#4 待機
カズトは何もしなかった。
いや――
“何もしないことを選んだ”。
廊下でぶつかられても無反応。
パンを買わされても無表情。
脅されても、目を逸らさない。
怒らない。
泣かない。
抵抗しない。
ただ、淡々と。
その静けさが、逆に不気味だった。
いじめっ子の中心にいる背の低い男――
ジンは、最初こそ満足していた。
「ほらな、何もできねぇ」
だが数週間後、違和感が生まれる。
カズトが焦らない。
怯えない。
そして――
どこか“見下ろしているような目”をする。
それがジンの自尊心を刺激した。
増長
ジンは、より目立つ方向へ舵を切る。
自分が強いと証明したい。
周囲の女子に絡み始めた。
軽いノリで触れる。
冗談だと言い張る。
拒否されると機嫌が悪くなる。
最初は笑っていた取り巻きも、
次第に距離を置き始める。
「ちょっと最近やばくね?」
噂が広がる。
カズトは何もしない。
ただ、観察する。
手帳には短く記される。
【ジン、承認欲求強化。周囲の信頼低下中。】
立ち位置の逆転は音もなく
ある放課後。
ジンが女子を強引に腕を引いた瞬間、
偶然そこにいた教師に見られた。
「何をしている!」
ジンは言い訳をする。
「冗談ですって!」
だが、これまでの積み重ねがあった。
女子たちが、口を揃えて言う。
「嫌でした。」
空気が変わった。
ジンは初めて、孤立した。
取り巻きも黙った。
カズトは廊下の端でその光景を見ていた。
胸は高鳴らない。
歓喜もない。
ただ、理解する。
立ち位置は――
自分で崩れることもある。
そして
その夜。
再びクリスタルが光る。
裂け目が開く。
向こうの少年が言う。
「こっちの世界でもさ、
強がるやつって大体、自爆するよ。」
カズトは小さく笑った。
「こっちも同じだ。」
復讐はしていない。
ただ、待った。
腐るのは、勝手だった。




