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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
19.

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第94話 檸檬vs

 檸檬が枸櫞へ訴えかける。


「枸櫞。この戦い、私にやらせてくれない?」

「どうしたの、急に。鮫人なんてろくに使ったこと、ないくせして」


 リターナーを扱えるシトラならまだしも、この土壇場で姉が賭けに打って出ること自体、枸櫞には怪訝なことだ。


「なんとなくね……これは枸櫞じゃなく、私がやるべきことに想えるの。

 枸櫞があの子と戦えないとは想わないよ、ただ。

 あの子は、シトラを要求したでしょう。

 私とあなたの子――」

「……そういうこと、ね。

 だったら一緒にやってくれ。

 シトラじゃなく、僕の身体を使ってよ、姉さん。

 それが条件だ。そしたら僕は、手を出さない」

「!」


 少しして、檸檬は頷く。

 無論枸櫞は、危なくなれば、身体の制御を返してもらうつもりでいたが。


「うん、ありがとう、枸櫞」


*


「天充檸檬――か。

 そう、またみっちゃんのことを……誑かすんだね」

『会ったこともない相手に、随分と疎まれたものだわ。

 うちとしたら、そう珍しいことじゃないんだけど』


 芸能人あるある、見知らぬ他人の僻みをいつの間にか買っている。

 そういうのであれば、檸檬からしたら馴れたものだったが――、


「会う前から、あなたが嫌いだった。身内という関係に胡坐をかいて、死んでなお、みっちゃん――枸櫞くんのことを傷つける、あなたが許せない」

『そう』

「あなたさえいなければ、いやあなたに限った話じゃない。

 美岬嬢のように、野心と悪意がわかりやすいなら、まだマシだ。

 天充檸檬、あんたが彼を、いつだって、人魚ネーレイスの魔性へ引きずり堕とすッ!!!」

『借りるわ枸櫞、思念武器メンスマテリアル


 生前鮫人へ乗ることのなかった檸檬は、自身の思念武器は持っていない。けれど、最愛の弟の戦いぶりを童女シトラの眼を通して、いつも見てきたのはそうであって。

 彼の戦輪と鎖を巧みに操り、珊瑚からの攻撃を凌いで、弐号機へ接近する。


『無駄に本数の多い腕、さっさと削ぎ落してあげましょうか』

「やはりそうか。

 あんたは天充檸檬であって、天充枸櫞ではない」

『どういう?』

「さぁな」

『!』


 枸櫞なら、こちらの見た目なんかに振り回されたりしない。

 背面の腕に気を取られ、それを数本削り落とす間に、こちらがカウンターとして足元に仕込んでおいた大蛇の首が突き上げて、八号機はそれをもろに腹で受け止めてしまう。


「あんたは傍らで見ているだけだった!

 僕はずっと、彼と肩を並べるために、戦っているんだ!」

『きゃッ!?』

「覚悟が、違うんだよッ」


*


 結局弐号機背面の珊瑚腕は、彼の力で即時補充される。

 八号機は後退する。


「ウォーミングアップはこの辺にして……枸櫞、ひょっとして興奮してる?」


(ノーコメント、で。彼、やはり強くなったよ)


「あれ、枸櫞の戦友でしょう?

 粋がるだけのものは、流石に持っているわね」

「シトラも、たたかう!」

「あらまぁ、別に眷属体リターナー使ったっていいけど、ここで使うのは、なんか違う気がする。いい子だから、もう少しだけ、私に任せてくれない?」


(次しくじったら、あとがないよ。珊瑚くんが僕を殺すことはまずないけれど)


「私とシトラに対して、その限りでないって話ね。

 ……なんだっていい。ねぇ、珊瑚くん」

『あ?』

「いつも枸櫞を真剣に愛してくれて、ありがとう。

 枸櫞の家族として、お礼を言わないと」

『あんた、どうかしているんじゃないか』

「そうかな。だけどあなたも、随分と魔性らしい」

『――』

「あなたも私も、同類よ。

 社会にそれを認められることはないとわかっていても、枸櫞をひとりのひととして愛している。テルクの王様だから、じゃない」

『それが?』

「私はそういうあなたを、気に入っているの」

『この――ッ』

「すーぐむきになっちゃって。

 さて、枸櫞。こっからどうしようか?」


(姉さん、やっぱりアドリブ力で乗り切ろうとしてたんだね――これだから天才型は)


「枸櫞はちゃんと私を、天才だって認めてくれてたのね、うれしいな。

 もっと早く聞きたかった」

『これで終わらせる、あんたとシトラは!』


 彼は領域単位で戦場を支配しようとしていた。

 陸以外の四方から、無数の珊瑚と大蛇の首が伸びて、あっという間にドーム状の天蓋を形成する。


(珊瑚の展開が早過ぎる、昨日までの攻撃からしたって、ここまでの柔軟性はなかったはずなのに、これはなにか、手品がありそう)


「わかってるよ、ねぇ枸櫞。

 私だって、負けるために戦ったりしないよ。だから――」


 天充檸檬は、突如として唄いだす。

 物哀しい、人魚の唄を。


*


 計器を見て、珊瑚は苦い顔を作る。


「ほんとうに、なんでも持っている……唄、か」


 それを軽んじているつもりはないけれど、敬遠しているところはあった。自分は唄に興じるほど、いい声を持っている自信がない。あの姉弟は、わりとそういうものが好きそうだけれど、それはそういう“生まれ”だからじゃないか、と。


『あなた、根拠のない自信とか、信じていないでしょう?

 直感に委ねるのは大事なことだよ』

「何を言って――」

『枸櫞への愛に、あなたは理屈なんて必要だった?』

「そう言うあんたは品性もなく、また何度だって彼を傷つける!

 許せないんだよ!」


 思念武器の鞭を、紅珊瑚で強化する。ウィップの各所に、侵食する細かな棘が仕込まれていた。それはしなやかに、八号機の手首に絡むが――手繰り寄せられてしまう。


『あぁ、掴まえた』

「捕まったのはあんたのほう――」


 しかし直後、彼はコクピット内でひとりもんどりうつ。


「なにを――くそ、こっちの力が届いてない!」


 唄が彼の力の発動を、途中から妨げている。

 八号機はふたたび空いた方の腕で戦輪を投擲し、弐号機の全身を刻んでいく。


『シトラ、一緒にお唄、唄おうか?』

『うん!』

「お前たちッ!?」


 天充檸檬を相手に、珊瑚の敗因はただひとつ。

 自分の唄を、見つけられなかったことだった。

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