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EP.5 孫娘

こちらのページを開いて頂きありがとうございます!


「チヨお姉ちゃーん!今日の納品分もらいに来たよー!」


 裏口の扉を叩く音とチヨを呼ぶ少女の声が建物の中に響く。


「はいはい、今開けますよー」


 チヨが小走りで裏口の扉に向かい開けるとそこにはチヨがこの世界で初めて出会った少女のアイリがリアカーのような物と共に立っていた。


「アイリちゃんおはよう、いつも朝早くからありがとうね」


 チヨはアイリのリアカーの荷台にチヨが作ったポーションの便が入った箱を乗せた。


「ううん!チヨお姉ちゃんこそポーションを作ってくれてありがとう!おかげで村のポーションの値段も落ち着いたし、大けがする人も減ったんだもん!」


 チヨはアルタ村の錬金術師として店を出してからポーション類を役場へ卸しており、ギルドへの納品は納品日にアイリが取り来ることになっていた。


「それじゃ、今日も役場までお願いね」


「うん!じゃあ行こっかリーちゃん!」


『にゃー!』


 出発しようとするアイリが何かに声をかけるとリアカーの荷台から緑色をした葉っぱのような不思議な体毛をした猫のような生物が顔を覗かせる。


「アイリちゃんをしっかり守るのよ?」


『にゃん!』


 少し不思議な見た目のこの猫はチヨが錬金術で作り出したゴーレムで、本来であれば自我など芽生えない物だったが、どう言う訳かこの世界ではチヨが作ったゴーレムは自我を持ち本物の生物のように振舞った。役場にポーションを卸す依頼を受けた事を知ったアイリが納品の手伝いを申し出たのだが、初めは高騰しているポーションを狙った輩などを心配してチヨが護衛として作ったのだ。


「さて、開店の準備を済ませちゃいましょ」


 チヨはアイリを見送ると家の中へと戻り、店舗スペースで始めた店の開店準備に入った。



「さぁて、今日もチヨばあちゃんの錬金商店開店よ!」


 チヨは店舗を出す時、万が一この世界に知り合いが来ているのであればチヨばあちゃんと言う言葉に気付いて尋ねて来てくれるかもしれないと『チヨばあちゃんの錬金商店』と名付けたのだ。申請を出した時に役場で一度却下されたが私の地元での愛称のような物だとごり押しした結果、怪訝な顔をされたがチヨのやけに落ち着いた雰囲気からそう呼ばれていたのだろうと納得して貰えて何とか許可されたのだ。


「中身はおばあちゃんだし、チヨおばあちゃんって皆から言われてたのは本当の事だから嘘は言ってないわよね」


 開店からしばらくすると店の扉が開いて子供が入店してきた。


「チヨさん!オセンベイちょうだい!」


「オレはオハギ!」


 入店してきたのは村の子供たちで、チヨが村にある食材から作っているお菓子が好評で連日子供たちが銅貨を握りしめ来店しており、子供たちの喜ぶ顔が嬉しくてチヨは時間があれば元々持っている知識と錬金術を駆使して駄菓子などを作っていた。


「はいはい、順番にね。おせんべいは10枚で銅貨1枚、おはぎは銅貨1枚ね」


「はい!チヨさんありがとう!また来るね!」


「転ばないように気を付けて帰るんだよー!」


 買ったお菓子の包みを大事そうに持ち帰る子供たちをチヨは見送ると店内に戻り、作業部屋へと向うと錬金術に使う釜戸の前に立ち腕まくりをした。


「さてと、依頼されてた加熱結晶を作っちゃいましょうかね」


 チヨは釜戸に火を入れると、赤く熱を帯びた細かな石の欠片を釜戸の中へと入れて魔力を送る。すると石の欠片がみるみる溶けていきくるくると周りながら丸状に成型されていき、燃えるように輝く小さなガラス玉のような物が出来上がる。


「この調子ならお昼頃には終わりそうねぇ。加熱結晶は急ぎでしょうし今日は一旦お店を閉めて納品に行きましょうかしら」


 その後も同じ作業を続けながら店への来客の対応もこなし、何とかチヨは依頼分の加熱結晶を作り終えた。


「ふう…作業しながら接客もするのはやっぱり大変ねぇ…役場なら従業員の募集とか出来たりするのかしら?」


 チヨは完成した加熱結晶を箱詰めした後にストレージに収納し、一度店を閉めるために店の入り口へと向かうと扉が開いた。


「いらっしゃいませ、ご自由に見て回ってくださいね」


 入店して来たのは背中にアンバランスな大剣を背負ったサイドテールの金髪が特徴的な少女だったが、入店してから商品を見るでもなくチヨを見つめている。


「あの…?何かのご依頼かしら…?」


「チヨ…おばあちゃん?」


 金髪サイドテールの少女は困惑した顔でチヨの事を呼んだ。アルタ村では村人にもすでに定着している店名だが、知らない人にはチヨの容姿を見て店名とのギャップに困惑もするだろう。


「あぁ…店名のチヨばあちゃんって言うのは私の愛称みたいなもので…」


「ほ、本当におばあちゃん何だよね!?」


 チヨが店名の事を説明しようとした瞬間、少女はチヨに迫り両手でチヨの頬っぺたをむにっと持ち上げた。


「ひょっと…ひゅうになにを…(ちょっと、急に何を)」


 チヨは急接近して来た少女の顔を至近距離で見たところ、どこかで見覚えのあるアバターである事に気が付いた。


「ぷあっ…あ、あなたもしかしてリサちゃんなの…!?」


「やっぱりおばあちゃんなんだ…会えて、会えて良かったよぉ…」


 チヨがリサちゃんと呼んだ少女は安堵の顔を見せたと思ったらその場にへたり込んでスンスンと泣き出してしまった。


「あらあら…大丈夫よ、おばあちゃんはここに居るから泣き止んでおくれ…」


 傍から見ると年下の女の子になだめられる金髪女剣士ではあったが、しばらくすると気持ちが落ち着いたようでゆっくりと立ち上がった。


「ごめんねおばあちゃん…もう大丈夫」


「そうね…お店は一旦閉めるから何があったか聞かせてもらえるかしら?」


 チヨは店の入り口に準備中の札をかけ、店内の中にある椅子に腰かけた。


「すごい…まるで昔の駄菓子屋さんみたいなお店…」


「それでリサちゃん、何があったのか教えてもらえるかしら?」


 チヨは自作の湯飲みに、これまた自作の緑茶を入れてリサに出す。


「ありがとうおばあちゃん。ズズッ…緑茶だ…何だがもう懐かしい味。えっとね、おばあちゃんが行方不明になってから3週間ぐらい経った時かな?おばあちゃんに昔オススメされたオンラインゲームの事を思い出してね、何か手がかりがが見つかるかもってゲームにログインしようと思ったら突然光に包まれてこっちの世界に飛ばされてたの」


「…」


 いくつか気になる点があったがチヨは口を挟まずにリサの話を聞き続ける。


「目が覚めたらこの姿でラマスの街に居たの…最初は混乱したけど、言葉は通じたし昔おばあちゃんとやってたゲームに似てるって気付いてからはギルドで依頼をこなして生活してたんだ…でもこの前ギルド職員の人からアルタ村にいる錬金術師がやってるお店の話題になった時『チヨばあちゃんの錬金商店』って店名を聞いておばあちゃんの事だってすぐに分かったんだ」


 リサはチヨの孫で昔リサがPCを購入した時にしばらく一緒にプレイをしていたことがあった。リサの受験が始まるとプレイの頻度も落ち、いつの間にかログインをする事はなくなってしまっていたのだ。


「それよりおばあちゃんはどうしてこの世界に来てるの?多分、僕よりも先に来ていたんだよね?」


「どうしてと言われても私にも分からないのよね…リサちゃんと同じような感じかしら?ゲームにログインしていて急に光に包まれたと思ったらアルタ村に向かう荷馬車の中だったのよ。ところで私が行方不明って言っていたわよね…?居間のパソコンの前で倒れていたとかじゃなくて?」


「ううん、おばあちゃんと連絡が取れなくなってから家の中は全部探したけど見つからなかったよ」


 チヨはてっきり自身が元の世界で亡くなったものだと思っていたが、そういう訳では無いらしい。


「それにリサちゃんゲームにログインしようとしたって言っていたわよね?私がこの世界に来た日にサービス終了しているはずだと思うのだけれど…」


「そうだったの!?それは知らなかったけど、普通に昔と同じように公式ホームページから普通にログイン画面も出ていたけど…って普通では無いよね、ログインしたらこんな世界に来ちゃうんだもん」


 チヨは考え込む。こちらの世界に来てしまったのがチヨだけなら死後の世界と割り切ってしまっても良かったのだが、孫であるリサまで来てしまったとなれば話は別だ。


「どうにかして日本に戻る事は出来ないのかしらねぇ…」


「…僕も最初はそれも考えてたんだけどさ、お金の為に受けた依頼だったのに凄く感謝されたんだよね…おばあちゃんの噂もここに来るまでに村の人達から少し聞いたけど皆凄く感謝してた。ここはゲームの中なんかじゃない。生活している人がいて、思ってる以上に困ってる人も沢山いた。だから出来るか分からない事を考えるより、僕に出来る事からやって行こうかなって思ってるんだ」


 そんなチヨの考えとは裏腹にリサからでた言葉は日本に帰りたいなどでは無かった。


「そう、リサちゃんがそう言うのならおばあちゃんは何も言わないわ。私も溜まってる依頼をほったらかしになんて出来ないものね。よっこいしょ…そうと決まったら役場に行きましょうか!宿屋じゃなくてここに住むとなると手続きが必要ですからね」


「うん!」


 その後二人はリサの手続きの為に役場へと向かった。



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