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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
4.共鳴者殺し

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第18話 ゴールの見えない転移

 魔海狼級との戦闘で、久原はひとつの確信を得た。

 あのまま八号機とシトラを放置しておくことは、国益を損ねる。


「八号機の共鳴者、天充枸櫞を排除する。

 翼くんを嗾けてみたら、彼ほどの手練れを翻弄してのけたようだし。

 そうなると、当然あなたに白羽の矢が立つ。

 朝桐くん、美岬嬢のためにも、やってくれるわね?」

「――、はい」


 護斗に断る選択肢はなかった。

 実際、政府が泉客による遺跡サルベージをこれまで看過していたのは、覚醒した鮫人がいなかったからでもある。


(お嬢のそばに置いておくには、天充は危険すぎる。

 あのシトラという子にしても)


「心を鬼になさい。

 とはいえ、ぎりぎり穏当にことを進めるやり方もないではなくてよ。

 あなたが八号機に乗るの」

「すでに別の鮫人に選ばれている共鳴者が、ですか。

 そんなこと、できるんです?」

「相互搭乗検証のプランは、過去にもあった。

 もっとも覚醒した人形を相手にそれをした例は、未だないけれど。

 あなたが八号機を御し得れば、美岬嬢にかかる負担もそれだけ減るでしょう」

「やります、やってみせます!」

「できなければ、天充枸櫞《彼》を本当に殺すしかなくなるだけよ」

「――」

「ちょうど負傷しているし、身柄を確保するのは容易い」


 護斗は目を伏せる。

 やっぱり俺は、この女が嫌いだ。


 *


「人形の相互搭乗検証?

 機体を交換して、お互いのコクピットで起動してみるってことか」

「あぁ。お前の八号機を、借りる」

「ふぅん、好きにしてくれりゃいいけども」


 枸櫞は人形に名付けているわり、愛着が薄いのだろうか?

 護斗は時折、この少年が不思議でしょうがない。

 そうしてつつがなく、その日の朝礼と点呼が始まるころ――枸櫞のクラスのほうから、どよめく声がする。


『天充――その子は、いったいどっから生えてきた?

 ここは児童の保育所じゃないぞ』

『すいません!?

 マジですぐ戻してきますから!』


(シトラちゃん……また空間転移か?)


 ネーレイスでさえなければ、まだ微笑ましい子どものいたずらで済もうが。


「ソラの字、あいつも苦労しているな」

「あしゃぎりーおはー!!!」「シトラ、大声出さない」

「――……」


 枸櫞に抱えられて、廊下を通り過ぎて行った。

 挨拶を返すべきだったか、一瞬本気で迷ってしまった。


(下手したら、殺さなきゃならないふたりに?)


 考えすぎても、よくないんだろう。

 だけどこのまま、何事もなく午後の相互搭乗検証へ移れば……最悪は避けられる。俺がしっかりやればいい。

 そのはずなんだ。



 二限目のはじめ、久原から緊急端末に着信があった。


「はい」

『天充枸櫞の消息が途絶えた。

 シトラの反応もない、おそらくテルクへふたりで飛ばされた』

「八号機は?」

『なぜか遺跡に残留している。代わりに五号機がいない。

 至急、発令所へ来て』

「!?」


 護斗は椅子を蹴って直立し、愕然とする。

 授業中のことだった。


「くそっ!」


(これ以上のイレギュラーは、本当に――ソラの字、お前たちいったい何を考えているんだ!?)


 こうなってはもう庇いきれない。久原さんの言う通り、俺は――


 *


 初めて美岬に会った日、流れる黒髪の綺麗な人だと思った。

 ただ、それから彼女が熱弁したのは自身のことではない。


「天蜜レモン……それって、アイドルの?」

「うん、すっごくかわいいんだよ!」


 天蜜レモンはそれからすぐ有名になった。

 当時はなぜ彼女に拘るのかよくわからなかったが、地元の人間だったというなら納得だ。


「私こういう人のプロデュースとかやってみたい、いつかお仕事が繋がるかもしれないし!」

「じゃあ美岬さんは、都会に行きたいってこと?」

「行きたい、というより、必然そうなるのよ。だって私は泉客美岬だから」

「――、凄いんだな」


 泉客グループの規模を考えれば、彼女が外での見聞を積むのは必至の流れであり、なんらおかしな話ではない、護斗にもそんなことはすぐわかったが……、このままでは、彼女に置いていかれてしまう。


「お、俺も」「うん?」

「頑張れば、この町の外に行けるかな」

「連れてってほしいの?」

「いや……それじゃダメなんだ、俺自身が頑張らなきゃ」


 美岬さんはただ夢を追いかけているだけの人とは違う、の見取り図まで見えていて、実際に事を成してしまう人だった――当時から地元の新聞やメディアに、泉客の次世代を率いるニューホープとして期待名高く、実際それに応える度量を備えてしまっていたから。同い年の誰よりも、先見性と仕事に対する責任感があった。

 そう、ただやりたいと浅く拙い熱意だけで走っているなら、すぐに挫折する……俺は凡人だから、彼女のようにはできない。都会へ出てなにかを成したいなら、当然それに相応しい努力をすべきなのだ。


「あははは!」


 お嬢は突然、笑いだした。


「都会とか、あんまり関係ないよ。

 どこにいたって、その人の義務はついてくるって話――だけど繋がれたら、きっとそれは私たちの世界をもっと拡げてくれる」

「そういう、ものですか」


 繋がる――そんな言葉を最近思い出したのは、八号機の首輪を見たときだ。あれは繋がりより、支配や束縛を現すかのようだったが、俺たちが鮫人に乗るってのは、そういうことだ。

 俺はお嬢のように、前向きにはなれなかった。

 だから天充枸櫞、アイツが振りまく厄災に、振り回されてしまうんだ。


 *


 気づくと枸櫞はシトラを抱き上げたまま、浜辺にいた。


「なんで生身で、テルクにいる」


 鮫人に呼ばれたなら、気づくとコクピットに転移しているのがこれまでの常だった。


「くぅ……」「シトラ、きみなのか?」


 いつの間にか、腕の中で寝ている。

 八号機がいないなら、消去法的にそういうことになろう。

 シトラは個人で空間跳躍能力を確立してしまっている、僕一人追加で連れてくるなんて、わけないのかも。


「けどまずいな、この状況。

 結局《《美岬さんが言うとおり》》なら、向こうに戻れても、朝桐が僕とシトラを殺してしまう。あのひと自身、それを止める手立てがないって話だが。

 それから――今回、テルクから戻れる条件は何だ?

 呼応するネーレイスがいないなら」


 シトラでも、殺せと?

 これまでは曲がりなりにも、ネーレイスの討伐というゴールがあった。

 なのに、今回はそうでない。


「人形もないのに、いや――あれは、五号機」


 浜辺に片膝をついて、白い人形が項垂れる。


「僕が乗れるでもないのに。

 シトラはどうして向こうに八号機を残してきた、なぜ?」


 きっとシトラは答えてくれないだろう。それを言語化するだけのロジックを編めない。彼女が持っているのは、幼児性と物事の結果だけだ。

 それ以上のものを望もうとすれば、きっと読み違える。

 彼は眠る童女を抱え、向こうにいる五号機の足元へ、砂上を歩き出す。


 *


「八号機に乗り、ふたりを追跡なさい。

 ネーレイスを捕食した八号機自身に、空間跳躍能力は備わっている」


 久原は淡々と、任務としてそれを護斗へ告げる。


「……跳んで、そこからどうするんですか」

「あなた、察しが悪いふりなんて止したら?

 すでに天充枸櫞とあのネーレイスは、泉客グループの制御を逸脱した存在よ。泉客美岬にとっても、その存在は害でしかない。

 それくらい、わかる子だと想っていたけれど――」


 いずれにせよ俺は、この女の言葉を断れない。

 そういう責任を負うと、とうの昔に決めている。

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