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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-【7/31 本編完結】  作者: 琉璃宿命
20.

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第98話 特別なことは何もない

 護斗は鮫人を覚醒させるまでもなく、一定の練度で戦闘をこなせていた。

 翼や探査組などもそれらがネックとなり、近代はなかなか人形を覚醒させることができないまま、思念武器の拡張性で補っていたが、超常を扱う強力なネーレイスらを相手には当然ながら頭打ち、力量で補うには限度があった。

 だからみな、自身らの無力を呪うことになる。そも、鮫人の覚醒の引き金となるものがなんなのか、たとえばそれがある種の感情の起伏だとして、どうしたらその状態に至れるかだって判然としない。


(このままじゃ、潮目に呑まれる。ふたりも伏馬先輩も、自分たちの最善を尽くしているのに、俺だけまだ――取り残されて、たまるか)


「どうすれば、俺は……力を手に入れられる?

 応えろよ、五号機ッ――」



 以前、枸櫞と覚醒した人形について話したことを思い返す。

 あのとき彼は確か、


『特別なことは、何もないんだと想う』

『参考にならねぇ……』


 あのときの護斗にはわからないあやふやな事しか示唆してくれなかった。


『そうかな?

 目的意識、と言うのもたぶん大事だけれど、鮫人は本来、《《戦うための道具じゃない》》だろう』

『――』

『あくまでも人魚の写し身だ。目的は大事だが、それが人魚として、或いは人としての何らかの定義を得る必要があるんだ。伏馬翼は、あいつが人魚になりたくて、壱号機を覚醒させたわけでもないけれど、超常へ至るだけの何らか飛躍できるものは備えていたはずだ』

『それだけ強い、感情ってことか?』

『強いて言えば、己の原点を洗い出すことかな。なんのために、鮫人に乗るか、《《ではないよ》》。目的が先んじるのではなく、共鳴者の在り方そのものが、人形に映し出されてしまう。鮫人の色は、お前の色となるんだよ。そこには正しさなんてない、ただありのままなんだ――自分がどれだけおぞましくて、歪なものを抱えていても……それを呑み込んでその先へ進む度量を求められてしまう』

『なんだよ、それ?』


 だけど今なら、ほんの少しわかる気がした。



「ソラの字、さ」

『おん?』

「ネーレイスを初めて食らったときのことは、憶えてるのか」

『――、そうだな』


 波間に揉まれながらも、枸櫞は淡々と答える。


『俺はテルクのものを喰らうことでしか、欠けた自分を見出すことができなかった。

 そうして手に入れたものはあるけれど、それはこちら側の、魔性のやり方でしかない。

 俺はなるべくしてこうなっただけ、人として強い核があったわけじゃないんだよ。

 アサくんは、もっと自由にやったらいい。きみの願う力の先に、きっと美岬さんが待っている』

「……ありがとう」


 今度こそ、掴めた気がする。


「お前が俺に教えてくれるものは、いつもそうだった」


 魔性の枸櫞が説く自由と、それが齎す混沌――だけれどいまの俺は、それを途方もなく焦がれているから。



 五号機の指先が、紺色に染まる。そのさらに先に、二つの光玉が現れ、静かに軌道を描き出した。


「振り子……?

 そう、これが」


 自身ではそう直感する。振り子の先に繋げた更なる振り子が描く荒ぶった軌道――その先が描くものは、カオスであるのなら。


*


 アザラシはさっきから、ぴたりと動きを止め、天を仰ぐかに想われたが――その視線は八号機へ、いつの間にか固定されている。不思議と場にそぐわない穏やかなものに感じられるのだから、枸櫞は怪訝な顔をなる。


(なにを考えている?)


 遠く、四号機のほうを見やるとあれは首の上から頭巾カウル状のなにかを被っている。


「あれが、お前のものだと?」


 直後、艦隊の弾幕の合間を縫って、四号機から飛翔してきたのは先ほど壱号機を襲ったのと同じものだ。


(光線?)


 ネーレイスからの攻撃は大抵、物理的なものか唄に頼りがちなので、珍しいアプローチである。備えなければ、翼でさえ貫通されたのは仕方ない。


「悪いが、どーともならん」

「ブブォオオオオオ!!!」

「!?」


 怒られたっぽい。しかし、だったらまずこの潮の流れを止めて欲しい。

なぜ現れたかは、この機になんとなくわからないでもない。

 メロウの伝承には、コホリン・ドゥリューなる潜水能力を司る頭巾があるからだ。

 伝承の場合とは違って、メロウは海中から出てきたわけなので、潜水というよりたとえば気配の隠匿に扱えるアイテムなのかもしれない。

 艦隊指揮の性質からして、那戯は可能な限り指揮管制が死なない――鮫人相手で通常の有視界やセンサーに反応しない領域を欲したはずだ。やつはネーレイスを最も長く研究してきた人間だし、使えると想わなければ、アイテムを強奪なんてしないだろう。


「五号機、さっき何を掴んだ?」

『それが……少し、耐えてくれ』


 鎖がいよいよ引き戻されて、潮目の中央のアザラシへ至ろうとするが、


『まずいよみっちゃん!

 このネーレイスの周り、位相が歪んで磁場もおかしい!』

「――、うん」


 なんと、首輪が砕かれてしまった。三機は揺さぶられながら、海に呑まれかかる。


『いま!』

「?」

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