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チャームワールド  作者: 恋塚隆之


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25/26

#25 今と過去

休日。


雨が降っていた。


窓を叩く雨音。


工房も休み。


ユキジとの約束もない。


今日は、本当に何もない日だった。


カズトは部屋の棚を眺める。


そこには、いくつものゲームソフトが並んでいた。


どれも義務教育の頃に買ったもの。


「……そういえば。」


一本手に取る。


包装を開けた記憶はある。


でも。


ほとんど遊んでいない。


「あの頃は……。」


学校から帰ると疲れ切っていた。


ゲームを買えば楽しくなると思っていた。


けれど、コントローラーを握っても心は動かなかった。


遊ぶ元気すら残っていなかった。


ゲームは「いつか遊ぼう」と積み上がるだけだった。


カズトは静かにゲーム機の電源を入れる。


画面が光る。


タイトル画面。


ゆったりとした音楽が流れ始める。


「始めるか。」


オラクルが言う。


「本日の予定に登録されていない行動です。」


カズトは笑う。


「今日は予定を作らない日。」


「了解しました。」


ゲームを始める。


村を歩く。


話しかける。


敵と戦う。


宝箱を開ける。


時間が流れる。


でも今日は違った。


時間を忘れるほど没頭しても、どこか穏やかだった。


一時間ほど遊んだところで、カズトは自分からコントローラーを置いた。


時計を見る。


タイマーは鳴っていない。


それでも、自分で区切りをつけられた。


「……満足。」


その一言が自然に出た。


カズトは窓際へ行く。


雨は少し弱くなっていた。


ガーネットを見る。


穏やかな赤。


その色を見つめながら、ふと思う。


「昔の俺。」


「ゲームを買っても、楽しくなかったな。」


あの頃は。


学校へ行くことだけで精一杯だった。


心が疲れていた。


だからゲームが悪かったわけじゃない。


遊ぶ余裕がなかっただけだ。


「今の俺。」


工房で働いて。


ユキジと笑って。


親方に叱られて。


クレアと話して。


手帳を書いて。


コロマルと遊んで。


オラクルと過ごして。


そんな毎日がある。


だから。


ゲームも楽しめる。


カズトは椅子に座る。


目を閉じる。


そして。


頭の中で、過去の自分を見る。


教室の隅で小さくなっている少年。


パンを買いに走る少年。


殴られても声を上げられなかった少年。


その少年を、今の自分が見つめている。


不思議と責める気持ちはなかった。


「……よく頑張ったな。」


自然に言葉が出た。


「お前のおかげで。」


「今の俺がいる。」


過去は消えない。


でも。


過去だけが自分じゃない。


オラクルが静かに尋ねる。


「何を考えていますか。」


カズトは窓の外を見ながら答える。


「今と、過去。」


少し笑う。


「どっちも俺だった。」


「ですが。」


オラクルが続ける。


「現在のあなたは、笑っています。」


カズトは照れくさそうに笑う。


「そうだな。」


夜。


五色手帳を開く。


☆緑


・買ったまま遊べなかったゲームを遊んだ


☆紫


・過去の自分を責める必要はないと分かった


☆オレンジ


ハッピーギフト


昔遊べなかったゲームを、

今日、心から楽しめた。


タイムギフト


雨の日を、ゆっくり過ごせた。


手帳を閉じる。


カズトはゲームソフトを棚へ戻す。


今度は「積みゲーム」ではない。


「また遊ぼう」と思えるゲームになった。


雨は止み、雲の切れ間から月が顔をのぞかせる。


カズトは小さくつぶやく。


「今の俺、結構好きかも。」


その言葉は、誰に聞かせるでもなく、静かな部屋に溶けていった。

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