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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-【7/31 本編完結】  作者: 琉璃宿命
22.

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第108話 事後処理

 四神の結界が解かれると、直後セドナはどこへともなく、水平線の彼方へ立ち去った。

 那戯の願った白夜が終わり、テルクに新たな夜が廻る。



『天充』


 壱号機から、翼の声がする。

 八号機はセドナのいなくなった祭壇に呆然と降り立っている。


『もう戻ろう。

 いまの俺たちに、白錫を取り戻す方法はない。

 八号機なら、またいつでもテルクへ来れるはずだ。

 一度、立て直すべきだ』

「簡単に、言ってくれますね……えぇ、わかっています」


 珊瑚や護斗たちもまだここにいて、立て続けの戦いに、疲弊は頂点に達している。枸櫞の我儘にずっと付き合わせるわけにもいかない。


*


 社務所では回復した貫たちが、戦勝の宴を用意していた。

 那戯をテルクの位相の狭間へ封じ、みなが生きて帰ってきたことを歓ぶ、そういう祝いの席。

 枸櫞はさほど立たないうち、外の空気を吸うとひとりで出て行ってしまう。

 見かねた浅葱が、やがて出てきた。



「……個というものを記号に還元してしまうのは、那戯に限った話じゃない。

 テルクの海原は、それそのものが否応なく末端の個を呑み込む魔性です。まぁ、現実の社会も同じことなんですけど」

「琉稀がいなくなったのが、そうだって?」

「僕は最初、テルクから来たシトラに、姉さんを視ていました。

 実際、その直感は半分正しかったわけですけど……でも泉客の、この土地が、シトラをシトラ自身にしていくんだと想います、きっとこれからは」

「――」

「ネーレイスとの戦いは、いつだって危険と隣り合わせだ。

 そうしたいざってときの、お互いに覚悟してたところはありましたよ。

 でもやっぱり、しんどいですね。

 そんな結果を望んでいたわけじゃない。

 ……泉客へ来たときは、空っぽの自分を回すだけの動機モノが欲しかった。

 だけどいまは、もうなにかに怒ることに使う気力が果てました。

 安心、しちゃったのかも」


 それまで背中を向けていた枸櫞は、浅葱へ振り返る。


「もう確信が持てないんですよ、今度琉稀さんを連れて戻るとき、それが琉稀さんのかたちを保ったものなのかって」

「――、天充くんは、私たちにできない、凄いことをやってのけた。

 美岬ちゃんを取り戻して、みんなを無事に連れて帰ったじゃない。

 もう充分、頑張ったよ。

 きっと琉稀だって、わかってくれる……私の言葉なんて、軽いかもしれないけど」

「いえ――、ありがとうございます、先輩」


*


 人の居ない発令所で、枸櫞は観測員の席に掛ける。

 ぼんやりしていたら、美岬嬢がやってきた。


「……ヤヲ因子ってのはつくづく便利だな。

 きみが壊したはずのここも、探査組の鮫人たちも、いまは大人しく遺跡に眠っている」

「えぇ――八号機がやったんでしょう?」

「さぁ、何のことやら」


 どうせ王力チェインドライヴあたりの権能で、因果をまた書き換えているに決まっていたが、


「照れてるの?」

「そんな可愛げが、僕にあるものかい」

「それも、そうね」


 空っぽの言葉がふたりを行きかう。


「兄さんにけじめをつけてくれて、ありがとう。

 あの人は死んだところで内省するたまでもないけど」

「人としては終わっていたけど、なまじ悪意がないから、僕たちには救えない……あいつがああまで、総体にこだわる感覚もわからないではないよ」

「それはきみが、王様だから?」


 枸櫞は首を横に振る。


「ひとは自由で、愚かだから――あいつには世界を壊すより、その手でなにかを造るほうが、まだ見合っている。

 人が滅んだ果ての世界があったなら、そこであいつは、きっと新たな造物主を演じることだろうよ……それこそ、もう誰にも邪魔されることなく」

「また、テルクへ行くんでしょう?

 琉稀さんを取り戻しに」

「――」


 枸櫞は肯定も否定もしない。


「なんで琉稀さんは、二度も奪われなきゃならなかった。

 アーウィズォウトが、ひどく煩わしいよ。海原にさえ関わらなければ、自分の力できっと幸せになれる人だ。

 普通のひとなんだ」

「愛して、いた?」

「そりゃ、ね……もう一度、因果を書き換えようと想う。

 八号機で」

「そう」


 琉稀が踵を返すと、彼は声をかける。


「もう行くのか?」

「うん。闢くんが――弟が待ってるから」


*


「ありがとう、アサくん。こんなことまで付き合ってくれて」


遺跡を見下ろす展望室から、護斗の声が返ってくる。


『いやまぁ、先輩を取り戻す手伝いくらいはするよ。だが、俺が五号機に乗るまでもなく、俺の力はお前が取り込んでいるだろう?』

「だから、きみに敬意を払いたいんだって」


 遺跡の中で、回収した四号機の肩に手を置く。

 五号機の異能を、王力チェインドライヴを介して使うつもりだった。

 シトラが浮かない顔をしている。


「くえん」

「うん……」

「もう、るきのこと、こーじんからおろしてあげようよ」

「?」


 シトラの言葉を聞いて、ふと想う。

 そうだった――僕は琉稀さんに言い寄るばかりで、琉稀さん自身の言葉だとか、なにを考えていたかとか……知らないまま、ここまで来てしまったんだ。



 すぐにイメージは繋がった。

 今度の心象風景は、清々しいほどの夕暮れの空。

 子どもの姿をした琉稀が、ぶかぶかの服を垂らして、水鏡の上に立っている。


「――、時間はたっぷりあります。

 先輩のこと、聞かせてください」


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