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チャームワールド  作者: 恋塚隆之


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20/26

#20 クリスタル手帳術

休日の朝。


カズトはまだ寝ぼけていた。


髪は跳ねている。


するとクリスタルが震えた。


ユキジからのメッセージ。


【今日ヒマか】


【セミナー行くぞ】


カズトは顔をしかめる。


「……セミナー?」


数時間後。


街の小ホール。


入口には看板。


クリスタル手帳アプリ術セミナー


カズトは完全に場違いな顔をしていた。


「俺こういうの苦手なんだけど……」


ユキジが笑う。


「お前に必要だから来たんだよ」


中に入る。


意外と人が多い。


学生。

商人。

冒険者。

主婦。


みんなクリスタル端末を持っている。


前方の講師が言った。


「皆さん、“記録”していますか?」


カズトの耳が少し動く。


「人は忘れます」


「だから記録するんです」


カズトは少し真剣になる。


講師が画面を表示する。


色分けされた手帳画面。


「今日は“五色管理”を紹介します」



画面が赤く光る。


☆赤:注意や大事な事


「締切、重要事項、忘れてはいけないこと」


カズトは頷く。


確かに必要だ。



☆青:仕事・勉強


「努力の可視化です」


その言葉にカズトが反応する。


努力の可視化。


それはもう、自分がやってきたことだった。



講師が笑う。


☆緑:楽しい事


「ここ重要です」


「楽しいを管理しない人ほど、燃え尽きます」


カズトの動きが止まる。


ユキジが横目で見る。


「聞いてるか?」


「……聞いてる」


かなり刺さっていた。



☆紫:この先身になる事


「今すぐ成果がなくても未来の糧になること」


カズトはスケッチを思い出す。


キャッチボール。


呼吸法。


全部ここかもしれない。


オレンジ


最後に。


画面が柔らかい色になる。


☆オレンジ:一日のギフト


講師が静かに言う。


「これは、一番大事です」


ハッピーギフト


今日、精神的によかった事


マネーギフト


今日、お金関係でよかった事


タイムギフト


今日、時間の使い方で充実した事


カズトは少し目を見開く。


ギフト。


“もらったもの”として記録する。


講師が続ける。


「人は不足ばかり見ると壊れます」


「だから、“既にあるもの”を記録する」


カズトは黙って聞いていた。


かなり真剣に。


帰り道


夕方。


街を歩く。


ユキジがニヤニヤしている。


「どうだったよ」


カズトは少し考える。


「……なんか」


「自分、偏ってたかも」


ユキジが笑う。


「知ってた」


カズトはクリスタルを開く。


手帳アプリ。


色分け設定。


赤。


青。


緑。


紫。


オレンジ。


オラクルが言う。


「新しい管理方式を確認」


カズトは言う。


「……ちょっとやってみる」


その夜。


カズトはベッドの前で、初めて“五色”を書いた。


☆赤

・工房提出日確認


☆青

・剣素振り300回

・スケッチ30分


☆緑

・ユキジとセミナー

・キャッチボール


☆紫

・時計のタイマー運用改善

・構図練習


☆オレンジ


ハッピーギフト

・久しぶりに笑った


マネーギフト

・昼飯を安く済ませられた


タイムギフト

・誰かと時間を過ごした


書き終える。


カズトはしばらく画面を見る。


なんだろう。


少しだけ。


人生が整理された感じがした。


ガーネットが静かに光る。


赤く。


穏やかに。


オラクルが言う。


「精神状態、安定傾向」


カズトは笑う。


「最近そればっか言ってるな」


オラクルは答える。


「以前が不安定すぎました」


「ぐっ……」


反論できなかった。


窓の外。


夜風が吹く。


秒針が進む。


カチ。


カチ。


カチ。


カズトは手帳を閉じる。


そして思った。


努力だけじゃない。


楽しいも。


休みも。


嬉しかったことも。


ちゃんと積み上げていいんだと。


少しずつ。


本当に少しずつ。


カズトは、“生き方”を覚え始めていた。

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