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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
5.彼に恋した少年

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第23話 げろ甘い

 話はその後も弾んだが、それとなく自分が人形に乗ることになった経緯に話が及んだ。


「……こう言ってはなんだけど、やっぱり美岬さんはきみを利用したいだけじゃない?

 自分の家族の復讐に、ひとを巻き込むなんて正気の沙汰じゃない。僕が同じ立場だったら、そんなこと絶対させないのに!」


 彼も感情の起伏が激しい性格らしい。

 正しい道理をなぞり、正しく怒れるひと。


「わかってて、きみはあの人の言い分に乗っかるの?」

「あぁ、姉さんは殺されたんだ。

 元凶はのうのうと娑婆で生きている。

 テルクの海原にいけるなら、僕の目的はすぐ叶う。八号機が、それを叶えてくれる。それをわかったから」

「復讐なんて、よくない。

 みっちゃんは逃げたっていいだろ、お姉さんのことを引きずり続けることなんてないでしょ!?」

「それは珊瑚くんに言われて、覆ることじゃない」

「――、ごめん熱くなった。

 だけど僕は、前からあのひと、信用してないんだよね。血の通った人間に見えないって言うか、朝桐のやつも前後不覚というか、妄信してるだけじゃないのって」

「珊瑚くんは面白いものの見方をするんだな」

「ひととして当たり前のことを、当たり前だって言いたいだけだ。鮫人や人魚に絡むと、途端にみんなおかしくなる。

 みっちゃん、言って聞かないことをわざわざ止めたりしないけど、……死なないでよ?」

「あぁ。ありがとう」


 気が小さそうなのに、言うことは歯に衣着せないんだな、彼。でも……あんまり物分かりがよくなさそうというか。

 枸櫞は彼からの差し入れの、カフェオレの缶を空ける。


(げろ甘い)


 最近は自分で淹れるときも、無糖のブラックが殆どだし、甘い系の缶はずっと避けているんだが……。こういう好みの溝は、これから埋めていけるといいかな。


「湾内一帯は遺跡に由来する力が、共鳴者と対策をするものを除いて、認識を阻害する。

 鮫人にまつわる出来事はすべて、そうやって隠匿されてきた。そのほうが泉客にも政府にも、都合がいいんだろうね。

 僕はさ、まわりには戦える共鳴者があれだけいるのに、テルクへ一度だって喚ばれない。

 ネーレイスの唄に、どの鮫人が照応するのか、その条件だってわかっちゃいないけど、法則はあるはずなんだ。

 できれば、もう戦えない自分なんてやめたい――いつか、きみと肩を並べて戦えるなら、いいんだけどな」


*


「……それも、そうだよな。

 八号機が立て続けに喚ばれて、感覚が麻痺してたけど。

 それまではほかのやつらがランダムに喚ばれてたらしいし。

 今夜また出撃するようなら身体がなんとか保っても、心が折れるわ」

「そも、ここ最近のネーレイスの出現頻度は高まっている。

 八号機にここまで負担が寄っているのは、私の計算が外れた。ごめんなさい」


 ちょうどそこへ、美岬がやってきた。

 さっきの珊瑚とのやり取りは、すべて知っている。


「これぐらいなら、予想できた範疇だ。

 ただまぁ十三人もいれば、元来はそれも分散されてたんだろうな。

 朱桃がネーレイスの力を得たから、だと思う?」

「ほかの鮫人の覚醒も急いでる」

「としても、テルクへ自ら跳躍する力は八号機だけのものだ。

 ほかの覚醒していない人形が、最初の時みたいに、単独でテルクに送られることはあったんだろう?

 壱号機や五号機の手慣れたさまは、独力で事態を解決しなきゃならなくて手にしたものだろう。見ればわかるよ――だけど美岬さんは、テルクでの戦いをよりリスクの低いものにしたい、違うかい」


 美岬は彼のベッドに腰かけて、頷く。


「その通り、だよ。

 過去の共鳴者が犠牲になったのも、多くのケースが孤立した状況で複数のネーレイスに襲われての被撃墜だった。

 テルクでの戦況を分析するにも、鮫人へ持ち込める機材だって限られてしまう。

 せめて鮫人同士が僚機として連携できる環境を整えれば……そう考えて、色々やってる」

「伝統というのはあるだろう。

 途中で、投げ出したくはならないのか。

 ネーレイスとの戦いで、被害が出るのはわかってる。

 なまじ家庭が絡めば、それだけ逃げられなくなるんだろうが、きみ自身の話だ。

 得体のしれない人魚を、見続けることは、怖くないのかい」

「――、あなたが来る前、わたしは八号機に乗りたかったんだ。だけどあの人形が、私を受け容れることはなかった。

 兄さんを奪ったネーレイスとテルクを、それでもなんとかしなきゃならない。

 いまなら少しだけわかる気がするの。

 八号機が、あなたを選んだ理由が」

「どう、いう」

「あなたは、社会のしがらみに縛られながら、その手に自由を掴んでた。

 きっと珊瑚くんもそんなきみだから、憧れてるんでしょう」

「……ほかの人形、その覚醒が急務でも。

 それをきみらは、扱いきれるのか?」

「すくなくとも、そのことで共鳴者に犠牲は出さない。

 そのための力を、また貸してほしい」

「たく。

 それに見合ったご褒美というか、報酬は期待できそう?」

「お金のことは、任せておいて。

 ご褒美、ねぇ。ひとまず白錫先輩の好みとかは教えてあげられるよ」

「よく、わかっているじゃん。

 僕の性格を」


 枸櫞はほくそ笑んだ。

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