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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-【7/31 本編完結】  作者: 琉璃宿命
22.

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第107話 なんと美しい

「ボクの夢を叶えてくれるんじゃなかったか、美岬」


 那戯は寂しげに、彼らが現れた虚空へと、呟く。


『あなたと私の夢は、どうしたって相容れることのないでしょうね。

 お兄様……愛しています、今でも』


 跳躍してきた――八号機との合流を果たした鮫人たちは、美岬の艦隊とともに、ありったけの火力と機動力を駆使して、四神の為す結界へ突入してきた。


「!」


 流石の那戯もそれまで従えていた艦隊が、そのまま敵の火力に充てられたことには険しい顔を作った。

 白號機――白い鮫人の体表に、金の縞が走っている。

 人魚というよりかは、虎をヒト型に立てたような外形。

 ホワイトタイガーと、人魚の歪な融合体だ。

 他の粘土四神は自律で動けるものの、那戯本人ほどではない。

 無論、過去の対ネーレイス戦の統計はあるけれど、対鮫人を想定した統計が満足に足りているわけもなく。

 那戯が儀式を急いだのは、万に一つの泉客側の妨害を避けるためだった。


「……きみらにできることはないと、たか括ってたがな」

『油断、じゃないですね。あんたこうなることは織り込み済みだったろう。

 誤算があったとすれば、美岬の艦隊がそのまま僕らの火力に転じたくらいのことで』

「そう、だな。

 まぁ、焦ることではない」

『他の四神が倒されたところで、きみさえ残っていれば、結界が機能するから?』

「きみたちを、セドナへ触れさせない」


 枸櫞の八号機は、浅瀬へと静かに降り立った。他の鮫人たちとは異なり、外付けのブースターや火力の補強はされていない。

 その必要がないから。

 枸櫞が笑う。


『ひとつ、勘違いしているよ、泉客那戯』

「なに?」

『僕の狙いは、セドナじゃない。

 あんただ』

「!?」


 そうして、朱桃と白號の一騎打ち――最後の戦いの火ぶたは切って落とされた。

 枸櫞がリターナーをはじめ、機体が持つ異能を出し惜しむ必要も理由もない。

 白號の足場を奪うため、初手でメタンの泡と壱号機の重力制御を借りて、交互に使い分ける。


『個に執着できず、総体に奉仕するばかりの存在。

 あんたは自分という個にすら、鈍いから……もっともその戦略的価値は弁えているんだろうけど』

「へぇ、流石っ――だが!」


 白號は腕を振って、四号機になにかを示した。

 直後、四号機のミサイル群が八号機へと降ってくる。


「美岬を取り戻したからと、いい気になったものだな?」

『機体のほうの制御を奪ったか、やってくれる、美岬さん!』

『ごめん、早く兄さんを止めて!?』

『任せろっ!』


 重力制御を白號へ適用するのは諦め、枸櫞はそれを四号機からの弾幕を回避するのに扱うのみに留めた。

 結局、戦輪を手に八号機は接近戦を仕掛け、フェザースタッフとの奇妙な剣戟が繰り広げられる。

 八号機の戦輪は鎖を用いた変則的なリーチの切り替えで、巧みに白號をその場に押し込むが、白號もまたやられっぱなしではない。


「セドナを手中に収める以上、こちらのリソースにも不足はない!」


 背後の彼女から供給されるヤヲ因子と枝を用い、細かく砕くことで白號だけが操れる、指向性を帯びた即席の空中機雷がその場に溢れ、八号機と眷属リターナーをオールレンジで襲う。


『く、まだっ!』


 八号機の妖竜の片翼が光ると、最小限の動きで機雷の到達と爆風を凌ぎ切り、剣戟の演舞が継続される。


『那戯、あんたの言ってたこと、俺なりに考えたんだよ』

「なんの話だ?」


 那戯には神社姫のいない周回でのやり取りなど、知りようがない。

 だが、


『文明を滅ぼし、すべての動物の起源を、セドナへと繋げる。

 先史文明の遺構を用いれば、それができると』

「よく知っている!

 ならば止めるか?

 ボクを間違っていると?」

『いいや、あんたはよくできた裁定者だ。

 あんたの計画は完璧だよ。

 正直、人は愚かだと言われて、俺にはそれを否定する材料のが少ない。

 姉さんも、俺も、美岬さんも――愚かで、人としては弱い。

 間違うことだってある、ただ』

「ただ?」

『たとえ滅ぶにしても、強要されるよりかは、総力を尽くした果てでいい』

「!」


 戦輪のかたちが変化し、それは首輪へと変じる。

 那戯の気づいたときには、遅かった。

 白號の首にそれはかっちりと収まって――、白號は跪かされる。


『《《俺が上》》、《《あんたが下》》だ。

 王がお望みなら、俺があんたの王にでもなんでもなってやる。

 那戯、あんたの野望、俺たちの時代には早すぎたんだ』


 枸櫞が、戦いの終結を宣告する。


*


 那戯は自分が、これから深く永い眠りに落ちることを、よく自覚していた。


「……さすがは、テルクの王」

「そういうことに、なるのかな」

「眠る前に、ひとつ訊いていい?」

「どうぞ」

「ボクの野望を否定しないのは、なぜだ?」

「あんたという個人は憎たらしいんだけど、セドナは――なんだかんだで、自分の憎しみに寄り添ったあんたを、高く買っている」

「ネーレイスの、ためか」

「僕も僕とて、魔性ですからね。

 人間が殊更好きってわけでもない、でなければ、この海原で姉さんを求めたりなんて、しなかった」

「そう……」

「美岬嬢が言っていた。

 あんたは彼女を愛さないだろうが、あの子はあんたの存在が潰えるそのときまで、愛し続けているそうだ。

 なんと美しい、復讐じゃないの」

「それ、復讐と呼べるの?」


 枸櫞は、静かに頷く。


「次に目覚めた時、きっとあんたはそのことを思い出すよ。

 別に、共感しなくたっていい――その時、あの子は、あんたの特別な人間になるだろうから。……そして、二度と会うこともない」


 喪ってから、きっと大事なものを学ぶ。

 こいつに人間個人への思い入れや共感がなくたって、自分が造って培った最初の特別は、もうその手に戻ってこないのだから。

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