#35 魔力石のクリスタルケース
その日の授業が終わった。
「では、今日はこれで終わります」
生徒たちが帰り支度を始める。
カズトもノートを閉じた。
すると先生が教室の前にいくつかの箱を並べた。
「最後に、皆さんに渡しておくものがあります」
箱の中には、手のひらほどの透明なクリスタルケースが入っていた。
その中央には、小さな魔力石が取り付けられている。
「これは、魔力石付きのクリスタルケースです」
生徒たちに一つずつ配られていく。
ユキジにも一つ渡された。
「ユキジ君」
「はい」
ユキジはケースを受け取った。
透明なケースの中に、小さな魔力石が見える。
「これは何に使うんですか?」
先生が答える。
「このケースは、皆さんがこれから学ぶ詠唱魔法と関係があります」
「魔力石には魔力を蓄えておくことができます」
ユキジが魔力石を見る。
「じゃあ、俺の魔力を入れるんですか?」
「今の段階では、それはできません」
「……?」
先生は説明を続けた。
「正確には、魔力を外へ出して充魔力する必要があります」
「ですが、ユキジ君は現在、通常の魔法による魔力の体外放出ができません」
「ただし――」
先生はユキジを見る。
「あなたはコンセントレーションタイムによって、体内の魔力を体力へ変換し、コントロールすることができますね」
「はい」
ユキジは頷いた。
「だから、体内の魔力が残っていることは自分でも分かっています」
「そうですね」
先生も頷いた。
「このクリスタルケースは、その魔力を確認するためのものではありません」
「これから先、あなたが詠唱魔法を覚えたときのためのものです」
ユキジがケースを見る。
「詠唱魔法を……」
「はい」
「詠唱魔法を習得すれば、精霊の加護を受けることができるようになります」
「そのときには――」
先生が魔力石を指差した。
「精霊から受けた魔力を、この魔力石へ蓄えることができます」
「つまり……」
ユキジが少し考える。
「俺が詠唱魔法を使えるようになったら、自分で充魔力できる?」
「その通りです」
ユキジはクリスタルケースを持ち上げた。
「なるほど」
カズトが横から覗く。
「今はどうするんだ?」
先生が答えた。
「今は私が行います」
「先生が?」
「はい」
「皆さんが詠唱魔法を身につけるまでの間、この魔力石への充魔力は私が担当します」
先生は教室を見渡した。
「一週間に一度、決められた日に充魔力します」
「ですから、このケースは大切に保管してください」
ユキジはケースを眺めながら言った。
「一週間に一度……」
「はい」
「詠唱魔法を覚えるまでは先生に充魔力してもらう」
「そして、覚えたら自分で精霊の魔力を受けて充魔力する」
「そういうことです」
ユキジは納得したように頷いた。
「分かりました」
先生は少し笑った。
「このケースは、今のあなたと、これからのあなたをつなぐ道具でもあります」
「今は私が充魔力する」
「しかし、いずれは自分自身で行う」
ユキジはケースを眺めた。
「……俺、自分で充魔力できるようになりたいです」
カズトが言った。
「そのためにも、詠唱魔法を覚えないとな」
「ああ」
ユキジは頷いた。
「俺、普通の魔法は使えなくなったけど――」
ケースを握る。
「詠唱魔法なら、これから覚えられる」
カズトはその言葉を聞いて、少し笑った。
「そうだな」
教室を出る二人。
ユキジの手には、魔力石付きのクリスタルケースがあった。
今はまだ、自分で充魔力することはできない。
だから一週間に一度、先生が魔力を満たしてくれる。
けれど――
このケースに魔力を蓄える方法を、自分自身で手に入れる日が来る。
そのために二年間、ここで学ぶ。
ユキジはケースを見ながら歩いた。
「カズト」
「ん?」
「俺、早く詠唱魔法覚えたいな」
「俺もだ」
レナステリアの夕暮れの街を、二人は寮へ向かって歩いていった。




