#17 大馬鹿野郎
夕方。
カズトは庭にいた。
コツン。
パシ。
コツン。
パシ。
白い三ツ星の玉が壁に当たり、返ってくる。
カズトはそれを受ける。
また投げる。
「コロマル、もうちょい右」
コツン。
少しズレる。
「お、ナイス」
パシ。
夢中になっていた。
一人なのに。
少しだけ楽しかった。
家の窓。
その向こうで。
母が静かに見ていたことを、カズトは知らない。
夜。
部屋。
カズトは机に向かっていた。
手帳を開く。
今日の記録を書こうとした、その時。
クリスタルが震えた。
着信。
画面を見る。
カズトの呼吸が止まる。
幼馴染
指が固まる。
心臓が跳ねる。
オラクルが言う。
「心拍数上昇」
カズトは慌ててクリスタルを取る。
少し迷って。
通話を開いた。
「……も、もし」
その瞬間。
向こうから怒鳴り声。
「この大馬鹿野郎!!!!」
カズトが硬直する。
「へ?」
「へ?じゃねぇ!!」
男の声。
聞き慣れた声。
昔、一緒に走り回っていた頃の声。
幼馴染だった。
「お前なぁ!!」
「なんで連絡してこねぇんだよ!!」
カズトは言葉が出ない。
幼馴染は続ける。
「おばさんから聞いたぞ!」
「庭で一人で壁相手にキャッチボールしてるって!!」
カズトの顔が熱くなる。
「ち、違……」
「違わねぇだろ!!」
完全にバレていた。
数秒、沈黙。
そして。
幼馴染の声が少しだけ落ち着く。
「……カズト」
「お前さ」
「昔から内に構えすぎなんだよ」
カズトは黙る。
言い返せない。
「一人で抱え込んで」
「一人で耐えて」
「一人でなんとかしようとして」
「勝手に限界になる」
その言葉が、胸に刺さる。
「お前、内向的になりすぎてる」
「もっと人頼れよ」
カズトは小さく言う。
「……でも」
「でもじゃねぇ」
少し間。
そして。
幼馴染は、呆れたみたいに笑った。
「寂しいって言えよ」
カズトの喉が止まる。
その言葉。
ずっと言えなかった。
認めたくなかった。
でも。
今。
胸の奥が熱くなる。
「……っ」
視界が滲む。
カズトは顔を押さえる。
幼馴染が慌てる。
「お、おい!?」
「泣くなよ!!」
カズトは笑いながら泣く。
「……うるせぇ」
「うるせぇじゃねぇよ!」
向こうも少し笑っていた。
「今度キャッチボール付き合ってやる」
カズトが息を止める。
「……ほんとか」
「ほんとだよ」
幼馴染は言う。
「壁相手ばっかしてっと、コロマル嫉妬すんぞ」
カズトが固まる。
「なんでその名前」
「おばさん情報」
「母さん……」
二人とも笑う。
少しだけ。
昔みたいに。
通話が終わった後。
部屋は静かだった。
でも。
前の静けさとは違う。
カズトはクリスタルを胸に抱える。
ガーネットを見る。
赤く。
綺麗に澄んでいた。
オラクルが言う。
「精神状態、極めて安定」
カズトは小さく笑う。
「……そうかもな」
窓の外。
庭の壁が見える。
コロマル。
今日もそこにある。
でも。
次は。
誰かと投げられる。
カズトは手帳を開く。
書く。
【今日分かったこと】
寂しい時は
寂しいと言っていい
秒針が進む。
カチ。
カチ。
カチ。
その音はもう。
孤独の音じゃなかった。




