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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
4.共鳴者殺し

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第19話 排除指令

 鮫人のコクピットは背面にあり、人間なら頸椎にあたる部分になるのだが――いちおう、物理的なハッチはあるけれど、


「やはり僕の前には開かれないか。

 鮫人は個人を認証する。

 なら八号機は……久原たちには認証を何とかする手立てがなくないようなそぶりだったが」


(シトラは本能的に、彼へ八号機を明け渡す気でいる。

 五号機が置物になっているのは、彼らを挑発してテルクへ招くため。

 やっぱりこの子の本質は、ネーレイス……わかりきっていたことだが。

 シトラにとっても、結局僕は《《記号でしかない》》。

 共鳴者は、替えが利くんだ)


 そう考えるともの哀しいことだが、事実なんだからしょうがない。

 たとえあれほどの力をふるってもなお、あれは僕自身の力ではない。

 僕を通して引き出される、鮫人の力だ。

 人形に乗っている間はそれを自分のものだと錯覚していられるが、それでも理性は――お前はその座を間借りしているだけに過ぎないと。


「……姉さんが輝いていた時ってさ。

 あなたは何の光へ向いて、突き進んでいけたの?

 僕じゃ背中を追うしかなくて――でもそれだと、あなたには並べないでしょ。その過程じゃなく、行きつく先に、あなたなら躊躇わなかった」


 天性、天賦のもの、というか。


「あなたが鮫人に択ばれていたら。

 まぁ、僕よりうまくやってたかもしれないな。

 結局、危ないことに僕はやきもきさせられちゃって……僕がいけなかった。

 あんただけは、手放しちゃいけなかったのにっ――」


 姉さんを、愛していた。

 それを奪われたのは、幼かった僕の不足なんだ。

 今更悔いたところで。



 シトラは人形の日陰で、僕のブレザーをかぶって寝ている。

 こんな砂だらけの場所で。

 ずっとまえに靴下を脱いで、裸足で砂を踏んでいる。

 ロッククライミングなんて得意でもないのに、人形に登って徒労を覚えるためだけに、こんなことを慣れておいて、よかったんだろうか?

 体力づくりだと、姉さんに時折付き合わされていたっけ。

 シトラが完全に寝落ちているのを確かめて、僕の視線と足は、海へと向かう。


「このまえの岩礁、ちょっと遠い」


 神社姫を捕食したときの、あの場所が見える。

 いまは白昼だが、すると雰囲気が違うのは勿論だったが。


『テルクの海中は、時間への重力を帯びている。

 浅いところはまだしも、より深くに行けば、戻れなくなるかもしれない――気を付けて』


 美岬が海原について、まえに語ってくれたことを思い出す。


「――」


 僕は裸足で海に浸かっていた。

 このまま深くへ沈んでいけば、時間とかどうでもよく、人として終われる。

 鮫人に乗るとか、復讐とか、どうとでも……。




「らめだよ、くえん」

「――、――」


 気づけば胸元まで海に浸かり、肩の上にシトラが乗っている。

 また転移してきたんだろう。

 なんでおまえは、おまえなんかが、あのひとの顔で、声でっ、僕を諭そうとする――ろくに呂律もまわらないくせに、


「お前は俺のなんなんだ、ネーレイスなんだろう?

 姉さんでもないのにっ――」


 言ってから、僕ははっとなる。

 ひととして、言うべきでないことを。

 シトラは僕の顔を哀しげに、逆さまから見下ろすだけだ。



 砂浜にふたたびあがった僕は、人形の足元で放置されたブレザーをはたいて、ふたたびシトラの肩にかけ――、抱き寄せる。


「ごめんな。もう少しでバカ親父と、同じことするところだった。

 全部、いやになって、投げ出そうとして……取りこぼしたものに、けじめをつけなきゃならないのに」


 たとえ取り返しのつかなくとも、あのひとに正しいことを為そうとしてほしかった。途中で見切りをつけることはできただろう。僕が逃げて目を背けても、誰も文句は言わない。だけど違うんだ、そうじゃない。


「投げ出さないでほしかった。

 僕は――あのひとを消されたくないんだな」


 テルクの海原は、知性体の心象を具現する。

 その話が本当なら、やはりシトラを望んでしまったのは、僕なんだろう。


「シトラ、僕の家族になってほしい」

「ほぁ?」

「シトラは、僕が守るから」


 返事など、必要ない。僕がそうと決めて、それを為す。


*


 午後四時を回ろうとしている。

 遺跡のなかで、護斗は待機していた。


『もう四半日になる、五号機からの音沙汰もない』

「――」

『八号機の互換は、先人の生体を擬似的に認証する。

 すくなくともコクピットには入れるでしょう。

 準備に時間はかかってしまったけれど』

「美岬さんに、この件を知らせなくていいんですか」

『授業が終われば、発令所へ来るでしょう。

 あなたはあなたのやるべきことをしなさい』


 いつも天充が座っていた席と、コンソールへ触れる。


「起動、した?」

『問題なく動いている。

 ハッチの認証さえ抜ければ、存外何とかなったか』

「――」

『シトラの座標を追って、跳びなさい』


 できるのか、僕に――



(そしてあなたは、天充枸櫞をかならず殺す)


 彼にはあらかじめ備わった、暗示があった。


「『ネーレイス以外の要因で、テルクの幻界が開かれたとき、原因を排除する。

 機密保持のため、共鳴者の無力化の際、生死を問わずこれを制圧する』

 暗示を仕込まれた哀れな人形くんが……」


 そう仕込んだのは、ほかならぬ久原自身であったが。


(今こそ役に立ってもらいましょう。

 あなたの役割など、そこにしかないのだから)


 枸櫞とシトラ、ふたつのイレギュラーをこの機に排除する。

 それが彼女の目的だった。

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