#21 変わる立ち位置
「出ろ」
ユキジは唐突に言った。
放課後。
公園。
キャッチボールの途中だった。
カズトはボールを受け取りながら聞き返す。
「……何に」
ユキジがクリスタルを見せる。
そこには告知。
義務教育卒業生同窓会
第一回アームレスリング大会開催!
カズトが真顔になる。
「嫌だ」
即答だった。
ユキジが笑う。
「早ぇよ」
「いや絶対変な空気になるだろ」
「なるな」
「なるのかよ」
ユキジはボールを投げる。
シュッ。
「でも出ろ」
パシ。
カズトが受ける。
「なんで」
ユキジは少し真面目になる。
「お前さ」
「“立ち位置”まだ学校のままだろ」
カズトの動きが止まる。
ユキジは続ける。
「変わってんだよ、お前」
「でもお前自身が更新できてない」
風が吹く。
カズトは黙る。
「別に優勝しろって言ってねぇ」
ユキジが笑う。
「一勝しろ」
同窓会当日
体育館。
懐かしい顔。
騒がしい声。
笑い。
昔のクラスメイトたち。
カズトの心拍数が上がる。
オラクルが言う。
「緊張状態を確認」
「分かってる……」
視線が気になる。
昔を思い出す。
パン。
トイレ。
笑い声。
胸が少しざわつく。
ガーネットがわずかに曇る。
「おーカズトじゃん」
声。
振り返る。
昔のクラスメイト。
意外と普通だった。
「久しぶり」
「あ、ああ……」
拍子抜けする。
全員が敵みたいに感じていた。
でも。
そうでもない。
大会が始まる。
簡易テーブル。
腕相撲。
歓声。
笑い声。
完全にイベントだ。
ユキジが背中を叩く。
「行け」
カズトは前へ出る。
対戦相手は。
昔、同じクラスだった男子。
いじめグループではない。
だが運動部で強かった。
「よろしく」
相手が言う。
カズトは少し驚く。
「……よろしく」
手を組む。
ゴツ。
昔より、自分の手が大きい。
開始。
「スタート!」
力がぶつかる。
ギリギリ。
重い。
だが。
カズトは気づく。
昔より踏ん張れる。
毎日の素振り。
工房の仕事。
積み上げ。
全部、腕に残っている。
「……っ!」
押す。
少し。
さらに押す。
バン!!
相手の手が机についた。
一瞬、静かになる。
「……え」
カズト自身が一番驚いていた。
周囲がざわつく。
「カズト勝った?」
「マジで?」
相手が笑う。
「強くなってんじゃん」
カズトは息を切らしながら固まる。
強くなってる。
自分が。
本当に。
その後。
二回戦で普通に負けた。
めちゃくちゃ負けた。
ゴリ押しで吹き飛ばされた。
だが。
悔しさより先に。
笑いが出た。
「無理だろあれ!」
会場も笑う。
ユキジが腹抱えてる。
「だから一勝って言ったろ!」
帰り道。
夜風。
体育館の灯りが遠くなる。
カズトは歩きながら言う。
「……なんか」
少し考える。
「立ち位置、変わった気がする」
ユキジが笑う。
「変わったんじゃねぇよ」
「更新されたんだ」
カズトは時計を見る。
秒針。
カチ。
カチ。
カチ。
昔の自分なら。
来なかった。
逃げてた。
でも。
今日はいた。
笑ってた。
負けてた。
話してた。
オラクルが言う。
「本日のハッピーギフト候補、多数」
カズトが笑う。
「多いな今日」
ガーネットを見る。
赤い。
綺麗に澄んでいる。
カズトは小さく息を吐く。
学校時代。
最低だった。
でも。
全部が終わったわけじゃない。
“今”は更新できる。
夜空を見上げる。
その顔は。
少しだけ。
前を向いていた。




