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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
5.彼に恋した少年

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第24話 明日は大シケ?

 護斗が誘うと、いつになく珊瑚は乗り気だった。


「みっちゃんの歓迎会!?

 行く行く、やるに決まってんじゃん!」

「見ぬ間に随分親しくなったようだな、惚れてんのか?」

「ダメなの?」

「いや、あのひと白錫先輩に惚れてるらしいし」

「――、あの引っ込み思案に、みっちゃんは勿体ないだろ」

「急に声色変えないで、ほんと怖いから。

 つぅか自分のことを棚に上げて言うことが、それか」

「う……僕だって、鮫人に乗れればちゃんと戦ってみせる。

 伏馬さんの足引っ張っていつもおどおどしてるだけじゃないか、あんなひと」

「それでも白錫先輩は、ずっとネーレイスから逃げなかった。

 みんな命がけなんだ、誰かの株を下げて、自分の男が立つわけじゃないだろう?」

「ごめん。

 朝桐の言うとおりだよ、戦ってるみんなが正しくて、なにもできてない僕に、言う資格なんてないって」

「そうしょげるなよ。

 俺は正直、お前が戦わなくていい現状を、そんなに悪くないと思ってる。美岬嬢は、共鳴者に犠牲が出ないやり方を、ずっと模索してる。

 ところで祝うんなら、派手にやったろうぜ。

 ちょっと沖に出て、なんかいい獲物でも釣ってこようか」

「シーフード?

 生臭いのとか、みっちゃんは食べてくれるかな」

「いやでも俺が食わせる。

 人魚喰っといて、いまさら選り好みなどせんだろうよ」

「なんだ、その妙な説得力」


 本当に食べてくれそうな気がしてくるから、不思議だ。


「つか、きみこそ大変だったんじゃないのかよ。

 呑気に釣りとか言ってるけど、危うく殺し合いになりかけてたんだろう?

 肩がまだ上がらないって、みっちゃん言ってたけど」

「あいつには、苦労かけたな……とは思ってるよ、むろん。

 それに対する補償も、ゆくゆくはしようと思ってる。けどまずは、感謝してるって伝えたい」

「感謝?」

「お嬢や俺を前に、あいつは犠牲なんてこりごりだって言う。

 俺は鮫人に乗れば、誰かがなにか――命だけじゃなく、人生の時間だとか、そうしたものを犠牲にするのは、仕方ないって考えてしまうのに。

 あいつは、そうじゃない。力を得ても、それそのものに引け目がないんだ。それを当然の権利だと行使する、だから鮫人の力を自在に引き出せる」

「――」

「見習いたいものだよな、ああした強かなのは」


 護斗がそのように言うなんて、珍しい。


「朝桐が素直だなんて、気持ち悪いなぁ」

「なんでだよ!?」

「明日は大シケかね……」

「シャレになんねーよ馬鹿!」

「じゃ、今から船だす?

 夜中にかかるろうけど」

「そういうことな、素直に乗せてくれと言えばいいものを」


*


「ということがあったみたいよ、さっき」

「なるほど、漁とか行くのか、この辺の学生は。

 ところで日に二度も来るとはね、面会も終わる時間だってのに。りんごなんて、明日にでも持ってきてくれりゃよかろうに」

「怪我人だけど、病人ではないんでしょ。

 おかげで時間空いたから、ちょっと話し相手欲しかったの」

「なんだと想われてます?

 とんでもねー屁理屈がきたな、まぁ権限ならきみにあるんだろうけど」


 美岬はりんごの皮を剥いて、果肉を手早く切り分けていく。さっそく一切れ、枸櫞の口に押し込んだ。


「ん。あーがと、普通に美味しいな」

「林檎だしね」

「そういやきみとアサくんていつからの付き合いなの?

 彼はきみのボディガードやりたいのか恋人やりたいのかはっきりしないけど」

「枸櫞くんはあれかい、なんでも色恋やセックスで話さないといけない性分かね?」

「そうじゃないし、実際護斗くんが同じこと聞かれても怒るだろうけど」

「私なら、怒らないと?」

「ちがうちがう、そも彼も鮫人に乗れるってことは、ヤヲ因子だか地元にゆかりのあるひとだろう。

 またそういう一族なのかな、とか、使用人か婚約者か、とか。きみだっていい年して、そういう話が来ないようには見えんけど」

「……一応、そういう褒め言葉と受け取っておきますか」

「そうして是非とも。怒らないで」

「枸櫞くん、変なとこで無神経発揮するよね。

 それもふたりきりのときにやるから、妙にいじらしいというか」

「なんて?」


 彼のツッコミを必要以上に取り合わず、彼女は淡々と話す。


「あの人は、昔おじい様が連れてきてくれた使用人のお子さんで、ずっと私に仕えてくれてるの」

「わぁ……」

「なんでこういうときに限ってミーハー女子みたいなリアクション!?」

「僕のことはいいから、続けて続けて」

「で八歳の頃から、お互いずっとなんだけど。

 中学の頃、一度、告白されて」

「情熱的だな、てっきり本心を湿っぽく隠し続けるやつかと想ってたのに見直したぞぉアサくん」

「何目線なのよ?

 でも当時はあんまり、しっくり来なくて、結局元の関係に戻ってそのまま今に至る、だよ。さして面白い話でもなかったでしょ」

「うん、ふたりの可愛い馴れ初め聞けて、僕の乙女ポイントぶち上がらしていただいたよ」

「これ以上ふざけるとはっ倒すよ。乙女ポイントってなに、今どきネカマでももっとマシな擬態するでしょ?」

「あっはい」


 美岬を必要以上に弄っての藪蛇もごめんだ。枸櫞もこの辺で引いておくが、普段凛とした感じのこの生娘が崩れる顔を見れたので、なかなか満足度の高かった。


「つーか、キミの方こそどうなの。どこぞの先輩から歯牙にもかけてもらえてないわけ?」

「元々あれの好きな相手が、僕の天敵みたいなやつだからな……今日あたり見舞いに来てくれるかが分水嶺かな、くらいには」


 そんなことを話していれば、ちょうど病室の外で物音がして、扉が開くと瑠稀が息を切らして入ってきた。


「噂をすればなんとやら、だね。私そろそろ外すわ」

「おう、ありがとう。

 ――びっくりした、大丈夫なんですか、先輩?」

「立て続けでテルクで怪我したって聞いてっ……そっちこそ、どうして平気な顔してんの、骨折れたって聞いたけど!?」

「あぁ、まぁ」

「ごめんなさい、面会時間終わりに無理やり押し入って!

 でも今を逃しちゃったら、きみに会えなくなりそうで」

「――、そんなに焦ることじゃありませんよ」


 枸櫞がそれとなくフォローする間に、美岬が退室した。


「お見舞い、なに持ってきていいか、よくわかんなくて」


 だけどご丁寧にお高そうなメロンを調達してきてくれたらしい。


「今度、一緒に食べてくれませんか。

 シトラと分けても食べきらなさそうですし」

「あぁ、うん。

 腕、大丈夫なの」

「しばらく左の肩が上がりませんね。一生ではなさそうですが」


 流石に護斗にやられたと言うわけにもいかず、ネーレイスのせいということになっている。


「私も、ネーレイスと戦って、怪我したことはあるけど」

「そのときは、壱号機に助けてもらったんです?」

「ううん。……ぐずぐずしてても、あそこでは誰も助けてくれないよ。そんな余裕、作れないもん。

 とにかく私は、翼くんたちの足引っ張らないよう、必死なだけ。もうとっくに呆れられてると思う。こんな私を、きみは推してくれるけど、そんな価値」

「それ以上、言わなくていいです。

 先輩、ちょっと寄ってくれませんか」

「?」


 ベッドに近づいた彼女の手を引いて、抱き寄せた。


「!」

「僕には瑠稀さんが必要です。教えてもらいたいこと、沢山ありますし」


 枸櫞は美岬が退室するのを見計らって、瑠稀に小声で耳打ちする。


「瑠稀さんからしたら、まだまだ子どもかもしれませんけど」

「そんなこと……きみは立派だよ、ネーレイスとの戦いも私らよりきっちりこなしてる」

「そうですか。でも、それをきちんと褒めてくれるひとは少ないんですよね。

 僕が今したいこと、もしかして伝わっちゃいます?」

「――、――」


 瑠稀は気恥しそうにこくりと頷いて、枸櫞にされるままにする。

 枸櫞はそれとなく、唇を重ねた。


「~~!

 枸櫞くん、ストップ……」

「はい」


 本当にただ、唇を重ねただけだというのに、いっぱいいっぱいの顔で赤面している。


「いやでしたか、僕とは」

「ちが……私は慣れないことしてるのに、枸櫞くんが落ち着きすぎなんだよ!?」

「僕だって初めてなんですけど」

「ホントに?

 都心では結構遊んでたんじゃないの」

「なんですかその偏見、僕なんて、みんな姉さんの代替品くらいにしか想わないですよ、周りの子は。

 だから、先輩だけです。僕のこと、ちゃんと見てくれるひと」

「そっか。……そっかぁ」


 少し間を置いて、今度は瑠稀から唇を求めてきた。

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