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チャームワールド  作者: 恋塚隆之


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24/26

#24 笑顔

休日。


カズトは街の市場を歩いていた。


今日は工房も休み。


時計を見る。


ストップウォッチは押していない。


急ぐ理由もない。


パン屋から焼きたての香りが流れてくる。


広場では子どもたちが遊んでいる。


カズトは自然とスケッチブックを開いた。


タッチペンを持つ。


三分。


風景を描く。


子どもたち。


噴水。


犬の散歩をする老人。


上手ではない。


でも。


描いている時間が好きだった。


「上手になったわね。」


聞き覚えのある声。


振り向く。


クレアだった。


「あ。」


クレアはスケッチを覗き込み、微笑んだ。


「旅はどう?」


カズトは少し照れ笑いを浮かべる。


「……一回帰ってきちゃいました。」


「知ってる。」


「ユキジから?」


「あなたのお母さんから。」


二人は笑った。


近くのベンチに座る。


カズトは少し恥ずかしそうに話し始めた。


工房のこと。


ユキジのこと。


コロマルのこと。


五色手帳。


オラクル。


スケッチ。


キャッチボール。


親方に叱られたこと。


話しているうちに、自分でも驚くほど言葉が出てきた。


クレアはただ静かに聞いていた。


話し終えると、クレアは優しく笑った。


「ねえ。」


「はい?」


「あなた。」


少しだけ目を細める。


「笑顔、増えたよ。」


カズトは一瞬、言葉を失った。


「え……。」


「最初に会った時はね。」


「あの魔法を見ている時だけだったの。」


「目が輝いていたのは。」


クレアは続ける。


「でも今は違う。」


「スケッチを描いている時。」


「ユキジの話をする時。」


「親方の話をする時。」


「オラクルのことを話す時。」


「全部、同じ笑顔。」


カズトは自分の頬に触れた。


そんなつもりはなかった。


でも。


そうなのかもしれない。


クレアはゆっくり市場を見渡す。


「覚えてる?」


「あの日。」


「あの魔法を見て。」


「あなた、『魅せられるものを探したい』って顔をしてた。」


カズトは静かに頷く。


「……はい。」


「見つかった?」


少し考える。


長く考える。


そして。


「まだ……。」


そう答えかけて。


言葉が止まる。


視線が自然と周りへ向く。


市場の笑い声。


パンの匂い。


子どもたち。


スケッチ。


手帳。


ガーネット。


オラクル。


時計。


工房。


ユキジ。


コロマル。


母。


親方。


全部。


頭の中を流れていく。


クレアは微笑む。


「本当に?」


その一言で。


カズトは気づいた。


「あ……。」


小さく笑う。


「探してばっかりでした。」


「そう。」


「もう、囲まれてた。」


クレアは嬉しそうに頷く。


「魅せられるものって、一つじゃないの。」


「毎日の中に、少しずつあるものよ。」


帰り道。


夕日が街を赤く染める。


カズトはクリスタルを開く。


今日のスケッチを保存する。


タイトルをつける。


『笑顔』


オラクルが尋ねる。


「タイトルの理由を教えてください。」


カズトは歩きながら答える。


「今日はさ。」


「初めて、自分が笑ってるって教えてもらった。」


オラクルは静かに記録する。


「保存しました。」


ガーネットは夕日に照らされ、穏やかに輝いていた。


エンディング


夜。


五色手帳を開く。


ハッピーギフト


クレアさんに


「あなたの笑顔、増えたよ。」


と言われた。


その一文を書いたあと。


カズトは少し照れくさそうに笑った。


その笑顔は、もう誰かに見せるためのものではない。


自分自身が、今という毎日を大切に思えているからこそ生まれた笑顔だった。

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