第28話 予後
負傷した共鳴者たちを、一番傷の浅かった枸櫞が担いで、同じ病室へ連れてきた。
「みっちゃん……そっか僕、二号機で……やらかした?」
「うん、まぁ。
船舶を壊さなくてよかったな、補填が面倒にならなくて」
二時間ほどして目が覚めた彼に、枸櫞は素直に頷いた。
隠しきることはできないだろう。
「みっちゃんが、止めてくれた。ごめん、一緒に戦いたかった……みっちゃんにいいとこ、見せようと思ってたのに」
「けど、凄いじゃないか。二号機で覚醒するだなんて」
「でもみっちゃんの時と違って、僕は――わかってる、港湾に跳んだところまでは、力が暴走して――いや、全部自分の意思。
増長って、いうのかな、ああいうのは」
(流石に現状を理解しているな、だてに長いこと控えていない。初戦で軟禁されて凹んでた僕とは、大違いってことか)
「珊瑚くんを止められなかったのは、僕の落ち度だよ。
八号機とは異なる覚醒が起きるって、どういうものか、まるでわかっていなかった」
「それはみっちゃんのせいじゃ、グループの誰だってわかんなかったって」
「きみに首輪を掛けた時、それで押さえたつもりになっていた、油断したよ」
「ほんと、ごめん。美岬さんたちに伝えて欲しい、処分は甘んじて受けるって」
「……わかった、僕はもう行く。報告してこないと。
今日はゆっくり、休んでいて」
そこへ、護斗が入ってきた。
「いやお前も寝てなきゃダメな身の上だからな!?」
「ちょっと――ちょっと出てくれ、頼む、必要なことだから」
なんとか病棟の廊下に連れ出して、話し始める。
「三号機のひとは腕、珊瑚君は左の足首だ。
腹部を貫通した切創は、反映されなかった」
「濱田先輩な、三号機は。
珊瑚と人形との同期が、そのタイミングで切られたんだろう。人形は極限値では共鳴者の生存を維持するほうへ、機能を振るようだから」
「?」
枸櫞は自分を指さす。
八号機に乗るたび、わりと酷い怪我負ってるんだが……。
今回だって、両手足に未だ生々しい痣が刻まれている。
「俺にやられた時は、人形関係なかったろ。
予期できる範囲なら、致命傷を避けられるかもしれない、程度の願掛けに考えておけ」
「融通利かねぇんだな、毎度痛い目に遭ってんのに」
「ところで、お嬢が不思議がっていた。
シトラときみが、なにを察したのかって」
「――、あとで本人に話すよ。
大丈夫、逃げないから」
「なにか、あるんだな?
……いいよ、深くは聞かん。
全員生きてて、よかった」
「あぁ、本当だな」
戦うたび、実感する。いままで命を拾ってきたのは、ただ運が良かっただけだ。なのに僕は、美岬嬢にとんでもない責任、重荷を背負わせてしまったんじゃないのか。
その重荷が、彼女を潰してしまう前に、僕は――その意味と、向き合わなければいけないんだ。
*
テルクの海原――あれを見たとき、あの場に連れ込んでさえしまえば、人ひとり消すなんて造作もない確信が得られてしまったんだ。だから、姉さんの復讐は、いつでもできる。
僕の望む復讐のちっぽけさに較べて、美岬嬢のバイタリティや行動力には、ちと驚かされる。姉さんがそうであったように、ある種の天才型なんだろう。泉客のニューホープとは伊達ではなく、時々地方紙でも名前が取り上げられる少女だ。
「おはよう、美岬さん」
「おはよう」
正門前で挨拶すると、なんでか周囲の生徒が色めき立つ。
「まさに美男美女って感じよねぇ」
「名字じゃなく、下のほうで呼んでる。
あっという間に距離詰めてくよなあのプレイボーイ……」
(なんだと思われてるんだろうな、僕?)
「きみはもっと、自分の顔の良さを自覚――いやちょっと違うな、あんまり過小評価しないほうがいいとおもうよ。
きみの顔で優しいこと言われたら、女子は本気にしちゃう」
「それを一番、本気にしてない人に言われてもなぁ」
琉稀さんひとり口説くのだって、悪戦苦闘してんのに、ちょっと優しくしただけで、ころっと寄ってくるものでもないだろう。
姉さんに似てるって意味での美形って評価は受け付けるけれど、それは僕を通して姉さんを見たいパブリック的なもので、僕自身を見ているわけではない。
「ずっと、聞きたかったことがあるんだけど」
「?」
人気の薄いうち、校舎の廊下で口を開く。
「今頃姉さんさえ生きていれば、きみは鮫人にあのひとを乗せたのかな」
「それは……」
「それとも、忙しいあのひとの身代わりだから、僕をやっぱり選んだのか」
「――、」
彼女が口を開こうとしたところへ、教員が駆け寄ってきた。
「天充くん、いったい何日休む気かとおもったぞ!
出席足りなくなったって、補習なんぞ組んでやらないんだからな!」
「あぁ、先生。いま激しく邪魔です」
「泉客さんを口説くとは、ほんとに畏れ知らずだな」
「そういうんじゃないですって……」
本当におり悪く、話の邪魔が入ってきた。
あとで、聞き直せるんだろうか?




