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チャームワールド  作者: 恋塚隆之


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32/36

#32 瞑想

レナステリアワードエナジーアカデミー。


入学して最初の授業。


昨日は、言葉について学んだ。


言葉には意味がある。


そして、その言葉を受け取った人によって、頭の中に浮かぶものも違う。


小説を読むことで、人の感じ方や考え方にも触れる。


詠唱魔法を学ぶために、まずは言葉そのものを知る。


それが、この学校の最初の授業だった。


そして――


二時間目。


教室の扉が開いた。


「それでは、次の授業を始めます」


先生が教壇に立つ。


黒板には、二文字だけが書かれた。


『瞑想』


「……瞑想?」


ユキジが小さく声を漏らした。


カズトも黒板を見る。


魔法学校なのだから、次は詠唱の練習でもするのだと思っていた。


しかし、目の前にあるのは魔法陣でも杖でもない。


「この授業では、瞑想を行います」


「瞑想って、何も考えないようにするやつですか?」


誰かが質問した。


先生は少し笑った。


「それも瞑想の一つです」


そして、黒板に新しい言葉を書き加える。


『集中』


「ですが、皆さんに覚えてほしいのはこちらです」


「詠唱魔法では、言葉を唱えるだけでは魔法になりません」


教室が静かになる。


「言葉」


「その言葉から生まれるイメージ」


「そして、精霊の加護」


「この三つが重なって、初めて強い力になります」


カズトはノートを開いた。


昨日の授業で習ったことを思い出す。


先生は続けた。


「例えば、『火』という言葉を唱えるとしましょう」


「頭の中に、火を思い浮かべてください」


生徒たちが目を閉じる。


「赤い炎」


「青い炎」


「小さな炎」


「大きな炎」


「薪を燃やす炎」


「料理をする炎」


「同じ『火』という言葉でも、人によって浮かぶものは違います」


カズトも目を閉じた。


炎。


赤い。


揺れている。


熱い。


薪がパチパチと音を立てる。


冬の寒い日に、暖炉の前で感じる暖かさ。


料理をするときの火。


そして――


扱い方を間違えれば、人を傷つけるもの。


一つの言葉から、次々とイメージが広がっていく。


「……」


カズトは目を開けた。


「今、何を考えましたか?」


先生が尋ねる。


カズトは少し考えてから答えた。


「火っていう言葉から、いろんなことを思い出しました」


「それでいいのです」


先生は頷いた。


「では、ここからが瞑想です」


教室の空気が変わった。


「皆さんには、頭の中に一つの言葉を置いてもらいます」


「そして、その言葉以外の雑念を少しずつ減らしていきます」


「消す必要はありません」


「ただ、追いかけない」


「浮かんでも、そのまま流す」


カズトは静かに目を閉じた。


呼吸を整える。


吸う。


吐く。


また吸う。


吐く。


時計の秒針が聞こえる。


カチ。


カチ。


カチ。


いつもなら気にならない音だった。


だが、意識を向けると、妙にはっきり聞こえる。


「……」


カズトは呼吸に意識を戻した。


吸う。


吐く。


頭の中に浮かんだ雑念を、そのまま流す。


しばらくすると――


頭の中が少し静かになった。


「では、最後に『火』を思い浮かべてください」


先生の声が聞こえる。


カズトは再び炎を思い浮かべた。


昨日よりも、はっきりしている。


炎の揺れ。


熱。


光。


音。


周囲の空気。


まるで、そこに本当に火があるようだった。


「目を開けてください」


カズトが目を開ける。


先生が黒板に書く。


『イメージの割り増し』


「これが今日の授業の目的です」


「瞑想によって頭の中を整理する」


「そして、一つの言葉に集中する」


「そうすることで、言葉から生まれるイメージを、より鮮明にする」


「これを私たちは――」


先生は黒板を指した。


「『イメージの割り増し』と呼んでいます」


カズトはその言葉をノートに書いた。


イメージの割り増し。


ただ強く念じるのではない。


頭の中の余計なものを整理して、


必要なものを、必要なだけ鮮明にする。


カズトには、少しだけ覚えがあった。


集中。


コンセントレーションタイム。


呼吸。


そして、これまで身につけてきた様々な方法。


今まで自分が感覚的にやってきたことを、この学校では一つの技術として教えている。


「……面白い」


思わず、カズトの口から言葉が漏れた。


隣のユキジが振り向く。


「カズト、何が?」


「頭の中って、鍛えられるんだなって」


「だねぇ」


ユキジも微笑んだ。


「俺も、ちょっと分かった気がする」


先生が二人を見ていた。


「その感覚を大切にしてください」


「詠唱魔法は、声だけで発動する魔法ではありません」


「言葉を理解し」


「言葉を感じ」


「その言葉を頭の中に描き」


「そして、そのイメージに精霊の加護を重ねる」


「だからこそ――」


先生は黒板に最後の一文を書いた。


『言葉を強くするには、まず自分の頭を整える』


カズトは、その文章をじっと見つめた。


そしてノートの端に、小さく書いた。


『瞑想=頭の最適化』


その下に、もう一つ。


『言霊のイメージを割り増しする』


カズトはペンを置いた。


詠唱魔法の授業。


けれど今日も、魔法そのものは使わなかった。


昨日は――言葉を学んだ。


今日は――頭を整えた。


そして、その二つが重なったとき。


カズトの中で、まだ名前のない何かが、ほんの少しだけ形になり始めていた。

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