『そっちこそなんでシトラの猿真似するんだよ気色悪いだろ!?』


 藍堂さんの言う通り、VRシミュレーターのヘッドギアと計器を装着し、海中潜航訓練と対カラットフレーム戦をやることになった。

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