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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
6.歓待、魔性

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第29話 歓迎会

 結局、僕の歓迎会は社務所で、OBたちと合同して行われることになった。

 流石に伏馬のやつを呼ぶことはなかったそうだけど、思えばここまで、妙に長い道のりだった。


 刺身やご当地の魚料理やら、ジュースやら。

 濱田先輩は酒を持ってこようとしたらしいが、場所を貸した手前もあって、交叉のお二方は僕に失礼だからと控えさせたそうだ。そりゃそうか。

 共鳴者でもない支倉さんのような、クラスの女子まで手伝ってくれたらしい。ありがたいことだ。


「ほらシトラ、沢山あるぞ」

「おしゃかな?

 くちゃい――」

「好き嫌いはよくないな、でもまぁ仕方ないか」


 シトラは魚介は苦手らしかった。共食いに思うところあるのかもしれない。結局出された魚介の多くを、枸櫞が消費している。


「みっちゃん、シトラちゃんには激甘だねぇ」

「そうかな?

 自分では普通だと思うけど」

「なんだか、シトラの歓迎会にもなってるね」


 美岬が彼女に向いて微笑んでいた。


「みしゃきもおしゃかな、たべりゅ?」

「こら、しれっと苦手なの押し付けていくな……」

「どうかした、枸櫞くん」

「いや、人魚って何が好物なんかな、と。

 魚介以外はなんでも食べてるが」


 流石に食の好みは、姉さんとはちと異なるらしい。姉さんはわりとなんでもよく食べていた。

 あのひとの話を始めると、途端に湿っぽくなるので、この席では控えているが。


「枸櫞くんて面倒見、いいのね」


 琉稀に言われる。


「こうやってると、自分が子どものうちにしてもらいたかったことだとか、ふと考えちゃいますね。

 女の子とじゃ、また考え方も違うでしょうけど。

 こんなにずぶてー妹が生えてくるとは、よもや思いませんでしたよ」


 それまでシトラが家族であると認められなかった彼を見ている、護斗らあたりは優しい目を彼らに向けていた。


*


 シトラを美岬に任せて、一時外の空気を吸いに出た。


「歓迎会の主役が、こんなとこで油売ってていいの」


 瑠稀が追ってきた。案外、人のこと見てくれてるものなのだな。


「ここ数日、立て続けにネーレイスとやりあってたんで、何もない方がそわそわしちゃって」

「うん。確かにきみが来てからのアレ、出現頻度がおかしくなってる。

 前は多くても週一くらいだったのに、平均してもその倍くらいのペースできみは動いてたわけだし。

 私達も身構えてる、テルクに新しい変化が起きてるのかもしれないって、浅葱たちは話してた」

「さいですか」

「シトラちゃんのこと、気に病んでる?」

「――、最初の頃ほどでは、ないですよ。

 まぁ、あの子を人として背負ってくと決めましたから」

「あの子、小さかった頃の檸檬にそっくり。

 それだからどう、って言うの、おかしいんだけどさ」

「なんです?」


 しばし躊躇ってから、琉稀は言う。


「そう、あんなに小さい頃から、あの子は沢山愛されてた。愛嬌があって、だからあの子がやることなすこと、それがいいとか悪いとか関わらず、結果として大勢を振り回したし、巻き込んでたり」

「――」

「シトラもそうなるのかな」

「かもしれません。アサくんとかの言う、人魚の唄にとか、惑わされたなんて、言い得て妙ですよ。

 人間かそうでないかは、さしたる問題でもなくて……世の中には、本物の魔性がいるんですよね。それ自身の思惑はさておき、周りにいるものの理性を歪め、平静を損なってしまう。でも、悪ではない。惑わされるものの心根を試す、底意地が悪い性質タチだ。

 誰だって、最初は物事の良かれ、世の中もっとうまく運びますように、自分の身の回りの人たちが健やかであれって、願っているはずなのに。

 生活のなかで張り詰めた神経を、ほんの些細なことで、均衡を崩しうるように」

「とても、子どもに向ける言葉じゃないとおもう」

「ただの子どもではないし、それをわかっていて、僕はあの子を人として扱い続けるんです、きっとこれから先を……人魚を知らない、多くの人を敵に回すかもしれない。そのときは僕、きっとシトラを庇って死んでしまう」

「!」

「入れ込んでいる、というのはあります。

 人魚に狂った、と想われるのも、仕方ない。

 ただ、ね。

 先輩には知っていて欲しいんです、僕は人魚を善とも悪とも想わない」

「――」

「シトラが姉さんの猿真似をするだけなら、僕はあいつを消すほうを選んだでしょう。

 だけどいまのあいつは、あれで曲がりなりにも、物事を良くしたい、そう願って見えるんです。人魚なのに、人間じみてしまった。あとはそれを信じて死ぬか、信じ切れずに死ぬか」

「あの子のせいできみが死んだら、私はあの子を許せないと想う」

「そう感じるのはきっと正しいんです。

 これまでだって、ネーレイスは人から多くのものを奪っている、命も、理性も、尊厳も。

 伏馬先輩のようなのが拗れてしまうのも、そういうことです。本当は、言葉で足りるような葛藤でもないんでしょう。

 だけど、僕はシトラを人間として育てます。天充檸檬でなく、天充シトラという個人として。

 僕がいなければ、誰もろくに向き合わなくなるの、わかるじゃありませんか。

 あの子が人の敵になるときは、僕が責任をもって処分する――つもりですけど、それさえ正気を喪って見られるでしょうね、一部には。

 シトラを通して、ネーレイスに知って欲しいのかもしれない」

「なにを」

「《《本物》》、ですかね。

 あの子はきっと、人としての唄を手に入れるから」

「……よく、わからないね。

 でも魔性ってのがどういうことかは、今また少し考えてみたよ」

「と、言いますと」


 琉稀はほくそ笑んで、枸櫞の目のまえに顔を寄せた。


「きみを誘惑する私、なんて、どう?」

「思い切りましたね。大好きです、琉稀さん」


(耳、真っ赤になってやんの、可愛いな)


 そのままいい雰囲気になって、また接吻は果たすのだが、直後ふたりの背後から声がかかる。


「できれば境内で盛ってくれるなよー、不信心者ふしんじんしゃァ?」

「「!?」」


 浅葱であった。


「浅葱さ――そんな見境ないことしませんて」

「どーだか。歓迎会の主役がいつまでも席外していい訳ないでしょ」

「ちぇ、仕方ない。戻りますか、琉稀さん」

「うん……」


 いちゃいちゃは、後日に持ち越される。

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