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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
5.彼に恋した少年

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第22話 紅觜珊瑚

 シトラとともに、護斗が僕の病室へ訪れた。


「これじゃ、どっちが心配されてた側かわからなくなるな。

 なんで俺のが物理で骨折り損なんだよ」

「いや、ほんとすまない」

「戦闘暗示ってのは、本当に融通きかんらしいね。

 個人的な恨みとか混ざってないよな?」

「――」

「いまさらそんなばつの悪い顔しないでいいだろ。

 たく、どいつもこいつも……なぁ共鳴者ってのは、味方を背中から撃たなきゃ気が済まないやつばっかなのか」


 二日立て続けに大けがを負わされた彼が垂れても仕方のない文句だった。


「俺や伏馬パイセンならとかく、ほかの人らまでさもそうであるかのように言うなよ」

「あぁ、すまない。

 流石に浅葱さんたちに失礼だな、聞かなかったことにしてくれ」


 つーかあの人たちまでそんなこと始めてしまえば、僕は確実に鮫人から降りるとおもう。毎度こんな目に遭ってては、流石に身が持たない。


「なぁ、首輪から神社姫じんじゃひめ出したやつ、技名とかあるのか?」

「ないけど。必要なの?」

「シュラインノーブル・リターナーとか、どう」

「厨二なの?」

「いやそのほうが便利かなぁって」


 護斗の言わんとするところはわからないでもない。

 ただ技に名前を付け始めると、人魚を喰ったり、海水を操ったり、即席緊箍児光輪にも逐次それっぽい名前をいちいち当てなきゃならないから、枸櫞は二の足を踏んでいる。

 そのうち十七分裂き光輪とか出せそうだとか護斗は言うが、それなんか途中から別のジャンルが混ざっていらっしゃらないか……?

 そも裂いてないし、八つ裂きですらないのか。


「アサくん。十三人いる共鳴者の残りについて、教えちゃくれないか。

 できるなら、もうひとりの共鳴者殺しについても」

「俺も知ってることは少ないとおもうけどな。

 ……ひとを直に殺すのではなく、共鳴者の資質を奪う力だそうだ。本来、あくまで共鳴者の暴走を止めるための措置をそう呼んでいたにすぎない」

「――」

「つーか、アサくんてなんだよ」

「いやかい?」

「勝手にしてくれ」


 これでも丸くなったほうということか?


「アサくんがお嬢を本気で守りたいなら、全部を背負わなくてもいい。そりゃ鮫人に関すること、ネーレイスについても部外秘だろうが、頼れる大人を探したっていい。

 今からでも遅くはないだろうよ」

「簡単に言ってくれる」

「久原さんが抜けた穴を補う必要があるからだ。

 あのひとをこれまで外さなかったのも、必要だったからそうせざるをえなかったんでしょ。

 そうそう、後任なんて決まらないかもしれないけど、僕もそこらへん手を抜いた結果で、死にたかないからね」

「……ソラの字、なんか変わった?」

「くえんー」

「っと」


 シトラがベッドの彼に絡み、彼は受け止める。

 彼女の存在を背負うと決めたから、か。

 やるべきが復讐だけだったら、結局あの海原ですべて投げ出してしまったかもしれない。


「もう休むよ。

 昨日あたりからずっと、血が足りていない気がする」

「うむ。あとでもうひとり、新しい共鳴者を連れてくるよ。

 同級生だ、紅觜珊瑚くれはしさんごって男だが、ちょっと変わったやつでな。あまり驚かないでやってくれ」

「そう?」


 護斗が驚かないでやってほしい、なんて言づける少年はいかなものか。ちょっと身構えてしまうな。


*


 昼下がり、美岬が護斗の教室へやってきた。

 ふたりは屋上で話すことにした。


「彼自身の意向で、レントゲンを撮るのを今朝まで待ってもらったそうよ。

 人形のログから言って、確実に手の骨は折れてたはずなんだけど――」

「自然治癒とはいえ、もう塞がりかけているんですか。

 あいつの身体はどうなってるんです。

 過去に覚醒した人形と共鳴者にも、こんなことはなかったでしょう、いくら人形との同調率が高いからって。

 たしかに、覚醒した人形は常軌を逸した自己復元能力を獲得する。

 僕らが究極的に目指すところも、共鳴者自身の力で、鮫人に色を付けることだ。

 だが天充は、人魚の血肉を喰らってしまった」

「もっとも特異なのは、そも口を開けることよ。

 機構が備わっても、人魚の肉を喰らうためにはそれを咀嚼できなければいけず、おまけ、ネーレイスと唄で張り合った鮫人なんて、我々は聞いたこともない」

「なのにあいつは、いまでも人形なんていつでも下りられるつもりでいる。自分が渦中の存在だと、どうして認めないんでしょう?」

「どうかな。

 口では何とでもおちゃらけたって、途中で逃げるタマに見える?」

「……いえ。あいつは最初から、《《本物》》でした。

 あいつの姉が、本物であったように――安易な猿真似は、とうに通り越している」


*


 夕刻、護斗は病室に来なかった。


「たく、友達がいのないやつだな。

 自分は怪我一つなくぴんぴんしてるくせ。

 知ってたか、あいつのせいで僕、ここに一日縛り付けられてる」

「すごいね、きみ。朝桐くんとうまくやってるなんて」

「きみだけ寄こしたのか。たく、そういうところだってのに。

 紅觜くんも断れなくて、苦労する」

「ううん……今日は来れて、ほんとうによかった」

「おう。ありがとう」


 紅觜珊瑚、黒地に白メッシュのウルフカット、目も紅い。

 中性的な容姿で、色白の肌に薄い肩からして、ちゃんと食事取れてるのか、傍から見てると不安になる。


「ええと、なかなか個性的な恰好だね」

「うん、ごめんなさい」

「眼は、地の色かい」

「よくわかったね? カラコンだとか、いつも間違われるんだけど。

 地毛は白なんだけど、人前では驚かせたくなくて、染めてる」

「――」

「そらみつ、くえんくんだよね。

 僕のことは、珊瑚って呼び捨ててくれていいから」

「そうか。こっちも下でいいけど、まだ慣れないから、珊瑚くん、でいいかな」

「もちろんだよ、天充くん」

「ん?」

「枸櫞、くん――やっぱりそらみつくんだし、みっちゃんて呼んでも?」

「構わないけど、そんな風に呼ばれたの初めてだな」


 男に対して抱く感想じゃないかも知らんが、上目遣いで確認してくる彼の態度は、いちいちかわいい。

 自信なさげにもじもじしている姿ですら、ほんとうに同性か疑わしくなるくらい、色っぽい。天性というのは、こういうのだろう。


「みっちゃん、すごいんだってね。

 最近四回もテルクに行ったって」

「それな。なんで僕なんだろうな」

「え?」

「人形の力をほんとうに求めているのは、伏馬やアサくんみたいなやつらだろう。あいつらがどれだけ真剣に、強くなりたくて、そのための力を人形に見出すのか、気持ちはわからないでもないから、なまじ」

「――、僕はさ、共鳴者に択ばれたけど、一度だってテルクに行ったことはないんだ」

「お……」


 ほかの共鳴者の話を聞けるのは、稀少な機会かもしれない。実際、珊瑚少年の話は興味深かった。


「テルクに行くとき、だいたい夜だったって、朝桐くんや、交叉の双子さんたちに聞かされるんだけど、いまひとつピンとこないんだよね。

 実際、夜の戦いってすごいんだってね。

 周りが見えないのに、複数囲まれて――」


 夜の戦い……複数囲まれて?


(なんで彼が話すたび、真面目な話がインモラルに聞こえるんだろうな……)


 向こうは狙ってやってるんじゃないんだろうし、これは僕の脳内フィルターに著しい欠陥があるだけなんだろうけども。


「僕は白昼あっちに飛ばされたりもしたし、時間帯の感覚は薄いかな。

 でもやっぱり、仲間になってくれるひとが、こうして顔を見せてくれてうれしいよ」

「!」

「握手」


 少年に手を差し向けると、びっくりされてしまう。


「あー、びっくりさせちゃったかな」

「ううん、僕のほうこそ、これからよろしく」


 小さく温かい手が握り返される。


「うわ冷たっ」

「……今日は血が足りなくて、ずっとこうなんだ、ごめん」

「――」


 なぜか彼、握った手をしばらく離さない。


「ぎゅー……」

「珊瑚くん?」

「僕でよければ、あっためてあげられないかなって。

 みっちゃんは素敵な人だ。

 この辺田舎だからさ、土っぽいというか、芋っぽい野郎しかいないんだよね。だけどきみ、都会のひとって感じだし、憧れちゃうのかも」

「お、おう」


(健気、なんだけど)


 だからさっきから、いったいなんなんだよその妙な色気は!?


「僕、みっちゃんみたいなひと、好きだな」

「ありがとう?」

「強くて、きれいで、かっこよくて。

 みっちゃんが女の子だったら、僕の女神ミューズになってくれと讃えただろうね」

「その形容はすさまじいな――あぁ、姉さん似なんだよ、僕は。よく言われる」

「お姉さん?

 あぁ、そういやいるんだっけね」


 ……ヘンな少年だ。少女漫画趣味とか多分に入ってそうというか。

 天蜜レモンを知らずに、僕の容姿を掛け値なしに讃えているというのか?

 調子、狂わされるな。

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